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頭の中に

懐かしい故郷が私の頭の中にもある
しばらく帰れなくてそこに住む人たちへの挨拶はたったの一つも送らなかった
化膿に効く野草が雑木林の入り口まで広く群生して、静かな風の翻す艶が同じ高さの葉先で踊っていた
野草以外に何もない草原を眺めた木製の腰掛けは、いつも温かい日差しで温められていた
今日もそこで私の分身が日光浴をしている
天気が良く昼が長いので、一日のほとんどをそこで過ごす

揺れる草と、流れる雲と、回る太陽の速さを比べては、遠くの動かない林を眺める
思い出を思い出すでもなく、明日を考えるでもなく、新たなものに心を染められるでもなく、古くなった傷に憂うでもなく、ずっと今は今のままだ
ここにずっといて、今と私とはここで変わらず時間を縒っていく

夕方になって空気が少し冷えてくると、小さな子供が“頼まれ物”を持って現れる
子供から受け取った頼まれ物を羽織って、すぐ後ろの家へ帰る
人に戻って、簡単な夕飯の用意を始める
布団にもぐるまで私は時間を手離す
それはここと同じ

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