見出し画像

マーケ業界における人の成長ステージ考察etc.

「次は、どんな本を読めばいいですか?」

「次は、どんな知識を身に付ければ人材として価値が上がりますか?」

ブランドやマーケティング業界の方で、ご自身のキャリアアップに関心がある方から聞かれる定番の質問です。

マーケティングというのは、事業会社側にいると4P施策満遍なく実施されているのを社内の出来事として見渡しやすいのですが、外部支援側の企業、つまり、広告代理店、クリエイティブ、コンサル会社、調査会社、メディアなどに身をおいていると、そのなかの一部分を切り出した仕事ばかりに繰り返し触れることが多くなり、視界が狭くなりがちです。

また、そもそも外注される側の産業規模として、日本では特にマーケティングの「プロモーション」領域だけが圧倒的に大きいため、どうしても広告・PRコミュニケーション領域以外に目が向きにくい罠もあるようです。

この手の質問をいただいたとき、私も質問者の方の現在のステージを理解したうえで、次のステップを共に考えるのですが、同じように悩んでいる方も多いと仮定し、少し私の頭の中のステージ分けをブログに書いてみます。

ステージ1~5まで、超ざっくり(笑)ですが、ご笑覧ください。

---
ステージ1 専門用語~概念の基礎理解
すべきこと
:とりあえずマーケティングの専門用語の意味を理解する
目指す状態:専門用語の混ざったコミュニケーションの文脈理解に問題がない

このステージにいる平均的な人物像は、とりあえず新卒1年目です。まずは、教科書的な本を読んで覚えつつ、正しい議事録が書けることを目指すのが当面のゴール。(話した順番のままに書くのではなく、論点ごとに整理し直し、次の検討事項~アクションがわかりやすくするのは案外難しいものです。議事録は、理解のレベルが露呈しますし、訓練としても優れた実践タスクです)

入門編として、説明がキャッチーで簡単な教科書から入っても良いのですが、たとえ難解で意味がわからなくても、基礎的な大御所の古典の書籍に目を通しておくのもおすすめです。後になって、深い意味が腹に落ちることが沢山ありますので、その時のためのインプットとして。

-----

ステージ2 部分的な業務の実践~習得
すべきこと
:専門用語の定義を自分なりに咀嚼、実践、適切に説明できる
目指す状態:上位者の監修に基づき、部分的な仕事が担える

このステージにいる平均的な人物像は、マーケティング業務について半年~1年程度経った方です。このステージで重要なのは、教科書で学んだ専門用語~概念と、自分の目の前で起きている事象や仕事のタスクとの結びつけです。専門用語を知っているだけでなく、それを他者に自分の言葉で実感をもって説明できるように日々繰り返しトライアンドエラー。

-----

ステージ3 マーケティングの中での特定専門領域の確立
すべきこと
:特定領域の案件を責任者(プロジェクトマネジャー)として数多く担い、自分なりの経験に基づいた専門領域での独自見解~知見を持つ
目指す状態:事業会社なら特定担当領域で頼りにされる責任者、外部支援側なら企業の担当者レベルの相談相手として信頼される存在

このステージの平均的な人物像は、マーケティングの中の特定領域(例:商品・サービスの企画業務、ネット広告、SEO、アプリ、デザイン、ソーシャルメディア、通販の販促、CRMなどなど)に関しては、その領域のトレンドを理解し、実務を担うことができ、社内外から頼りにされる存在。要領が良く、早い人だと2~3年の経験で、このステージの入口にたどり着くようなイメージでしょうか。
別に、業界や世の中で個人として広く知れ渡ることは必須ではないですが、(それは実力以外にSNSや業界紙での露出などPRの努力も必要なため)、自分の仕事に触れている周囲からはプロとして評価され、転職で声がかかる程度がこのステージにおける一定の目安です。

