チーム作りとホルモン

今回読んだ本はこちらです。

はじめに

心身一如という言葉があります。

心身一如
身体と精神は一体であって、分けることはできず、一つのものの両面にすぎないという仏教の考え。

心は身体から切り離されたものではなく、身体の変化が意識に表出したものです。大部分で心理学的なアプローチをとっている人材育成・組織開発において、生命科学は別の側面から新たなアプローチを示すことができます。

なぜチームメソッドに生命科学が必要なのか?

組織開発の案件で多いものの一つに、会社とメンバーのつながりを強化し、離職を防ぐ「エンゲージメント向上」があります。

メンバーの企業理念への共感が大事で「企業理念と自身の価値観とのつながり」「コミュニケーションの改善」と教わるが、実際どんな状態がつながっている状態なのか、どのような状態が改善されているのかイメージがわきにくいです。
しかし、エンゲージメントや共感・つながりといった心理学的な言葉を生命科学ならわかりやすく理解できます。

また、生命の原理原則を押さえれば、多くのビジネスパーソンに当てはまる、より効果的なチームメソッドを行うことができます。

ホルモンとは

 ホルモン
「ある特定の器官で合成・分泌され、血管を通じて標的器官・細胞に作用する生理活性物質」。ある作用を引き起こすための指令をするメッセージ物質のことです。

よく耳にする「アドレナミン」「インスリン」「ドーパミン」などもホルモンです。
こうしたホルモンのことを知っていれば、身体は何を求めているのか、何が足りないのかがわかり、適切なレスポンスができるようになります。ワクワクしないときは「ドーパミンが足りていないのかもしれない」など自分の身体の状態にいかに気づいていけるか、これが心身の健康やパフォーマンスに大きく影響します。

今回はあまり聞かれないホルモンですが、オキシトシンに注目します。
人材育成・組織開発において深いかかわりを持っています。

オキシトシンとは

そこで「オキシトシン」です。
脳の下垂体後葉から分泌される母子間の絆を形成するホルモンの事です。

信頼と愛着を感じるホルモン:オキシトシン
「母性のホルモン」と呼ばれることがある。人材育成や組織開発においてキーワードとなるホルモンです。「つながり」「信頼」「愛着」に関わり、分泌されると「幸福感を感じる」「人に親切になれる」「学習能力が上がる」「共感力が上がる」など素晴らしい効果が多くある。
ー分泌される場面ー
・人と触れ合っている時
・互換への心地よい刺激がある時
・親切にされた時、親切にした時
・祈りを捧げている時、誰かを思っている時
・仲間と同じ方向を目指している時

生産性の高いチーム

生産性の高いとーむとして五つの条件の中で最も重要な条件は「チームの『心理的安全性』が高いこと」だとされています。

心理的安全性とは
周囲の反応に怯えることなく、 安心して働ける状態 。組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態。

心理学的な考察からだと、心理的安全性を高めるためには何を言っても大丈夫な関係を作ることです。
しかし、心理的安全性を高めたいな…..。じゃあ何を言ってもいい関係をつくりたい…?何言ってもいいために心理的安全性を…..。
とループする気がしてしまいます。

生命科学的な考察からだと、心理的安全性を高めるには身体的安全性を高めればよいです

身体的安全性の担保に関わるホルモン
①生き残りホルモン:自身の生存のためのホルモン。ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールやノルアドレナリンが含まれる。
②生きがいホルモン:自身の進化、繁栄のためのホルモン。オキシトシンやドーパミン、セロトニンが含まれる。生存への喜びを感じるとき分泌される。

生き残りホルモンが優位な状態だと生きがいホルモンが抑制され、生きがいホルモンが優位だと生き残りホルモンが抑制される仕組みになっています。
このバランスをうまく調節し、「身体的安全性」を実現するためにはオキシトシン分泌が重要です。
オキシトシンが分泌される場面は、チーム内での「心理的つながり」と「身体的つながり」に深くかかわっています。

