「正しい焙煎」のための基礎知識 (旭屋ムック・コーヒー焙煎の技術2017)

「正しい焙煎」のための基礎知識

焙煎を行なう上で、これが絶対という決まりはない。しかしおいしいコーヒーづくりを実現するためには、覚えておいた方がよい要素や手法があることは事実である。

自家焙煎店に求められる
焙煎技術とは


 長い間、コーヒーの生産は収穫量を増やし、栽培しやすくするなど、経済的要素に沿って改良を加えられてきた。しかしスペシャルティコーヒーの概念が登場し、その普及活動が進められてきたことで、コーヒーのクオリティは大きく変わってきている。経済優先の流れからシフトし、より良質のコーヒーを多くの一般消費者が楽しめるようになってきた。
 コーヒー消費国が良質な豆を高く買い、生産地に赴いて、栽培から流通までコーヒーのレベルアップに働きかける動きも活発になっている。生産者側も味に対する努力を続けてきている。そうした良質なコーヒーに対する知識や情報も、昔に比べると、より多くの人が知ることが出来るようになった。
 日本の消費者も、与えられたものをそのまま受け入れるのではなく、自分たちが好みのコーヒーを、積極的に選ぶ時代なっている。おいしいコーヒーに関する知識や味覚体験も、ひと昔前に比べて格段に進歩している。そうした中で、これからの自家焙煎店は、ただ焙煎した豆を売るだけでは、商売を続けていくことは非常に難しいといえる。
 また、今日はコーヒー価格の高騰が続いている。価格競争に陥ると、中小の自家焙煎店はますます厳しい状況になるのは間違いない。
 しかし、同じ嗜好品でも、完成されたものを購入しそのまま販売するワインなどと違い、コーヒーには焙煎という工程がある。その焙煎では、味の調整が可能である。この点こそ、中小の自家焙煎店が勝負するポイントの一つ。良質なコーヒーも含めていろいろな種類のコーヒーが出回る中で、自分でコーヒー豆を選ぶ目と舌を持ち、価格とは別のところで差別化する必要があるのだ。


すべての豆の 「焙煎地図」を作ろう

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 焙煎を行なう際、最近のコーヒー店を見ていて気になるのが、1種類の豆に対して1種類の焙煎しかしないことだ。ひとつの焙煎を試してみたら、たまたま「いい味」ができたとする。すると、「どうやったらその味が再現できるのか」ばかりを追求してしまうのだ。
 しかし、1つの豆に対してひとつの焙煎、ひとつの味づくりしかできないようであれば、いずれ行き詰まるのは目に見える。知識も味覚体験も豊富なお客が来店して、自店にはない味を求めた際、それに応じるコーヒーを提供できなければ、そのお客が再び来店する可能性は低くなるだろう。多様なお客の好みに対応できなければ、自家焙煎店の生き残りは非常に難しくなる。
 そこで、店を長く続けることを目的とした焙煎技術の向上のために、ぜひ取り組んで欲しいのが「焙煎の地図」を作ることである(表1)。
やり方はこうだ。ある1つの豆に対して、ここより浅煎りだと味がない、というところを下限に、これ以上は炭化してしまうというところを上限として、その間を、例えば8段階に焙煎度を分けて焙煎する。そしてそれぞれの焙煎ポイントで味を試して評価を記入し、細かいマス目の地図を作る。これを、他の生豆でも同じように試していく。
 バッハコーヒートレーニングセンターでは、これを「基本焙煎」と呼び、自家焙煎を始めた頃から徹底して行なっている。1種類の豆で何通りもの焙煎をすれば、その豆の味や特徴の変化を把握することができる。基本焙煎により、どの焙煎度でどのような味になるのか、といったそれぞれの豆の特徴を知っていれば、どこがベストかを決めて焙煎したり、販売したりして、自店の特色を打ち出すことができるのである。
 一方、すべての豆の焙煎地図を作ったら、その味を、日々の焙煎で再現することが求められる。しかしこういうと、焙煎過程の緻密さや繊細さばかりを追い求め、迷路にはまり込むように悩んでしまう人も少なくない。
 しかし、どんな焙煎をしても、結果として一番大事なのは“味”である。焙煎の再現ができているかどうかを確かめるのも、自分の味覚である。
今日の自家焙煎店にとっては、多種多様なコーヒーの味を理解でき、味覚と目、耳、五感を使って、コーヒーの味を判断できるように努力することが重要性を増している。