ちなみに、このステージまで来て、ある程度専門領域に精通してきたときに、マーケティングの大御所が書いた古典を読みなおすと、自分なりの再発見があり、咀嚼を深める良い経験になると思います。

私も、このステージで古典の教科書を読みなおし、その深さを初めて理解できたひとりです。

-----

ステージ4 ブランド・マーケティング全体の連携~統括力の習得
すべきこと
:ブランド戦略とマーケティング4P施策(商品・サービス企画、プロモーション・PR、店頭・接客、プライシング)の連携~最適化の習得
目指す状態:事業会社なら事業部門~マーケティング部門で成果を出すトップ、外部支援側なら事業部門~マーケティング部門トップからの相談相手として指名~信頼される存在

このステージからは、ひとつの専門的業務視点からの判断ではなく、複合的なマーケティング全体視点からの判断となり、企業内であれば管理職相当、外部支援側の企業であれば、そもそもそれがクライアントから求められていない会社のほうが増えてくるステージです。(事業会社の多くは、デザイン会社には価格設定の相談はしないですし、広告会社には商品企画の相談は積極的にしないケースが多いです。)


求められる能力のポイントは、、、
・ブランド戦略(パーセプション)を策定し、それに沿ってマーケティング4P施策全体に一貫性を持たせるディレクション力
・マーケティング4P施策の中でも特に力を入れるべきKSFの見極め力
(例:そもそもパッケージデザイン見直しに投資すべきか、その投資分も販促施策に寄せて積み増したほうが良いかの判断など)
・自分に欠けた専門領域を理解し、適切な専門家にアクセスする見極め力
というあたりです。(まったくもってMECEではありませんが、ひとまずステージ4になって重要度が高まるものの代表例としてご理解ください)

そもそもの大前提として、マーケティングのすべての領域の細部を知り尽くした専門家など存在しません。(少なくとも私はお目にかかったことがありません)
つまり、このステージで機能する人になるには、マーケティング推進上で必要なブランドとマーケティング全体最適の戦略を描き、実行するうえでのタスクと専門性の全体マップを描いたうえで、「自分や部下の専門知識で担えないことは何か?」という欠けている領域を理解し、外部から適切に調達する力です。あとは、事業会社内で意思決定をまとめあげる論理的な説明力やら、政治的な立ち回りと根回しも必要です。

もちろん全体像の設計するうえで、全ての領域を理解するだけの基礎知識は必要です。デジタルマーケティングに最低限の理解がなければ、自社のマーケティングでどのようにデジタルを適用すべきかの勘所もつかめず、適切な相談相手すら選べません。そのような最低限の全体的な基礎知識は持つつつも、自分の専門領域に欠けたものは何かしら補えるプロフェッショナルなマネジメントが求められます。

-----

ステージ5 ブランド・マーケティングの隣接経営領域との連携~統括力の習得
すべきこと
:組織~業務プロセスの設計、ファイナンス~投資計画の策定など、ブランド~マーケティング実行に関連する隣接領域の連携~最適化の習得
目指す状態:事業会社なら業績を高められるCMO~経営層(大手企業なら事業部門トップ)、外部支援側なら経営トップからの相談相手として指名~信頼される存在

このステージで求められるのは、もはや「経営能力そのもの」です。ブランド・マーケティングを推進するには、当然ながら、それに最適な組織・業務・風土の設計も必要ですし、投資する以上は、リターンも踏まえた、現実的な投資計画も必要です。いわゆる事業戦略や経営戦略という、人・モノ・金の資源配分という、より上位の文脈の中で、ブランド・マーケティングのあり方を最適化せねばなりません。
さらに言えば、「そもそも、今期はマーケティング投資よりも、組織カイゼンに投資するほうが経営として優先順位が高い」とか「ブランドAとブランドBに満遍なく予算投下するより、今期はブランドAに投資を集中させよう(ブランドBの担当者には泣いてもらうが、踏ん張ってくれ!)」という、投資の優先度や序列の経営目線で判断ができることも求められます。

