「いつか」は「今」か、「今」は「いつか」か ~藤吉夏鈴の話をしよう~

藤吉夏鈴とは?

 2001年8月29日生まれ、20歳。坂道合同オーディションを経て、欅坂46の2期生としてアイドルになり、現在は櫻坂46メンバーとして活動中。改名後の2つのシングルでは収録曲のセンターを務め、4作続けて表題曲の選抜メンバー入りを果たすなど、人気も含めてグループの主軸を担う1人である。

 「夏鈴」という、響きは比較的一般的でありながら漢字が珍しい名前の由来は、

「夏の昼下がり、風鈴がカランとなったら涼しげで小さなひとつの風鈴で周りの景色が全く変わって見える、そんな存在」

(https://www.keyakizaka46.com/s/k46o/diary/detail/19313 『藤吉夏鈴 公式ブログ』2019/02/08 23:24 より引用)

 名付け親は父だそう。後で詳述するが、この素晴らしい名前に込められた思いに彼女は応えている、と思う。簡単なことではないし、純粋にすごい。

一ファンの第一印象

 前の記事でも述べたが、私が櫻坂をよく知りファンになったのは改名直後である。3人センター制という珍しい体制でシングルを出していることを知り、そしてその3人のセンター、グループを引っ張る存在の一人として藤吉夏鈴を認識した。


 「目立たないな」というのが、正直な第一印象である。大きな目とはっきりとした顔立ちで「誰がどう見ても可愛い」タイプの表題センター森田ひかる、最年少でありながら堂々とした言動でキャラが立っている山﨑天、そして「もう一人」の藤吉夏鈴。普通にめちゃくちゃ失礼だし、夏鈴ちゃんがトップクラスの推しメンになった今となっては考えられないことだが、少なくとも他の2人に比べると薄い印象しか残らなかった。


 「万人ウケ」しそうな森田を改名のタイミングで表題曲センターに据えることも、グループ断トツの最年少、山﨑に収録曲センターを任せることも、グループへの新たなイメージを世間に与えポジティブに新体制のスタートを切るために理解できる選択である。その中で、独特な雰囲気を持つがボソボソと話している印象が拭えず、テレビ等で普通の人が一目見て惹かれるような特徴ある見た目をしているわけでもない夏鈴ちゃんが「もう一人」を務める理由が、正直よくわからなかった。

センターではなくメンバーとして

 この、夏鈴ちゃんに対し失礼極まりないややネガティブな印象は、徐々に消えていった。さっき言った「独特な雰囲気」を、私は過小評価していた。テレビやインタビューで見せる感性は非常に独特だし、彼女が話をしている間のあの空気は彼女以外には出せないものだと思う。無表情に近いことが多く、感情の変化を多く見せるわけではない分、時折見せる感情や表情の動きはより映える。いつもニコニコしているメンバーやいつも騒がしいメンバーの笑顔はもちろんまぶしいし、彼女たちの表情の価値が夏鈴ちゃんのそれより小さなものだとか、そういう話では断じてない。そういうメンバーがいるからこそ、アイドルグループに限らず社会的な集団は持続発展していくのだろうし、そういうメンバーは櫻坂で具体的に言えば松田里奈だったり井上梨名だったりするのだろうが、彼女たちの笑顔もまた素晴らしいものである。


 が、夏鈴ちゃんの笑顔はそういう笑顔とはまた違う魅力を持って、誰かを惹きつける。櫻坂には多くないタイプであるからこそ光っている部分もあるのだと思う。


 そういうことに、冠番組等を見る中で気づくことができたが、それは「センター」としての藤吉夏鈴ではなく「メンバー」としての藤吉夏鈴を見たからだ。変に「センター」という肩書にこだわり、そのレンズを通してだけでは見えないものもある。ライブを見る機会に恵まれないまま時間が過ぎていたこともあり、「センター」としての夏鈴ちゃんを意識せずに彼女の魅力にどんどん惹かれていったのだ。

なるべくして

 夏鈴ちゃんを「センター」として強烈に意識した、そして「なんか良いメンバー」から「好きなメンバー」へと私の中の彼女の立ち位置が明確に変化したのが、2ndシングル収録曲『偶然の答え』のMVである。


 いつかのライブで本人が話した通り、「特別な思い」を持って楽曲作りに臨んでいることが一目でわかる。同性の親友を好きになり、告白を境に距離感が変わってしまうという、比較的強めに設定されたメッセージ性を意識して、自分の中で何とか伝えようと懸命にやり方を探して、自分なりの100%の答えを歌に、ダンスに、表情に表していることが、一視聴者にすぎない私にまで伝わる。曲自体の前後のシーンを含め、MV全体を通して彼女は圧倒的な存在感を放ち続けた。