「よい」焙煎とは、
「悪い」要素をなくすこと


 よい焙煎、おいしいコーヒーを提供することを目指す際、もうひとつ知っておいて欲しいことがある。それは「これをやったらおいしくなる」を追求するよりも「このままだと味が絶対悪くなる」という要素を徹底的に取り除くことだ。
 例えば欠点豆。後述するが、欠点豆の混入はコーヒーの味に悪影響を与える。欠点豆が多いのに、それを無視してどんなにこだわりを追求したとしても、味がよくなることは絶対ない。バッハコーヒーが特に重視して日々取り組んでいるハンドピックとは、このコーヒーの味が悪くなる要素を、徹底的に取り除くことに他ならない。よい焙煎とは、そうしたコーヒーの悪い要素が何であるのかをすべて知り、どれくらい悪い要素なのかを理解
して、何よりもまず優先的に排除していくことから生まれるものだ。

生豆と焙煎の関係

 よく「硬い豆は焙煎が難しい」「この豆は焙煎しやすい」などといわれるが、生豆の状態や特徴の違いを知ることは、焙煎のアプローチを決める上で大事なポイントだ。もちろん、個別の豆ごとに最適な焙煎の仕方はあるが、生豆の特徴と焙煎の関係にはある程度の法則性もある。その判断基準となるポイントを紹介しよう。


生豆の大きさ・厚さ


 同じ火力と排気量で、同じように焙煎した場合、小さな豆と比べると、当然大きな豆の方が火の通りは悪くなる。火の通りが悪いのに、火力不足のままだと、豆の芯残りも起きやすく、結果おいしくないコーヒーになる可能性もある。その点で一般的に大きい豆は焙煎が難しいといわれる。同様に、生豆は肉厚な方が、薄い豆と比べて火の通りが悪く、芯残りが生じやすい。また、大きい豆でも薄いものは比較的火が通りやすいが、小さくても厚い豆は焙煎しにくい。
 したがって、焙煎の際に大きさの異なる豆が一緒になっていると、火の通り具合がその大きさによって変わってくる。そうした煎りムラを防ぐため、生豆の粒の大きさは揃っているほうが、焙煎で失敗する確率を減らすことになる。


産地標高


 産地の標高が高く、気温が低い高地で、時間をかけてゆっくり成長したコーヒー豆は、一般的に硬く、小粒になる傾向がある。厳しい環境で栽培された結果、味と香りも豊かな場合が多い。例外もあるが、低地産より高地産のものが珍重され、高値で取引されるケースも多い。
 焙煎においては、硬い豆は柔らかい豆に比べて火の通りが悪く、水分抜けも悪いため、焙煎時にカロリー不足だと芯残りが生じやすい。また1ハゼの後も、豆の表面のシワが柔らかい豆に比べてのびにくい。


水分量


 一般に、水分量の多い生豆ほど、緑、青系の色が濃く出て、水分量の少ない生豆は、褐色、白系の色になる(産地による例外もある)。水分量の多い少ないは、産地の栽培や精製法、輸送法などによって違いが出るほか、保管状態にもよるが、時間が経つにつれて減少していくのが普通だ。ただ、水分の抜け方は豆によって違いが大きく、収穫からの日数だけでは単純に計算できない。
 焙煎においては含水量が多い豆の方が、火の通りが悪く、煎りムラや芯残りが生じやすいため、焙煎が難しくなる。そのため焙煎における水分抜きを上手に行なうことがポイントになる。


ニュークロップと経時変化


 その年度に収穫されたコーヒー豆を、ニュークロップと呼ぶ。入荷したてのものは基本的にみずみずしく、含水量は多く、豆の風味や酸味もしっかりしている。しかし、時間経過とともに含水量が減少し、徐々に色合いは白っぽく変化していく。水分量と同時に、豆の持つ香りや酸味も少しずつ失われるため、豆の経時変化によって焙煎の仕方をコントロールすることが大切になる。


