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リストラーズバラードセレクション ③あずさ2号

はじめに

 せっかく2本目を上げてシリーズ化したというのに、それから2か月も開けてしまいました。いかんいかん。ついつい、気軽に書けるほうに流されてしまうんですよね…。
 ゴールデンウィークとかいうやつで時間ができたので、しばらくぶりに腰を据えて書いてみたいと思います。

 バラードシリーズ第3弾、「あずさ2号」です!

リードボーカルについて

 筆者は、リストラーズのボーカル4人が「草野・澤田ペア」と「野村・加藤ペア」に分かれて、それぞれがハモるような構成の曲が大好きで、この曲はその典型例の一つ。
 なぜ好きなのかと言えば、それぞれの個性がのびのびと発揮されているように感じるからだと思う。

 和音、それも3声以上の和音を美しく聴かせるには、時には個性を抑えて周囲と合わせることも必要になる。特に内声担当の草野さんや加藤さんは、リードの時の歌声をイメージしたまま聞くと、コーラスの時にどこにいるのか分からなくなるほどだ。ほぼ常に一番高いところにいて、和音の「輪郭」となっていることが多い野村さんも、逆に高確率で一番下にいる澤田さんも、ご自身の声が旋律として聞こえるべき場面とそうでない場面で歌声を使い分けられている。
 さらに言えば、ハモる相手に合わせて音色を調整されていると感じることもある。
 それらは長年の経験と非常に高度な技術の賜物であって、リストラーズの魅力の一つだ。
 ただ、それはそれとして、一人一人の歌声を聴くなら、やはりリード時などの、個性が発揮された歌声が一番魅力的ではある。その意味で、歌声の方向性が比較的近い組み合わせのペアは、調整で抑えられるものが少なめになっている気がして、個人的にお得感がある。

 この「あずさ2号」でツインリードを担当する草野さんと澤田さんのペアは、とても華やかだ。特にサビ部分。元々声量たっぷりなお二人が、力強く歌い上げるハーモニーは圧巻の一言に尽きる。リアルで聴いたらどれほどの迫力なのだろうか…。

 ツインリードのそれぞれについて語っていきたい。まずは草野さんから。
 筆者の考える草野さんの歌声の魅力は、明るさと華やかさだ。かと言って、このしっとりとした曲には合わないのかと言えば、全くそんなことはない。むしろ明るく軽やかな響きが、却ってこの曲の物悲しさを鮮やかに浮き立たせるような印象だ。
 そもそも曲自体、哀愁溢れる歌詞とメロディではあるものの、暗いばかりではない。別れの寂しさをかみしめながらも、前に向かっていく女性の歌である。(ここでの歌詞の解釈は、この程度にとどめたい。受け取りようによっては、色々と…)
 一見すると豪快な印象の草野さんだが、実は繊細な技術の持ち主であることはご承知のとおりである。この曲での草野さんの歌声からは、早春の凛とした空気と、辛くとも別れを決断した女性の心の強さのようなものを感じ取れる。メロディ部分では情景や心情をを丁寧に描くように、サビでは覚悟と決意を叫ぶように。そんな表現の振り幅の大きさにも、圧倒されてしまう。

 続いて、澤田さん。元より艶のある美声の主であるわけだが、この曲のしっとりとした雰囲気が、澤田さんの声質にとても良く合っているように思える。重みと深みのある歌声が、美しいだけではない、物悲しい曲の世界を演出しているのだ。この重みと深み、昨今の曲ではあまりお見掛けしない気がする。昭和を感じられる声、と言えるのかもしれない。
 「行く先々で思い出すのは」からのリード部分。その前の草野さんのリードと途中まで全く同じメロディなのだが、驚くほどに印象が違う。草野さんパートで主人公の女性の芯の強さが表現されているとすれば、澤田さんパートでは、女性の胸の内にある寂しさと、それに向き合う心情が描き出されているように感じられる。少し湿度が高めで、内省的だ。決断はしたけれど、それ自体は揺るがないけれど、寂しいものは寂しい。そんな想いが伝わってくるようだ。
 単独リード部分を聴き比べると明らかに違う印象を受けるのに、一緒に歌うサビ部分では完璧なまでの一体感が感じられる。草野さんだけでなく、澤田さんもかなり感情を乗せて、熱唱していらっしゃるように見えるのに。同時に歌うことで、自然と近くなるのか…と一瞬考えたが、おそらくは別録りであることに気が付いた。この曲に関してはCD音源を活用されたということだったが、全員同時に録っているわけではない…はず。かなり以前からのレパートリーではあると思うので、頭の中で相手の声が自然とイメージされるのだろうか。
 なお、お二人の感情の乗せ方が似ているなぁ、なんて感じたりもする。この辺りが、「方向性が近い」と感じる一因かもしれない。
 うまく流れに乗せられなかったが、この曲の澤田さんの歌声で一番好きなのは、サビの1回目と2回目のつなぎの部分に出てくる「Ah~」だったりする。

 以前に別のところにも書いたが、澤田さんが熱唱系の歌い方をされている曲は案外に少ないので、もっと聴いてみたい。できればリードで。これは本当に聴きたいので、チャンスがあれば何度でも書くと思います…。 

