アイデア出しと科学

マインドワンダリング

ビジネスでは様々な場面でひらめきが求められることが多いです。
しかし、パソコンに向かって何時間唸っても何も進展しない、様々な切り口で発想をするもしっくりこない、締め切りの時間となりモヤモヤしたまま提出…。なんて経験は少なからずあるのではないでしょうか?

認知科学の領域では、ひらめきは次の4つの過程を経て実現するといわれています。

初期の試行錯誤:思いついた解決策で試行錯誤を繰り返す
あたため:いったん止めて気晴らしや別の作業をして離れる
ひらめき:これまで思いつかなかったアイデアが生まれる
評価:ひらめきで得たアイデアを評価・実行する

いくら考えてもアイデアが出ない状況では、このような「初期の試行錯誤」を繰り返している状況といえるかもしれません。
散歩をしていたり、シャワーを浴びている時に新しい発想が浮かぶ、ここでは「あたため」から「ひらめき」の以降が起きています。一見何の関係もないことをしている状態がとても大事になっています。

ぼーっとしている時の脳の状態
脳には大きく3つのモードがあるといわれています。

1つ目がデフォルトモード・ネットワーク(以下DMN)で、無意識な状態。
ぼーっとしていたり、白昼夢を見ているような状態です。
過去の改装や未来の空想とすでにもっている記憶や知識をミックスしている状態。

2つ目がセントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(以下CEN)で、意識的で何かに注意を払ったり、評価やコントロールするときに使われる状態。基本的に物事に集中している状態です。

3つ目がサリエンス・ネットワーク(以下SN)です。
基本的にDMNとCENの切り替えを行っていて、ぼーっとするべき時や体の空腹や痛みはDMN、緻密な作業をするときはCENに切り替えます。

考えすぎて新しいアイデアが出ない状態とは、CENが過度に使われておりDMNが抑えられている状態で記憶や知識のミックスによるひらめきが起きにくくなります。「初期の試行錯誤」を繰り返しています。
一方、散歩しているとアイデアがひらめくのはDMNが働いていて、「あたため」から「ひらめき」が起こります。
このようなDMNが働いて頭がぼーっとしている状態を「マインドワンダリング」といいます。

DMNを働かせるには

DMNを活発化させるマインドワンダリング状態を道ぶくためには、身体状態に意識をむける、単純作業をすることが有効です。
ここでの単純作業とは、思考の力を使う必要のないくらい簡単な作業や慣れている作業のことです。例えば皿洗いや洗濯物をたたむ行為などが当たるかもしれません。
それ以外にも、散歩やランニングなどの単純な運動やEDMのようなリズムがあり歌詞のない音楽を聴くことも良い手法です。


マインドワンダリングのメリット・デメリット

マインドワンダリングによる白昼夢の内容には個人差が大きいことが知られています。
白昼夢にはその人の何らかのエピソードを含む物語のようなものから構成されることが多く、ポジティブからネガティブ・未来から過去へ様々です。

ポジティブな内容の白昼夢であれば、メタ認知、社会性、創造性、外界への課題の慣れによる反応低下の防止などの面で、学びなどへの建設的な期待につながります。

罪悪感や不安に関わるような白昼夢であれば、自尊心の低下や対人関係の不安から白昼夢がその人の人情的な側面でネガティブな影響を与えます。また、反芻的思考や脅迫的思考も同様です。
また、白昼夢・マインドワンダリングの時間が長い人ほど、不安や罪悪感などのネガティブな思考に陥ってしまう傾向が高いことが知られています。

アート思考

新規事業開発やイノベーション創出はとても重要な課題です。
論理的に考えすぎると答えが集約されてしまい、アイデアのコモディティー化が起こってしまいます。正解を求めすぎて答えが同じになる、または答えが出なくなります。それを打破するために感性やアートの力が必要になります。

アート思考を「「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」を作り出すための手法」と定義されています。

詳しいアート思考についての説明や手法はこちら


脳科学からの観点のアート思考

アート思考を鑑賞しているとき、私たちの脳の中では2つの処理が行われています。
モノの形や概念をリアルに表現した「具象画」を見たときは「トップダウン処理」、はっきりと何かを表現しているわけではない「抽象画」を見たときは「ボトムアップ処理」と呼ばれる方法で処理されます。

「トップダウン処理」は過去の体験や記憶・学習によって獲得した概念やイメージによって処理される方法で、ボトムアップによって得られた感覚的な知識に意味や概念を与えます。
経験学習によって後天的に備わるため人によって処理のされ方が違います。

「ボトムアップ処理」はモノの形をそのまま捉える、色を感じとるなどもともと生物として人間に備わっている処理方法です。
脳の回路に生理的に備わっているため人によって処理に差がありません。
しかし、ボトムアップ処理のみだけでは対象を処理しきれないため、それを補うためにトップダウン処理があります。

抽象画では曖昧な知覚に過去の記憶を混ぜ合わせることによって、新たな着想を得ている。これがアート思考によるひらめきを得る原理です。
具象画や言語を返すと、具体的なイメージや概念が入ってしまい、どうしても発想に影響を及ぼします。

私たちの環境や時代を取り巻く状況を抽象的に鏡写しのように表した「現代
アート」
も有効だと考えています。


アイデアの着想

アート鑑賞、特に抽象画には自身がこれまでに体験したこと、学習・記憶などの内面に隠れたエッセンスを抽出する力があります。
具体的なイメージや言語を介した発想だと既存の概念や社会的な常識などに縛られ、新しい発想はなかなか生み出されません。
言語や概念は経験によって得られた感覚に意味づけをして体系化されたものです。

だからこそ、曖昧な表現・意味が分かりにくいイメージを用いることでその感覚を呼び覚ますことができます。

アート鑑賞ではなく、自然の中での散策なども有効です。
森や海、川は絶えず動きがあり、固定した具体的なイメージはありません。
ある意味「自然の抽象画」、自然の中で「何かが降りてくる」というスピリチャルな体験は、自然によって引き起こされるアート思考といえるかもしれません。


おわりに

最近話題のアート思考にも少し触れる記事となっています。アート思考は言葉だけだと本当にできるの??と思いがちですが、科学の側面から説明できると納得できるところは多いと思います。

アイデア出しがなんかうまくできないと思っている方がいれば、脳の仕組みをちょっとでも意識してみると上手くいくかもしれません。


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