 2022年7月11日現在、櫻坂46の楽曲でMVのYouTubeにおける再生回数が最も多いのは、1stシングルで夏鈴ちゃんがセンターを務めた『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』だ。表題曲ではないこの曲が唯一の1000万回オーバーの再生数を記録していることは、ポジティブにもネガティブにも捉えることができる特徴的なトピックだが、ともかくこの曲とそのMVが絶対的に評価されている、人の目に留まっていることは間違いない。他にも様々な要因はあるにしろ、この曲でも「センター」としての夏鈴ちゃんの姿が少なくない数の人を虜にしていることがこの数字に繋がっているのだろう。この曲のMVの最後の、笑顔とも微笑みとも言えないような、絶妙に自信がありそうな表情は抜群。『偶然の答え』や他の楽曲でのパフォーマンスでもそうだが、表情の作り方はグループでも随一のものを持っていると思う。

 『偶然の答え』で私が感じたのは、夏鈴ちゃんがセンターを務めるからこそ生まれる良さ、意味、価値はめちゃくちゃに大きなもので、それは森田や山﨑、後に表題曲でセンターを務める田村保乃ら他のメンバーのセンターでは生み出せないもの、夏鈴ちゃんの唯一無二の魅力なのだ、ということである。

 夏鈴ちゃんもまた、センターになるべくしてなっている。これだけ魅力的なメンバーが揃っている中でセンターを任されているのだから、そんなこと当たり前である。が、そのことに気づくまでに私はかなり長い時間を費やしてしまった。少なくとも、『偶然の答え』は夏鈴ちゃんの存在なしには成立しなかった作品なのではないか。気づくまでに時間がかかった分、気づいてからの夏鈴ちゃんへの私のある種の「特別視」はとても強くなった。

 余談だが、この『偶然の答え』、あらゆる要素が私の心を揺さぶってくれる。夏鈴ちゃんのパフォーマンスと同性愛というメッセージ性は既に述べたが、MV中で夏鈴ちゃんが告白する相手である女優の永瀬莉子さんの演技もまた素晴らしい。犬のモモも永瀬さんも夏鈴ちゃんのブログに登場したが、彼女たちとも良い距離感でMVを作成したことが推察でき、それもまた良い。加えて、夏鈴ちゃんはじめ「櫻エイト」の8人抜きで2021年6月に行われた「BACKS LIVE!!」では、夏鈴ちゃんを凌ぎ私の第一の推しメンに君臨し続ける関有美子がこの曲のセンターを務めた。このライブが私が生で(配信だけど)視聴した初めてのライブであり(なんで初めてがフルメンバーのライブじゃないんだよ!というツッコミはスルーさせていただきます)、夏鈴ちゃんとはまた違う彼女の空気感を活かした良いパフォーマンスを見ることができたため、その意味でも私の中で特別な一曲となった。

藤吉夏鈴の魅力

「夏の昼下がり、風鈴がカランとなったら涼しげで小さなひとつの風鈴で周りの景色が全く変わって見える、そんな存在」

 冒頭でも紹介した「夏鈴」の由来だが、こんな存在であることこそが夏鈴ちゃんの魅力であると思う。場面に合った、時に意外な表情を見せ、大きなダンスで曲を表現し、無口なようで話し出すとそうでもなく、独特の空気感を出して周りを巻き込む。他の誰でもない彼女の存在こそが見せてくれる景色がある。グループになくてはならない魅力を持っている。

 この顔の雰囲気と感じで実は身長が高いことやその高身長があまり気に食わないこと、「ツン」な雰囲気を出しつつ1期生のお姉ちゃんメンバーにはかなり「デレ」なこと、口数が多いわけではないが内なる思いは誰よりも熱く、得意ではないのだろうがそれを言葉にしようと頑張ってくれること。歌って踊ってない夏鈴ちゃんの魅力はそのギャップにあると思うが、パフォーマーとしての夏鈴ちゃんの魅力はそのままであること、イメージ通り、期待通りの雰囲気で、空気感でパフォーマンスしてくれることにある。現時点で存在する夏鈴ちゃんセンターの4曲、とりわけMVがない2曲がこれから先のライブで披露の機会に恵まれるかは不明だが、それらの曲ではぜひ夏鈴ちゃんのダンスに、表情に、存在感に注目してほしい。

 

「これからのグループを引っ張ってくれる」

 先日グループを卒業した渡邉理佐が、冠番組で夏鈴ちゃんを評した言葉である。その通りだろう。まだ20歳、残念なことであるが先輩である1期生は近い将来もっと人数を減らすだろうし、パフォーマーとしての存在感は唯一無二。特別なものを持つ彼女が、グループを引っ張ってくれないわけがない。それこそ絶対的な主力の一人だった理佐が抜けたのである。夏鈴ちゃんのようなメンバーがその穴を埋めなければ、グループの維持・発展にもかかわる。

 では、今は?今、夏鈴ちゃんはグループを引っ張っているのか?