シルバースキンのつき具合


 生豆の表面を覆っている薄皮のことをシルバースキンと呼ぶ。銀色をしている方がよいとされ、茶色に変色している場合は品質が劣ることが多い(パルプドナチュラル製法やポリッシュなどによる例外がある)。
 焙煎の際は、シルバースキンは最初の方で熱が入り、はがれて分離する。はがれたものはチャフ(薄皮)と呼ばれ、焙煎が進むと火災などのリスクがともなうため、ダンパー操作等で飛ばす事が多い。チャフの量は、精製方法の違いが大きく影響している。水洗式の場合、シルバースキンが取れている事が多く、自然乾燥式の場合、脱穀後もシルバースキンが残っていることが多い。また水洗式のコーヒーだと、浅い焙煎ではセンターカットのシルバースキンが白く残る。乾燥式の場合、センターカットのシルバースキンが焼けて黒っぽくなる傾向にある。焙煎後、チャフは残留量が多すぎると、渋みの原因になるため、できるだけ取り除く。


精製法


 コーヒー豆の精製法は、自然乾燥式、水洗式、半水洗式の3種類に大別される(表2)。精製法により香りや酸味の出方が変わり、味わいに大きく影響を及ぼすが、近年はこの精製法で様々な工夫をする動きが、コーヒー生産国において盛んになっている。
 様々な精製法が生産者によって試されることで、多様な味わいのコーヒーが楽しめるというメリットがある一方、精製法によって引き出された個性が尖りすぎている場合、自店の求める味とズレが生じる可能性もある。生豆を仕入れる際は、事前にそうした精製も含めたトレーサビリティの情報を正確にキャッチし、買い手がきちんと目的意識をもって生豆を選ぶことが求められる。
 なお、コーヒーは精製後に乾燥させる工程がある。一般に天日干し、機械乾燥などがあるが、近年は棚に網を張ってその上で天火乾燥させる「アフリカンベッド」という方式を採用する生産者も世界各国で増えている。ゆっくり乾燥させるのでコーヒーの味を損なわず乾燥できることや、撹拌や欠点豆の除去などがやりやすい作業効率のよさもあって、スペシャリティコーヒーの乾燥法としても一般化してきている。

表2 コーヒーの精製法
水洗式(ウォッシュド)
水洗式(ウォッシュド)は、簡単にいえば水洗いしてから乾燥させる方式。果肉を除去したのち、発酵槽で内果皮に残ったぬめり(ミューシレージ)を取り除いて水洗いするフルウオッシュドと、ミューシレージを機械で強制的に取り除くセミウォッシュドの2通りのやり方がある。精製度が高く、豆面も揃っているため、一般的に高品質とみなされている。ただし管理の悪い工場だと、醗酵過程において豆に醗酵香が移ってしまうことがある。その醗酵豆を含んだまま焙煎すると、他の豆まで台無しにしてしまう。味わいとしては、飲んだ時、舌に感じる酸味が強く出る傾向がある。
自然乾燥(ナチュラル)
自然乾燥式(ナチュラル)、もしくは非水洗式(アンウォッシュド)などと呼ばれる精製法は、採取したコーヒーの果実を、天日干しにして乾燥させた後、果肉等を除去する。もともとブラジルなどで主流の精製法だ。独特の香味やおだやかな酸味が出やすく、愛好者も多い。精製所のクオリティによるところが大きいが、他の精製法に比べて欠点豆の混入が多くなりやすく、豆のサイズのバラツキも出やすい。
半水洗式
半水洗式、パルプドナチュラルなどと呼ばれる精製法は、自然乾燥式と水洗式の折衷型。果肉を除去したのちに、そのまま乾燥させるという方法で、残ったぬめり(ミューシレージ)により、ほのかな甘みやハチミツのような風味が加わる。水洗式のよいところを持ちつつ、酸味を調整したい時にも向く。近年は、コーヒーのフレーバーを重視する市場動向にあわせ、導入する国が増えている。また、果肉除去のプロセスで、果肉の残し具合で味わいに差をつけるといった様々な手法が試されている。ただし、乾燥させるのに時間がかかり、そのため豆が腐敗、発酵しやすいというリスクもあるため、乾燥工程が複雑になる。
もう一つ、インドネシアのスマトラ島では、スマトラ式と呼ばれる独特の精製法が行なわれている。果肉を除去したのち、生乾きのまま脱穀し、天日乾燥させたのち内外皮を除去する。他の手法との違いがひと目で分かるような、きれいな深い緑色に仕上がる。