心理的なつながり
チーム内での雑談(業務以外のこと、プライベートなことを含む気軽な会話)。さらに良質な雑談のポイントは主観的で感情を共有すること。
個人の価値観や実現したいこと、好きなものや嫌いなことが共有される会話、または日常で感じたことをシェアすること。

身体的なつながり
リラックスできる音楽をかけて雑談してみる、おいしいお菓子を食べながら話すなど。

オキシトシンの分泌はドーパミンとセロトニンを誘発させる。
セロトニンは心の安定、ドーパミンは仕事のモチベーションや行動力を高める働きを持っています。この状態が特に高いと心理的安全性が高いチームになります。
ここで簡単なドーパミンとセロトニンの説明です。(今後こちらのホルモンに注目した記事も書く予定です)

やる気を生み出すホルモン:ドーパミン
ドーパミンは主にモチベーションなどに関わる物質で「快楽物質」と呼ばれる。幸福感やワクワク感を感じ、やる気がわいて行動力が増します。

気持ちを安定させるホルモン:セロトニン
「心の安定」に関わるホルモンで、分泌された状態では緊張を抑えられる、気持ちがスッキリする、平常心が保てるなどの効果があります。

オキシトシンは伝播する

オキシトシンが分泌されると、共感能力と他者への利他性が高まります。
他者から共感されたり、優しくされるとオキシトシン分泌されます。その関係性が築かれている2者の間にはオキシトシンの循環が起こります。このようにして循環や信頼関係はチーム内でどんどん伝播することができます。

オキシトシンの負の側面

オキシトシンは信頼関係の構築、共感力の向上、利他の意識の醸成などに関与していますが、本質は「一体感の形成」にあります。
人と脳の頭頂部には頭頂葉と呼ばれる領域があり、自分と他人の区別をする機能を持つと呼ばれているが、オキシトシンが分泌されている状態では、この機能が抑制されます。
この状態は、オキシトシンを受けた対象に対して自他の境界があいまいになり、一体感を感じるようになります。
女性が子供を産んだ後、夫に対して攻撃的になってしまうことを「産後クライシス」と言います。女性ホルモンの影響で身体的に母親モードになり、子供に大きな愛情を注ぐようになります。その時、夫が子育てを手伝わなかったり非協力的だと「敵」とみなしてしまいます。
母子間の絆が強化されることによって相対的に夫婦間の絆が低下し、夫はオキシトシンによる一体感のエリア外に行きます。

こうしたホルモンの負の側面は身近なところでも起こりえます。今回はセクショナリズムに注目します。

オキシトシンとセクショナリズム

セクショナリズム
集団 ・ 組織 内部の各 部署 が互いに協力し合うことなく、自分たちが保持する 権限 や 利害 にこだわり、外部からの 干渉 を排除しようとする排他的傾向のこと

こうした負の作用はセクショナリズムがを起こす原因になります。
日本企業は縦割りの組織の形をとり、部門の役割と責任、それに伴う数値目標が設定されています。この共通目標があるためオキシトシンの分泌が促進され一体感が生まれます。しかし、部門内の同属意識が強化され、同時に他部門に対する敵対意識も強まります。そして、部門間のコミュニケーションが減り、セクショナリズムが加速します。

こうしたセクショナリズムを防ぐポイントがあります。
組織全体の共通の目的を明確にし、部門をまたいだコミュニケーションを強化することです。オキシトシンが分泌される同族意識の範囲を組織内から組織全体に広げるための制度や教育が必要です。
具体的には、各部門の目標やKPを組織全体の目的、存在意義やミッション・ビジョンに紐づけることです。

こういったことを意識して組織をデザイン・運営をしていくとセクショナリズムを防ぐことができ、貢献意欲であふれた一体感のある組織をつくることができます。

おわりに

ホルモンはこうした心理学的なあいまいな部分を理解しやすく解明してくれます。ある程度知識があれば自分や他人、チームをうまくコントロールできる手段として利用できるので、ぜひホルモン・生命科学に興味を持ってほしいです。

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