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新生トゥヘルチェルシー

●ランパード解任

クラブのレジェンドだったランパードが先日監督を解任された。19-20シーズンは、補強禁止処分の中、マウントはじめ若手を積極的に起用し、UCL圏内を獲得して評価を上げた。しかし、今季は彼の戦術的なセンスの無さが露呈してしまい、積極補強でクラッキたちを続々と迎え入れたものの全く解を見つけられなかった。私の記憶にあるだけでも、リバプール戦の10人になってからの4-3-2、ヴェルナーの起用法、SBとWGの相関関係、上手くいかなかった例を挙げればキリがないが、5レーンの考え方が圧倒的に不足していたと思う。ここまでは自称評論家の意見に過ぎないが、選手の中からも「戦術的な指示が少ない」などと不満の声が挙がっていたことも確かだ。

●トゥヘルきたぁぁぁ!!

私はトゥヘルが好きだ。彼は頑固な戦術家として知られ、これまでマインツ、ドルトムント、パリなどを率いてきた。ドルトムント時代、フォーメーションを頻繁に変更し、試合中にDFを4枚から3枚、そしてまた4枚に、相手だけでなく自らの選手をも混乱させ、負けたらブチギレる。良し悪しは別にして、戦術大好きマンからしたらたまらなく面白い。また、デンベレをトップ下で起用し、才能を開化させたのもトゥヘルなのである。パリ時代には、左右非対称な可変を採用した戦術家としての面以外にも、ネイマールやムバッペなどにも時には厳しく接し、チームを統率、19-20シーズンにはUCL準優勝までチームを導いた。そして、遂にプレミア上陸。プレミアはペップ、クロップ、モウリーニョ、アンチェロッティとまさに監督戦国時代。プレミアには20種の戦術があると言っても過言ではない。選手はそれを体現できる技術、速さ、強さ、賢さを持っている。そんな世界1過酷なリーグでどんなサッカーを魅せるのか?どんな結果を残すのか?楽しみで仕方ない。

●初陣でみえた変化

トゥヘルが初陣に選んだ11人。オドイとチルウェルで幅を取り、ツィエクとハヴェルツにライン間での仕事を要求した。試合前、予想の並びではオドイは左にいたが、私は彼が右でスタートする自信があった。それはトゥヘルが必ず5レーンを整理してくると思っていたから。チェルシーのスカッドを見渡してみよう。まず左SBはチルウェルとアロンソ。両者ともに攻撃に強みのある選手で、高い位置を取りたいタイプだ。次に右SB、守備的なアスピリクエタとキックの質は良いが戦術理解という面では怪しいリースジェームズ。この顔ぶれを見て最適なビルドアップの形を決めようとしたに違いない。アスピリクエタは守備力を最大限に引き出す為に右のストッパーとして起用、LBのチルウェルには幅をとらせるという役割を与えた。よって必然的に右の幅を取る人が必要になる。そこで1番適任だと判断されたのがハドソンオドイだったのだろう

チェルシーには様々なタレントが揃うが、サイドでの1vs1という感じのドリブラーはオドイくらい。プリシッチも切れ味はあるがタッチラインに固定されるような選手ではない。悪く言えば、オドイのRWBは消去法のような起用であるとも言える。本職LWGの彼の弱点は右足しか使えないこと。右サイドに置くと縦にしか行けない。しかし、トゥヘルが5レーンを整理したことで選手間の距離を改善した。オドイにも常に内側にツィエク、後方にアスピリクエタと選択肢がある状況で勝負できるようになっていた。オドイが孤立しない布陣、言い換えれば、オドイが縦にしかいけなくてもいい布陣。現に、オドイ→アスピリクエタからのアーリークロスは試合中何度か見られチャンスになった。そして、トゥヘルがこの布陣を採用する以上、タッチライン固定のLWGなんてポジションは存在しない。オドイは今ここで頑張るしかないのだ。

初陣はウルブズの5-2-3のようなブロックの前に得点を奪えずスコアレスドローとなったが、そこには確かな変化が見られた。5レーンを取った現代的な攻撃。3バックで回収力を増し、波状攻撃ができるようになっていた。トゥヘルが選手の特性を最大限に生かせるような2次配置を提供してくれるだろう。

●初勝利

プレミア特有の過密日程、中2日で迎えたバーンリー戦。豊富な選手層を誇る前線は5枚中4枚を入替え。唯一残ったのが右サイドに入ったハドソンオドイだった。また、ウイングレーンでのアップダウン、高精度クロス、長身を生かしたフィニッシャーとしての役割を得意とするアロンソもトゥヘル就任で居場所を得るひとりだろう。

この日は4-4-2のバーンリーに対して幅を使った攻撃が炸裂する。5レーンが整理されたことで5トップのような陣形で攻めるチェルシー。4バックのバーンリーは訓練されたスライドで対応するが振り回される展開が続いた。マウントらをケアしようとするとどうしてもアプローチが遅れる両ワイド。この試合でもアロンソとオドイ躍動した。得点はそのアロンソのゴールとオドイのアシストから生まれたゴールだった。特に先制点は戦術と選手の判断が噛み合った得点だった。ウイングレーンで受けるオドイ。DFはオドイに抜かれないように距離を取る、突っ掛けるオドイ。そのときオドイの外を追い越してゴールを奪ったのは右のストッパーのアスピリクエタだった。本来上がってくることは無いはずのアスピリクエタが機を見た上がりで一瞬にしてサイドで数的有利を創り出した。トゥヘルが選手に与えた5レーンという規則、規則を理解しているからこそ生まれるスター選手ならではの判断力。これが噛み合ったゴールだったと思う。

●死角はないのか?
ポジティブな印象のあるトゥヘルチェルシーには全く死角はないのだろうか?今回フォーカスを当てたところの1つの右サイド。オドイは縦突破から好機を創り出しているものの、プレーのレパートリーが多いわけではない。かつ強豪相手にRWBとしての守備のタスクをオドイに与えて穴にならないかもわからない。現にスパーズ戦ではRWBにはジェームズが起用されている。また、スパーズ戦でチアゴシウバが戦線離脱し、前線の顔ぶれと比べると見劣りするDFライン。トゥヘルがここらをどうアップデートするのかも課題である。

トゥヘルらしいシステマチックなフットボールとスター選手が調和した時、プレミアの歴史にまた新たな1ページを刻むことになるだろう。ペップを倒せるのは彼しかいないと思っている。トゥヘルチェルシーの挑戦はまだ始まったばかりだ。

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