------

汎用的に書いたため、概念的な言葉が多くて恐縮ですが、うまく伝わったでしょうか?(夜中の書きなぐり文章のため、少し不安です^^;)

マーケティングのプロとしてのキャリアを考えた時、このステージ1から3においては、専門領域の選択以外に迷う要素は少なく、まずはステージ3の何かしらのマーケティングの専門領域を確立した「狭くても深いプロ」を目指すのが王道です。

そもそも、そこで、一定の評価を得るプロになるのも、非常に大変なことです。ステージ3を極め、業界内で名が知られるスターというのも、ある種のゴールといえます。

ステージ3のスペシャリストとして究めることのメリットは、領域が明確なだけに、専門家としての旗を立てやすいことです。ただ、逆にリスクとなるのは、その専門領域そのものがコモディティ化~陳腐化したとき、自身の市場価値が暴落する可能性があることです。また、特にコミュニケーションの業界は、プレイヤーが多いため、そこで際立つ存在になるには競争倍率も激しいです。

ステージ4以降に進むことのメリットは、能力要件がより汎用的な経営能力に近づくため、知識の陳腐化速度が遅く、加齢することが必ずしも不利ではないことです。デメリットは、汎用的すぎる能力のため、外部からはその優劣がわかりにくく、専門家としての旗を立てにくいことです。(事業会社側からすると、そもそも、その領域は外注支援を依頼すべきこと?という疑問も発生するのが常です)


ということで、中堅どころの大きな分岐点(年齢的にはざっくり30代がその岐路でしょうか)は、ステージ3である程度のレベルに来た時、そのまま自分の専門領域を極めていくのか、ご自身の専門領域が陳腐化しそうな流れのときに、次に波が来る専門領域を探して学び、また違う専門領域のスペシャリストとなるのか、ステージ4のマーケティング全体マネジメントで価値を発揮する方向に行くかで皆さん大きく迷われていたり、そもそもステージ4以降の道筋がよく見えてない不安や閉塞感もあったり。

ちなみに外部支援側の企業の多くは、自社の専門性~ポジショニングを明確にするため、マーケティング支援サービスの専門領域が特化していることが多く、それが個人のキャリアとして専門領域の変更~拡張や、ステージ4に進むことを本気で考えた時のボトルネック要素になることも。

その能力を伸ばす環境としてベストではないという要素だけでなく、仮に、その能力があったとしても、その会社の◯◯専門というブランドイメージ故に、他の領域の仕事を獲得しにくかったり、フィーをチャージしにくかったり。(そもそも、日本の市場では、総合広告代理店が圧倒的に強者のため、事業会社からすると、何かの特定領域に圧倒的な強みがなければ、わざわざ独立系のマーケティング支援会社には仕事を出さないという現実もあり、外部支援側の企業は強みに特化させていく力学がはたらいています)

そしてステージ3→4のシフトと同じように、ステージ5の経営視点からのにシフトするのも、必要とされるスキルだけでなく、事業会社であれば社内でのポジション~権限も大きなジャンプが必要であり、これもキャリアの分岐点となります。(このシフトは40歳前後くらいに岐路がやってくる印象です)

ステージ5では、ブランド・マーケティングも、事業を成長させるうえでの、あくまでもひとつのツールです。でも、そのツールを熟知した経営層は意外に少ないため、ブランド・マーケティングを知り尽くしながら、その他の経営テーマとしっかり連携させられる人材は、非常に希少性の高い存在です。

(ちなみにステージ3の現場実務を知らずにすっ飛ばしてステージ4から学習するのは必ずしもNGではありませんが、ステージ3の実務を知らなさすぎると、上滑りな戦略論ばかり言う頭でっかちになりがちなことにご留意を!)