欠点豆


 スペシャルティコーヒーが台頭してきたことで、以前よりコーヒー豆全体のレベルも上がり、特にスペシャルティコーヒーでは欠点豆の混入は減少してきている。しかしどんなに評価が高く、点数の高い豆でも、欠点豆が全くないわけではない。少量でも混ざると、コーヒーの味わいとお客の信用を大きく損なってしまうため、より上質のコーヒーを提供するためにはハンドピックが不可欠といえる。逆に、しっかりハンドピックをすることで、仕入れた価格以上の価値をつけることもできる。
 欠点豆や異物を取り除くのが、ハンドピックの目的であるが、欠点豆は焙煎すると見分けづらくなるもの、焙煎後の方が見つけやすいものがある。
そのため、ハンドピックは生豆の状態と、焙煎後の2回行なう方がよい。ヴェルジや醗酵豆は焙煎後の判断が難しいので、必ず焙煎前に状態をみて、違和感があるものは取り除くのが賢明だ。主な欠点豆のタイプは表3の通り。

表3 主な欠点豆の種類
未成熟豆
成熟する前に採取された、未成熟の豆。雑味、
エグ味をもたらすようなイヤな味の原因となる。機械選別だけでは取り除くことが難しく、ハンドピックで取り除く必要がある。生豆の状態では、独特の緑色をしたやや小さめの豆で判断がしにくい。
醗酵豆
水洗式の醗酵槽に長く漬けておいたり、水洗用の水が汚れていたりした場合にできるものと、倉庫内で保管している際に、菌が付着したものがある。甘ったるいものから、生ゴミに近いもの、薬品のような匂いの原因となり、一粒で50gの豆をダメにすると言われるほど影響が大きい。
黒豆
成熟後、地表に落ちた豆が長期にわたり土と接触して醗酵したもの。黒く変色しており見付けやすい。腐敗臭やにごりの原因になる。影響が非常に大きく、一粒混入するとコーヒー1杯分の風味を損なうとも言われている。
カビ臭豆
乾燥不良や輸送・保管の不備により、カビが発生したもの。カビ臭の原因になる。
貝殻豆
乾燥不良や異常交配、生育不良等によってできる。センターカットから割れてしまい、豆の内側がえぐれて貝殻のように見えることから名付けられた。煎りムラの原因になる。


memo
輸送・包装が進化している
産地からの生豆の輸送や包装方法においても、スペシャルティコーヒーの登場で変化が生まれている。例えば輸送時、高温や急激な温度変化は豆へのダメージを残す。そのためスペシャルティコーヒーなどの輸送は、一定温度での保管が可能なリーファー・コンテナを利用するケースが増えた。
 また、長年麻袋での包装が常識だったが、小ポーションでの真空パックや、熱や湿気に強く、酸素や水分を遮断する穀物用ビニールバッグ(通称グレインプロ)が登場し、生豆の鮮度キープへの期待が高まっている。

生豆の状態をどう把握する?
コーヒー豆のプロは、その生豆の状態や特徴を、手で触ると分かるという人が多い。日々、
コーヒー豆をすくったり、握ったりしているので、違いが感覚として分かるのだ。例えば、いつもと同じ量を手にとってみて軽く感じると、体積に対する豆の比重が小さいと判断できる。また、軽く握ってみてひんやりと感じるものは水分量が多く、ニュークロップである可能性が高いといったことも判断できるという。