 3rd、4thの2作では、彼女はセンターを務めず。田村と理佐が新たにセンターを経験し、森田と山﨑は継続してセンターの機会を得た。

 誤解を恐れず一言でいえば、「微妙な立ち位置」である。表題曲メンバーには選ばれているが、3rdでは3列目に。センターの1人→3列目という立ち位置の大きな変化にはとても驚かされた。新メンバーオーディションのCMに出演するなど冷遇されているわけでは全くないとはいえ、テレビ出演やモデルの仕事など露出が多いわけではない。グループのファンからの人気に比べると、メディア露出は少なすぎるくらいである。グループの「外」の仕事を「頑張れる」メンバーを大事にしたいという運営側の意図は少なからず見えるし、そこで他の人気メンバーに比べ遅れをとる彼女の評価は何とも言えない。これはパフォーマー的な特性を持つメンバーの宿命とも言えるし、個人的にはグループの「中」で存在感を放つメンバーをもっと大事にしてほしいのだが、こればかりはビジネスなので色んな考え方があるのは仕方ない。

 現状、グループを引っ張っているとは断言できない。そして近い将来に、グループを引っ張っていく可能性はさほど大きくない。少ない情報を基に運営側の考えを推測すると、こんな答えに辿り着く。

 卒業メモリアルブックでも「夏鈴ちゃんがもっとセンターでパフォーマンスしている姿を見たい」と語るなど、理佐の夏鈴ちゃんへの期待は大きい。特別に可愛がっている後輩である(と思われる)からこそかもしれないが、グループの中にいる人間の評価は高いのだ。その評価と期待を、目に見える形で還元できるのか。できるししてほしい、というのが個人の意見なのだが、そんな明るい未来に少し不安に感じてしまう現状である、というのが正直なところだ。

エース

 「グループを引っ張る」には色んな形がある。センターに立ちパフォーマンスをする、テレビに出まくってグループの知名度アップに貢献する、その他様々な仕事に挑戦し、自らの価値を色んな場所で証明するとともに後進のための道を確保する。また、立ち位置や出番の多寡にかかわらず、ダンスや歌のうまさ、トーク力などを発揮しグループ全体を助ける。そういうメンバーが「エース」と呼ばれるのだろう。

 わかりやすい、「誰がどう見ても」グループを引っ張っているメンバーはいる。が、これだけが「グループを引っ張る」ではない。ダンスなどの練習でリーダーシップを取る、他のメンバーの手本となる、グループ内で意見を発したり周りのメンバーに声掛けを行ったりして良い環境を作る、「アイツにだけは負けない」という他のメンバーのライバル心を掻き立てる。メンバーの姿を画面越しで見て、時折ライブに参戦しパフォーマンスを観戦するファンには見えにくい、見えない形で「グループを引っ張る」ことはできるし、そんなメンバーがいるからこそグループが成立しているのだろう。

 坂道グループのアイドルは、選抜メンバーに選ばれる!など、わかりやすい形での存在価値の向上を目指している傾向がある。それは「応援したい」と思わせるアイドル像を作ることに役立っているし、時に痛々しくはあるものの私もエンタメとして享受していることは否定しがたいので、そのようなスタンスを変えるべきだ!とは言わないし言えない。

 しかし、色んな人がいる。色んな能力を持ち、色んな考え方を持つ人がいる。向上心を持つことは普遍的価値として認められても、その向上心のあり方まで規定するのはあまりに傲慢であろう。わかりやすくない形でのグループへの貢献を望むことは、絶対に間違ってなんかいないのだ。繰り返しになるが、そのような役割を果たしてくれる構成員なくして社会的集団は発展できない。

 夏鈴ちゃんがどう感じ、どんな姿を目指しているのかはわからない。先述の新メンバーオーディションCMで、「アイドルは、私にはまだわかりません」と語るなど、彼女の中でもアイドルとしての理想的なあり方は模索中なのかもしれない。センターで踊り、歌い、一番前の中央でグループをわかりやすく引っ張る「エース」に、夏鈴ちゃん本人はなりたいのかもしれないし、なりたくないのかもしれない。

