DAO型合同会社の設計1

日本で多数の方からの出資の募集をする場合には、金商法等の規制を受けるため、この規制を回避するために合同会社を用いること及びDAOという特性をどう法人の設計に反映させるのかについての問題を整理しました。なお、ここでいうDAO型合同会社とは、DAO的な運営がされるものを広く含む意味であり、DAOそのものが法人格を有しているか否かやトークン・スマートコントラクトによる運営の自動化をしているか否かを問わず、DAOの活動を現実世界に反映させるために合同会社を利用する程度の意味としています。

また、2022年7月初旬現在の一部報道により、合同会社設立に際して社員の募集をする場合には金商法上の規制が及ぶことになるようですが、内容が明確ではないため、本稿では考慮していません。

【1】集団投資スキーム(collective investment scheme)規制の概要

(1)該当性

・金銭出資の要件、事業の要件、収益配当・財産分配可能性の要件

つまり集団投資スキームとは、複数人で出資し、その資金で事業を行い、事業の成果等に依存して配当を受けられるものであるということになる。それぞれの要素について、もう少し詳しく解説すると、以下の点で留意が必要となる。

cf.日本で金商法制定時に参考にされたハウイ事件最高裁判決 金銭出資の要件、共同事業(common enterprise)の要件、利益を期待するという要件、その利益が他者の努力に依存するという要件

・共同事業の要件に関する3つの説

1.複数の投資者の資金をプールし、各投資者の利益が他の投資者の利益と相関する

2.運営者と出資者が成功・不成功の運命を共にする

3.投資者の運命ないし投資の成否が運営者の知識経験に依存する

・集団投資スキーム持分の適用除外(金商法2条2項5号イ、金商法施行令1条の3の2)

全員が業務に常時従事すること又は特に専門的な能力者として出資対象事業に欠くことのできないものを発揮して従事すること

「他の法律に基づく規制を受けていること等により、当該権利を有価証券とみなさなくても公益・出資者保護に支障を生ずることがないと認められるもの」については、合同会社の場合は該当しないと考えられる。

【2】DAO型合同会社の概要

(1)設計の検討点

a.社員をすべて業務執行社員とするか、業務を執行しない社員と業務を執行する社員に分けるか

少なくとも業務を執行しない社員の募集は集団投資スキーム持分の適用除外に当てはまらず、自己募集に該当するおそれ

業務執行社員にする場合、社員の地位の変動(加入、脱退、代表社員変更等)が多くなると管理コストが高くなるおそれや、全員がDAOの決定に基づいて行動しても善管注意義務を負うという業務執行上のリスクを負うことになる

cf.COALAのモデル・ローでは、DAOの決定に基づく業務執行については、業務執行者はduty of care(善管注意義務。但し日本と概念ないし解釈が異なる)を負わないものとされる

日本では忠実義務も善管注意義務も同じとされるが、英米法の場合、少なくとも英国や米国では"duty of care" "duty of loyalty" "duty of good faith" は異なる義務と解されているため、この辺りの理解は更に解釈を深掘りしないとどこまで義務が免除されるという意味かは議論できない

b.社員の脱退

脱退時の払戻し権の制限

濫用的な払戻し、又はこれを利用した内部支配などの懸念をどう抑えるか

定款自治との関係(直接的な裁判例はないが、完全な排除は会社法の趣旨、原理原則に反するのではないかとの懸念や、出資という目的に対する投下資本の重要な回収方法が失われるというデメリットが生じるため、ある程度は制限するが完全には制限しないという方がよいと思われる。)

相続や一般承継に関する問題(好ましくない法人が合併等により強制的に取得できてしまう可能性もある。)

c.金銭や財産の管理方法

合同会社という小規模な法人形態を想定したもので、多額の資産を管理できるようなガバナンス体制はあるのか

代表社員による暴走や横領の問題をどう回避するのか

cf.代表権に加えた制限は善意の第三者に対抗できない(会社法第599条第5項)

仮に代表権を制限できたとした場合、代表社員は権限は制約されるが代表者としての責任(善管注意義務)は全面的に負うということになる

d.社員の入社審査

どのような要件及び基準で入社できるか

人数が増えた場合、総社員の同意は現実的ではない

また、人数の増加ペースも含め基準が機能しないとコミュニティとして機能しなくなるおそれもある

e.重要な行為をどのように考えるか

社員の入社以外の重要な行為について、業務執行上の重要な行為と法人の基礎に関わる重要な行為をどう整理して、どのような要件とするか

業務執行上の重要な行為の例…多額の借財、代表社員の変更等

法人の基礎に関わる重要な行為の例…定款変更、社員の加入、解散、合併等

e.DAOの位置づけ

DAOは法人そのものであり法人の社員間の運営形態の方法を指すのか、それとも社員についての定めと別でDAOが存在し、社員はDAOの決定等に拘束されるのか(別の言い方をすれば、DAOの構成員は社員である必要があるのか。また、DAOの決定は社員の決定そのものであるのか。)

仮にDAOが法人そのものであるとすると、社員権をトークン化したものにすると金商法上の電子記録移転権利に該当してしまう可能性が高いと考えられる。電子記録移転権利とは、金商法改正(2019年6月7日公布の「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」)により新設されたもので、いわゆるセキュリティ・トークンの規制の一種として定められた概念。

cf.COALAによるモデル・ローの考え方

(2)会社法以外の論点・現実の運営

社員間契約の要否、内容

社員間の実際の接点が少ない会社組織をどう運営するのか

従業員や業務委託者はどうやって管理するのか

少額の現金支出等の自動化できないコストが多すぎる場合はどうするのか(法人の場合は色々と現実のコストが発生する。)

→代表社員になる者(おそらく法人)が全般的に代行して最終的に金銭やトークン等で精算することも考えられるが、非中央集権的要素が弱くなるのではないかとも考えられる

【3】DAOの運営に関わるトークンの設計の検討点

法定通貨建にすると電子的支払手段の該当性(改正資金決済法)

単なるガバナンストークンのみの発行とするのか

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