焙煎プロセスと、焙煎中の豆の変化

焙煎は、焙煎機のタイプや容量、焙煎に対するその店の考え方などによって操作方法の違いはあるが、適切な焙煎を行なえば、焙煎の大まかなプロセスや、焙煎による豆の状態変化は、ほぼ同じように推移する。以下、焙煎作業の基本的なプロセスと、豆の変化を紹介。

しはししは

予熱

 焙煎は、1日の作業の中で数回の連続焙煎を想定して、焙煎を始める前には、焙煎機をあらかじめ暖気運転させ、釜を温めておく。これを予熱というが、釜に熱量を蓄え、豆を投入した後のスムーズな温度上昇を促すために必要な作業だ。予熱の与え方をいつも一定にすることで、常に同じような焙煎ができるようにしていくのだ。また、予熱をどれくらいの火加減で、どれくらいの温度までやるか、ガス圧や温度上昇の時間などを毎日データとして蓄積していくと、季節によっての焙煎の変動に対応しやすくなる。
 焙煎機の構造や火力にもよるが、予熱で急激に温度上昇させると釜全体に熱が行き渡らず、その後の焙煎での温度推移が不安定になることもある。また、急激な加熱により金属である釜が膨張し、釜そのものを傷つけたり、消耗させたりしてしまうことがある。したがって、予熱はある程度時間をかけて行ない、釜全体をしっかり温める。


豆の投入温度 表4の1⃣ 


 生豆を焙煎機に投入するときの釜内部の温度は、その後の焙煎にかかる時間の長さにも関わってくる。他の条件が同じとして投入温度が高ければ、焙煎は早く進行するという具合に。この投入温度は、豆の投入量や焙煎時の気温によって変えるところもある。バッハコーヒーでは、投入温度はできるだけ変更しない。


豆の投入量


 同じ焙煎機で、火力などを同じ条件で焙煎した場合、生豆の投入量によってその後の温度推移は変わってくる。生豆の量が多ければ、温度の上昇は緩やかになり、少なければ早く温度が高くなるという具合に。そして温度上昇の仕方が変われば、仕上がりの味にも違いが出る。一般的に、生豆の投入量は釜の容量が目安とされる。5㎏用なら5㎏が目安になる。容量に比べて量が少な過ぎる場合は、味の揺れ動きが大きく、コントロールが難しくなる。


中点 表4の2⃣


 常温の豆を投入することで、釜の中の温度は下がる。その下がりきった底の温度を中点といい、味の再現性を図る際の目安にしている。これまでの焙煎データとの違いをこの中点で確かめ、その要因を推察し、火力や焙煎時間を調整して対処するのである。


水分抜きの段階 表4の3⃣


 豆を投入して中点に達すると、その後は焙煎機の豆温度計の温度は上昇し、豆の水分が徐々に抜けてくる。豆の繊維結合も緩やかになってくる。
この過程で、水分の抜け方が均一でないと煎りムラの原因となる。また、豆の硬さや含水量によって、水分の抜け方にも差が出る。何回も焙煎して、水分抜きが適切に行なえる火と排気コントロールの設定を、しっかりと探すことが大切だ。


1ハゼ前 表4の4⃣


 水分が抜けてくると、豆は黄色に変化した後、徐々に体積が小さくなって縮んでくる。最も縮むのは1ハゼの直前である。センターカットの白い部分も目立つようになる。


1ハゼ


 水分が抜けたことで、豆に熱が入っていき、豆の中で化学変化が進んでいく。この化学変化により、コーヒー独特の酸味や香りが形成されてくる。その際、水蒸気や二酸化炭素も発生し、次第に豆を膨らませていく。その内圧に耐えられなくなり、豆の細胞が壊れてはぜるのが、1ハゼである。パチパチという音がして、コーヒーならではの香りが漂い始める。色合いもだんだん茶色さを増していく。1ハゼが完全に終わった段階が、いわゆるミディアムローストになる。


1ハゼ→2ハゼ


 1ハゼの後も加熱を続けていくと、化学変化が進んでさらに内側にガスが発生し、再度はぜる。これが2ハゼである。1ハゼよりやや弱い、ピチピチとした音が2ハゼ。豆の表面のしわものびてくる。1ハゼから後は、豆の持つ味の成分がどんどん発生し、同時に焙煎による苦味やコクも形成されていく。


