周到に準備されていた"投手増田大輝"は驚きの奇策ではない

高橋遥人7回11奪三振無失点の素晴らしい投球も、中谷満塁弾を含む2桁得点の猛攻も全てかき消されてしまったタイガースファンの心中はいかばかりか。

MLBではしばしば見られる大差ゲームでの野手登板。NPBでも前例が無いわけではないですが、かつてオールスターで故・仰木彬監督が投手イチローの起用をした際の故・野村克也監督の反応などもあり、タブー視されていたのは間違いないでしょう。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b9342ecde0a336e8a6941097a4087ee22d52b837

だいたいのことは上記記事に書いてありますが、注目すべき点は試合後の増田大輝選手の発言。

「(登板の可能性を)言われたのは中谷さんの前の打席のとき。いつか、どこかでそういうのが絶対に出てくるから、一応、頭に入れておいてって、去年から後藤(孝志)コーチとかからは言われていたので。
点差が広がったときとかに、投手を助けられるんだったらっていつでも頭に入れていました」

そう、「去年から」チーム全体としてそういう作戦を検討して用意していたというところが重要。増田選手にしても投手をやっていたのは高校時代、8年もブランクがあるのに準備も無くいきなりマウンドに送ったわけではありません。その場の思いつきの奇策であればベンチに居るコーチ陣が総出で止めたでしょう。

では何故"去年から"なのか。そもそも今年は当初何が予定されていたかといえば、東京オリンピック。最初から変則日程であり、また代表選出などで選手起用も通常とは違う形になることが大前提として存在していました。

全世界的な不測の事態によって状況は一変しましたが、変則日程であることに変わりはなく、また交流戦、オールスター、オリンピックが全て中止となって前後の公式戦休日が消失し、結果として当初想定以上に試合日程が密になったことも確かです。

様々なケースを想定して作戦を準備し、コーチ・選手に浸透させてきた原監督の手腕は見事の一言。

また、試合の流れもこの起用を決断させた重大な要素になると考えます。

第一は1死1・2塁の場面での大山ピッチャーゴロ。真正面の打球をしっかりキャッチしてイージーな併殺と思われたところを堀岡が悪送球。内野手がジャンプで捕球して外野に逸れるのを阻止、なんとか二塁は封殺かと思われたところ、代走江越のアピールでリクエストとなり、ベースを踏めていないことが確認されオールセーフ。

ここから仕切り直せればよかったんでしょうが、Web上の一球速報を見た限り投球はバラバラ。直接映像を見ていたわけではないのですが、原監督が「あそこで堀岡を投げさせることの方がはるかに失礼なこと」とまで言ったあたり、堀岡の投球態度もかなり良くなかったのでしょう。

また、この時点で残っていた投手は大竹、中川、鍵谷、大江と、いずれも勝ちゲームで起用する投手。翌日試合がない日曜などであればまだしも、この翌日(=今日)は名古屋に移動して3連戦があり、ガタガタに壊れた試合の処理で疲労させるわけにはいきません。

終盤大差となってこれを捨て試合にするとしても、通常の采配であれば3アウト取るまで続投させればいいようにも思えます。それをせず、野手をマウンドに送る選択に出たというのは、ベンチからの強い怒りのメッセージであると見た方がよさそうです。今後も同様の起用は有り得るとコメントしたというのは、同時にチーム内の他選手に対する警告でもあるでしょう。負けている試合で更に打ち込まれたからと言って手を抜くのは許さない、と。

ペナントレースの単なる大差負けの1試合にこれほど大きな価値を付加したという点は非常に大きい。通算10年以上の指揮でBクラスは1度だけという原采配の真髄を見た気がします。

監督1年目・2年目が過半数のセ・リーグにおいて、監督・コーチの手腕の差は巨人とそれ以外を分ける高い壁なのかもしれません。我がドラゴンズも、今回の一件から学び取らねばならない点は非常に多いのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?