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新婚旅行最終回 『他力本願な旅』

 ラビスタ函館ベイで迎えた北海道最後の朝は、驚くほどの御馳走からスタートした。朝から海鮮三昧。寝ぼけていてスマホもカメラも持って行かなかったことが今でも悔やまれる。それぐらい、写真でぜひ皆さんにも見てもらいたいほどのご馳走だった。でも写真では味は伝わらないからまあいいか。
 昨夜耳に挟んだ台風情報。どうも今夜から翌日にかけて東北地方から北海道に接近するとのこと。最後まで何が起きるかわからないのもまた旅の醍醐味である。なんといっても今夜はフェリーで北海道から関西に戻るのだ。台風ともろにすれ違うことになったら欠航は間違いない。台風の進路と船の運行情報を気にしながら、ひとまずは予定通り北海道最後の目的地である小樽へと向かった。
函館から列車で五時間半。飛行機が飛んでいる距離というのもなるほどうなづける。オルゴール堂の最寄り駅である南小樽に着いた頃には、もう日が西に傾き始めていた。
 オルゴール堂では今回の新婚旅行の記念に自分たちへのお土産も購入した後、道の向かい側にあるルタオ本店で一休み。いや、休むほどのことは何一つしていないのだが…。
幸いにも台風は北海道手前で太平洋側に抜けるらしい。苫小牧から出港する太平洋側の航路は全滅だったが、間一髪我々が乗る日本海側の便は昼過ぎになってようやく予定通りの出港が決まった。
このままフェリーまで小樽で時間をつぶしても良かったのだがまだ時間もある。そこでまたしても我々の食い意地が発動。いったん札幌に戻り、初日に食べそこなった味噌ラーメンを食べてこの北海道の旅を締めくくることにした。
 味の時計台駅前通り総本店。ここは僕が北海道に来たら必ずといっていいほど立ち寄る店だ。以前は札幌駅前にもチェーンを構えていたのだが、数年前に閉店して今はこの総本店が札幌駅からは一番近いところになっている。十分ほど歩くことにはなってしまったが、それでも歩いて食べにいく価値はあると思う。
コーンがたっぷり入った味噌バターラーメンを、特有の網のスプーンで最後の一粒まですくって食べながら、もう残り数時間になった北海道滞在を最後の最後まで満喫した。
 小樽港を23時30分に出港したフェリーは、約22時間かけて京都府にある舞鶴港へ向かう。北海道の旅はこれで終わり、といっても家に着くまでまだ丸一日かかるのだ。
おかげでゆっくり現実に戻っていく心の準備ができる。飛行機でたったの二時間足らずで戻されてはたまったものではない。
フェリーではただただ何もせずにだらだらと過ごした。好きな時に風呂に入り、気が向いたらテラスで海の風を感じ、眠くなったら昼寝をし…。たっぷりあると思っていた乗船時間もあっという間に過ぎ、舞鶴港へと無事帰ってきたのだった。
 全盲夫婦であちこち旅行をしている話などをすると、驚かれることが多々ある。その度に必ず言うのは、我々の旅は常に他力本願であるということ。
二人だけの力でなんておこがましい。常に誰かの手を借りて旅をしている。名前も知らないたまたま出会った人に全国をリレーしてもらっているのだ。その感謝はいつも胸にしみる。
ただそこで、毎回毎回感謝感謝と連呼するのも違うと思う。何か別の形でそれを表現できる方法はないかと考えた結果、今回の動画企画をするに至った。
僕は別にユーチューバーになりたいわけではない。ただこうして本当に多くの方に支えられているというありのままの姿を見てもらうことで、たまたま出会った人との間に生まれた暖かいやり取りを多くの人にも届けられるのではないかと考えたからだ。
それが我々なりの感謝を伝える一つの形だと思っている。
 これからどんな楽しいことをしていこうか。僕が昨年陸上競技をやめて心にも時間にも余裕ができて、何気ない食卓でそんな話をする機会が増えた。今回の動画も、その最初の一歩に過ぎない。我々の物語はまだ始まったばかりである。
(終わり)

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