2ハゼ以降


 2ハゼに入ってさらに焙煎を進めていくと、フレンチロースト、イタリアンローストへと焙煎度が進んでいく。煙もどんどん出てくるため、ダンパーなどで煙を排出する操作が必要になる。また豆自体が高温になるため、温度上昇も早まることがある。


煎り止め


 コーヒーの味の再現性を高めるためには、最も重要となるポイント。予定していた焙煎度合いまで進んだら、豆を釜の外に排出するのが「煎り止め」だ。2ハゼ前後では、進行が非常に早く、ほんの数秒で味わいや香りが変化してしまう。また、豆や釜の余熱でも焙煎が進行するため、常に先を考えながら操作する必要がある。煎り止めの基準は色々あるが、分かりやすく判断しやすいのは豆の色である。さらに豆の形、豆表面のシワ、表面のツヤ等も参考にしやすい。
 煎り止め前に、スプーンで焙煎中の豆をひいてサンプルの豆と比較し、同じ色になるタイミングで豆を排出するのだが、色を基準にする際は、部屋の照明や焙煎中の豆を照らすライトを常に一定の明るさにしておくことが大事である。また薄暗い部屋ではなく、部屋全体が明るい環境で色を見た方が、より再現性の高い焙煎ができるだろう。


冷却


 排出した豆は、冷却箱で攪拌しながらファンによる強制冷却で冷やされる。冷却が不十分だと、豆自体の熱で焙煎が進んでしまい、適切な煎り止めを行なったとしても味にブレが出てしまうので、できるだけ素早く冷却するのが望ましい。


「温度上昇・排気」と味の関係

焙煎はある一定のプロセスを経て進んでゆき、温度進行をグラフにすると、次頁のようなローストカーブを描く。
このカーブの曲がり具合、つまり焙煎時間と温度上昇率の違いによって、仕上がりの味も変化する。その違いを知ることは、焙煎する上でとても重要だ。


水分抜きの段階で、
温度上昇を緩やかにした場合

 生豆の水分量が多かったり、水分量にムラがあったりする場合には、水分抜きの時間をやや長めに取ることで、豆の水分の抜け方が均一になり、煎りムラを防ぐ効果がある。また酸味を柔らかくしたい時にも有効。ただし、味がやや平板になる可能性がある。


1ハゼ→2ハゼの温度上昇を
緩やかにした場合

 その豆の持つ特徴的な香りや味を引き出したり調整したい時に、温度上昇を緩やかにすることは効果的。ただし、火力調整に失敗して温度を下げてしまうと、発色や香りが悪くなり、味も重くなる。


ダンパーの役割

 ダンパーの操作とは、ドラム内の煙やチャフの排出、ドラム内の風量・熱量の調整、外部からの酸素の取り入れに関わってくる。チャフや煙を排出したい時は、ダンパーを開く(排気にインバーター付きのファンを用いる場合は、ファンの回転速度を上げることで排気量を増やす)。
 ダンパーの開閉は豆への熱の与え方にも関わり、焙煎による味づくりを調整する役割を持つ。例えばダンパーを閉めた状態では、熱されて膨張した空気が釜内にこもる状態となる。釜の内圧が高まった状態で、豆に熱が加えられるイメージだ。
 一方、ダンパーを開放にすると、釜内部の空気や蒸気は排出され、常に釜内に空気が流れている状態になる。熱を帯びた空気が豆の表面に当たる形で熱が加えられていくイメージだ。
 その中間がいわゆるニュートラルで、釜内部の膨張した空気が、自然に排気される。焙煎は急激には進行しない状態で、どんな豆でも同じような味、風味になる傾向にある。


1ハゼ・2ハゼ時の排気


 1ハゼ以降は、豆から水蒸気や煙の成分が多く出されるため、ダンパーを開いて排出するのが一般的。このときの排気をどの程度にするかで、味の仕上がりに違いが出てくる。
 開き方が足りない場合は、豆にスモーキーな香りが付き、コーヒーの他の香りを消してしまう場合がある。全体的に重い味になる可能性がある。
一方でダンパーを開きすぎると、香りや味の成分の中で揮発性の高い要素が飛んでしまい、物足りない味わいのコーヒーになってしまう。
 2ハゼ以降は、豆からさらに多くの煙が放出され、温度上昇も進むので、さらに排気量を増やしていく必要がある。排気が足りないと煙かぶりのコーヒーになってしまう。