 だけど、夏鈴ちゃんは「エース」になるためのものを既に持っているし、「エース」だからこそ伝えられる夏鈴ちゃんの良さがたくさんあると思う。グループをもう一段階上へと引き上げてくれる、そんな大きなことを成し遂げられるだけのポテンシャルは、既に私たちに示してくれたのだ。

 「エース」を目指してほしいし、「エース」になってほしい。いち夏鈴ちゃんファンとしての私の願いであるし、おそらくいち夏鈴ちゃんファンとしての理佐の思いも同じ。同じグループで何年もともに活動してきた分、私のものなんかと比べるのもおこがましいほどに強い思いなのだろうが。そして、私や理佐と同じような思いを持つ人は、世界にたくさんいると思う。

 めちゃくちゃに具体的に言えば、表題曲のセンターをこなす夏鈴ちゃんが見たい。圧倒的な曲で、圧倒的な表現力で、圧倒的な存在感を放つ夏鈴ちゃんが見たい。そしてそんな未来は十分に現実的であると思うから、こんなことを書いているのだ。

「いつか」でいい

 私の傲慢な推測でしかないが、もし夏鈴ちゃんが「エース」になるための階段を順調に登れていないことに焦りを抱いているとしたら、そんなの今は仕方ないでしょ!と言いたい。

 だって、競合相手がすごすぎる。何と言ってもあの森田ひかるだ。歌やダンスといったわかりやすいパフォーマンスの能力に加え、表情の作り方や自分の動きの見せ方、自分に求められていることを完全に理解して、すべてを完璧にこなしてしまう。あんな怪物がグループにいるならば、誰だって怪物を前に出して彼女にグループを引っ張ってもらおうと思ってしまう。

 そして山﨑天。最年少であることを差し引いても十分なセンター候補なのに、最年少なのである。ずるい。彼女も彼女にしか出せないものを持っているし、4thシングル『五月雨よ』は彼女以外がセンターを務めることを想像しにくい。グループの未来そのものなのだから、前に出さない理由がない。

 加えてグループが改名後まだ日が浅い上に過渡期にあるという特殊な環境。楽曲の方向性などを見てもまだまだ手探りなのだろうし、主軸にある程度の流動性を持たせ固定しないことは大いに理解できる。特定のメンバーに頼る体制でグループ全体が破綻した前体制への反省からも、例えば2作センターをやってもらった夏鈴ちゃんを超主力からはいったん外そう、みたいな判断はして当然だろう。夏鈴ちゃんの良し悪しとは違う要因が間違いなく絡んでいる。

 こんな状況。甘く見ているのかもしれないが、もし夏鈴ちゃんが「エース」になりたいのだとしても、正直逆風なのだ。だから、夏鈴ちゃん本人の考え方が固まっていないならなおさら、「エース」になるのは「いつか」でいい。まだ、「今」でも「これから」でもなくていい。そう思う。

 逆に言えば、森田という怪物が、山﨑という未来が、グループを引っ張る重責を担ってくれるのだ。夏鈴ちゃんや他のメンバーにとっては伸び伸びとやれるチャンス。森田や山﨑を潰してしまうことは絶対に避けなければならないが、田村をはじめ他にも「エース」になり得るメンバーはいる。夏鈴ちゃん以外に目を向けても、グループの未来は明るいのだ。

 例えば、夏鈴ちゃんや森田と同じ2001年世代には、増本綺良や武元唯衣がいる。奇人増本と、夏鈴ちゃんをもしのぐダンスパフォーマー武元。持ち味は違えど彼女たちも「エース」になることができるポテンシャルを十分に秘めている。

 焦らなくていい。いつかでいい。いつか、「エース」として君臨する夏鈴ちゃんを見たいのだ。

終わりに

 これだけ夏鈴ちゃんについて語っておいて最後に補足をしても建前のように感じるかもしれないが、もちろん第一にメンバー含めグループに関わる全ての人間が幸せであること、そして第二にグループ自体が幸せであること。この二つはこの順番で、夏鈴ちゃんがどうこうより、何より優先してほしい。これらが守られないグループでセンターを務める夏鈴ちゃんなんて見たくない。それでも見てしまうとは思うけど。

 その前提をクリアした上で、やはり「エース」として輝く藤吉夏鈴をいつか見たい。今はそのいつかではないし、いつかは今ではない。今のところは。今その姿を見れていないからこそ、ワクワクは大きくなるばかりである。いつか見られることへの期待は止まらない。

 「いつか」のエース、藤吉夏鈴について語りながら、彼女が「エース」となる「今」をみんなで待とう。

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