---

私が個人的に感じている問題意識は、日本国内において、このステージ3→4、ステージ4→5のロールモデルの絶対数が足りない。そして、特にステージ4→5に行くほど適した教科書(マーケティング視点を軸に、他の経営機能との連動するのりしろ部分を体系的に書かれたもの)も非常に少なく、その道筋が見えにくいことが、マーケティング界隈のビジネスパーソンのキャリア的な閉塞感につながっているように見えることです。
(ステージ3のスペシャリストのロールモデルは、各領域に素晴らしい方が存在し、業界メディアでの露出も多く、イメージしやすいように感じますし、教科書的な書籍や事例も沢山世の中に流通しています。)

ステージとして書いてしまうと上下があるように感じさせてしまいますが、目指すものが3を極めたスペシャリスト志向か、よりマネジメント志向の4~5か、その選択には優劣はなく、事業会社にも、外部の支援側の業界にも、両方の人材が必要ですし、ご自身のモチベーションや向き不向きも重要な要素です。

しかし、各領域の専門家の数に比べ、マーケティングをマネジメントできる人、経営視点からブランド・マーケティングを組み立てて推進できる人の絶対数は、少なくとも国内では明らかに足りていない、というのが、私の実感値です。

その能力を証明するのは大変難しい領域ですが、いちど能力があると認められれば、非常に希少性があり、事業会社からも、外部支援側の企業からも重宝される存在になるのは間違いありません。

私が代表を務めるインサイトフォースは、そのステージ4~5アプローチの支援をさせていただく仕事に恵まれた環境ですが、求められるハードルが高いだけにいつも悪戦苦闘しております。(しかし、非常にチャレンジし甲斐のある仕事で、私にとっては、極められる感触もないですが、飽きることもありません)

ということで、なんだか長ったらしい中途半端なPRのポジショントークみたいな〆になってしまいましたが、上記の問題意識に嘘偽り無しです。

-----

最後に、冒頭の「次にどんな本を読めばいいですか?」という質問に戻ると・・・

ステージ1~2 古典をはじめマーケティングの網羅的な基礎本

ステージ2~3 自分の領域の専門書を徹底的に多数読み込む

ステージ4 マーケティングの古典を読み返して再咀嚼する

ステージ5 マーケティング系よりむしろ経営~事業戦略系の本と、その他、組織や財務などの隣接領域の本で知識調達

が私の標準的な解答でしょうか。

上記に付け加えると、書籍を読む量も重要ですが、読んだ内容を自分の業務に応用してみて再咀嚼する実践の数のほうがよほど重要に感じます。

100冊読んで実践応用0より、10冊読んで実践応用10の人のほうが伸びます、間違いなく。(そもそもブランド・マーケティングの領域は、ITテクノロジーの影響が大きな領域は変化が激しいですが、古典的な戦略論はそこまで大きな変化はなく、ある程度の冊数の本を読んでおけば、内容の7~8割は読んだことのある話と被ったり、言葉だけ少し変えた焼き直しです)

勉強インプットが好きなのは素晴らしい資質ですが、ビジネスパーソンとして成果を出すには、インプット過多にならず、実践応用に取り組む場数が大切と感じます。

-----

インサイトフォースとしては、クライアント企業の業績を高めることへの貢献だけでなく、国内のブランド・マーケティングのレベルアップへの貢献という壮大な裏ミッションも掲げておりまして、微力ながらステージ4~5の人を増やすことにも地道に貢献していきたいと思っております。

ブランド・マーケティングの基礎的で普遍的な考えをより深く知りたい!と思った方は、手前味噌ですが、拙著「プラットフォームブランディング」をどうぞ。(PR!)

このブログで言うところの、ステージ4目線中心に整理しつつ、ステージ3の生々しい実務的な推進にも触れて書いている本です。

P.S

他の専門業界においても、おそらくスペシャリストからスーパージェネラリストへのシフトチェンジをするか否かの迷いはあるでしょうし、その難しさも同様で、汎用的な話だと思います。
読者の方で異なる業界の方であれば、マーケティングをご自身の◯◯に脳内変換してみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?