コーラスについて

 この曲は原曲の時点でツインリードであり、がっつりハモリ付き。振付けも特になく、全力で歌い上げる構成になっている。そのせいなのか、リストラーズの原点である合唱の空気感を色濃く感じられる気がする。
 特にそれを感じるのが、野村さんの表情だ。いつもの野村さんと、何か違う。何が違うのかと考えてみた結果、特にサビあたりで、視線が遠くを見ているのだと気づいた。そのあたりが、ステージで歌う合唱団員の視線だと感じたのだと思う。加藤さんはいつもどおりな気がするのだけれど…。ご承知のとおり、筆者の視点には偏りがあるので、全体的な印象への影響も偏ってしまうようだ。
 さて、見た目の話はともかく、野村さんと加藤さんのコーラスは、アレンジ自体がいかにも「合唱」的なつくりであるように感じられる。細かくリズムを刻んだり、いわゆる字ハモとヴォカリーズを複雑に行ったり来たりしない。お二人のハーモニーによるルルル…が基本になっている。それで、野村さんの歌唱スタイルが合唱っぽいのかもしれないと思う。

 何も考えずに書き進めると野村さんの話が続きそうなので、先に加藤さんについて。
 まずは何と言っても、イントロ最後の「チャチャチャチャチャチャチャ」だろう。昔のリサイタル動画ではなぜか笑いが起きていたが、この動画では全く笑うところだと感じない。ある意味、表現しようとするものとご本人たちのギャップが少なくなってきたということだろうか。
 歌詞が入ったところ以降、加藤さんの歌声を単独で拾うのはなかなかに難しくなる。先にも書いたが、これは本当にすごいことで、特にこの曲の場合は野村さんとの2声で進行する部分が大半だ。もちろん、音量的なことで聞こえていないわけではなく、それほどまでに一体化しているように感じられるのだ。音程が離れている部分ではそれなりに区別できるが、三度などの近めの和音の場合、筆者の耳では、加藤さんの声を単独で聴くことができていない。おそらくこの音だろうと推測することはできるのだが…。
 とはいえ、サビに入ると、野村さんと音程が離れるので聴き取りやすくなる。加藤さんの方が野村さんより聞こえやすい部分もあるほどだ。落ち着いていて柔らかな、優しい歌声だ。加藤さんは、実は力強い中低音域を持っている方だが、ここはやはり、柔らかく歌うほうが曲に合っているのだと思う。
 力強い方の歌唱スタイルの場合、澤田さんの歌声との相性がよさそうな気がするので、そんな感じのツインリードの曲も聴いてみたいという願望がある。ファンが倒れそうではあるが。

 さて、先に少し書きかけてしまったが、野村さんについて。
 まずもって、入りの「ル~ル~」の時点で美しい。これだけでも、曲の世界が一気に広がるように感じる。イントロ前半は野村さんがリードのようなものなのもあって、情感たっぷりで耳が喜んでしまう。
 メインをツインリードのお二人に引き継いだ後は、少し抑え目な表現になりつつも、早春の空気を思わせる澄み切った歌声が印象的だ。
 そして、サビ。視線が合唱っぽいという点は先に書いた通りだが、表情の作り方や規律正しい印象を受ける言葉の発音の仕方、口の動かし方も、合唱団の頃はこんな感じだったのかなぁと思える。
 ただ、この部分は何より、見ていて気持ちよさそうなのが最高だ。そう、歌うって、ハモるって、気持ちいいのだ。筆者は合唱から離れてしまって長いのだが、大事なことを思い出させてくれる動画でもある。

リズム隊について

 続いてリズム隊だが、この曲では前半と後半でかなり印象が違う。
 前半(サビに入るまで)は、かなり抑え目だ。イントロは、上村さんはパーカッションというより効果音(風の音?)がメインになるし、大西さんも、ベースにしては高めの音域が中心で、リズムを刻むという感じでもない(音域が高めなのにちゃんと「ベース」に聞こえるのはすごいこと)。草野さんの単独リード部分に至っては、リズム隊の出番がないというレアな状況になる。澤田さんリード部分から復活し、ボイパもベースも「それらしい」パートになるが、やはり抑え目で、目立つ動きはしない。
 後半(サビ×2)になると、いつもの「リストラーズのリズム隊」のイメージどおりの、華やかで力強い動きになる。
 この曲は、先に触れたようにコーラスの編曲が合唱的で、リズムを刻むことが少ない。また、ボーカルの低音担当である澤田さんがツインリードの一角を担っており、低音域が大西さんのベースのみになっていると言える。
 そういった点で、リズム隊の役割が大きくなる編曲だと言えるのではないだろうか。
 特に印象的なのがアウトロ、曲の最後の部分だ。上村さんの余韻まで表現された風の音、そして深く響き尾を引くような大西さんの低音。この曲の「後味」を決めているのは、リズム隊なのではないかと個人的に感じている。

おわりに

 リストラーズのバラード系動画の中でも人気の高いこの曲。書いている間に、再生回数が35万回を突破していました。
 元々ハモリ付きの曲だけにイメージしやすいのと、原曲自体の人気に加えて、サビを中心とした熱量の高さが魅力なのかな、などと思っています。
 ところで、この曲の歌詞にはいろいろと解釈があって、どうイメージしていいものか迷ったりもしました。特に必要性に迫られたのは、「春まだ浅い」という歌詞の季節は何月ごろなんだ問題。最終的には、Don't think! Feel!! の精神で行くことにしました。
 上村さんが奏でる風の音やイントロのハーモニーが、暖かな春風の季節を描いたものとは思えなかったので、タイトル画が完全に冬な感じになっています。実際には2月終わりとか3月初めくらいのイメージなのかなぁ。昭和の曲は、こういうところにも味わいがありますよね!