しきひみこしはし12357

A の味わい
短時間で豆に熱量を与えた場合、豆の酸
味が強く形成され、輪郭のはっきりした
強い味になる傾向がある。ハゼ方も大き
く、豆の繊維組織の壊れ方も大きくなる。
そうすると、豆の持つ香りや味の成分が
速いスピードで放出されるため、焙煎直
後から明確な香りと味が出る。ただし、
成分が揮発するのが早いため、焙煎後、
数日たつと、急激に香りや味が失われ、
味のないコーヒーになってしまう。また、
適切な火力の許容を超えて急激に温度上
昇させ、さらに短時間で焙煎すると、豆
の表面が焦げて煎りムラになり、渋みだ
けのコーヒーになってしまう。
C の味わい
火力を抑えて長時間かけて焙煎すると、
酸の形成も緩やかになり、同じ焙煎度の
場合、他のA、Bと比較して苦みを感じや
すい。全体的にはマイルドな味になる傾
向。焙煎後も、香りや味の成分が緩やか
に放出されるため、比較的長い期間、同
じ風味を維持することができる。ただあ
まり時間をかけすぎる=豆に最低限のカ
ロリーを与えない状態だと、ただ豆に色
がつくだけで香りも味もないコーヒーに
なる。


焙煎機のタイプによる違い

焙煎機は、大きく直火式、半熱風式、熱風式の
3タイプに分けられる。


直火式

 ドラムには無数の穴が空いていて、直接コーヒー豆に熱源が当たるのが直火式だ。味わいとしては、豆が持つ味と香りを引き出しやすく、明確で強いコーヒーの味を作りやすい。欠点としては、豆に直接火が当たるため、焦げやすく、豆のふくらみにやや欠ける場合がある。


半熱風式

 熱風式の一種で、熱源が直接シリンダーを温め、かつ排気ファンによって吸引された熱風によっても、ドラムの中の豆に熱が加えられる。ドラムに穴は空いていないので、熱源が直接コーヒー豆にふれることはない。直火式のような香ばしさや強い味は出しにくいものの、マイルドでバランスのとれた味を作りやすい。豆はよくふくらむ。


熱風式

 ドラムに直接熱を与えるのではなく、別ユニットのガンバーナーなどで熱した熱風をドラム内に送り込むことで焙煎する。高温まで焙煎しても焦げにくく、温度もコントロールしやすい。より軽くマイルドな味のコーヒーを作ることができる。熱風機は、工場を持つ大規模ロースターで使われる大型機が主流だが、最近は小型の熱風機も広まっている。


焙煎機メーカーによる違い

 焙煎機は国内・海外を含め、限られたメーカーで生産されているが、そのメーカーの設計思想により、機械の構造や材質、ドラムの作り方まで、意外と大きな違いがある。どんな焙煎の仕方に向いているのかや、操作性なども変わってくるのだ。したがって購入の際には、予算はもちろんだが、自店がどのような豆を焼きたいのか、ターゲットとする客層も考慮する必要がある。最近では操作方法を指導するメーカーが増えてきたので、購入前に可能性のある機械はすべて試すことが望ましい。


焙煎機の大きさ

 焙煎機は同じメーカーでも、様々なドラム容量の焙煎機を揃えている。一般的に業務用では、焙煎量3kg 〜30kg の焙煎機を小型焙煎機、30 〜100kg を中型焙煎機、100kg 以上を大型焙煎機と呼ぶ。1kg 以下は、サンプル焙煎用の機器として捉えられている。
 日々どれくらいの量を焙煎するかによって、どの大きさを選ぶかは変わってくる。少量ずつ焙煎して多種類を販売したい、大口の卸し先があるなど、店の営業形態によって判断したいところだが、自家焙煎コーヒー店として、豆の小売りを視野に入れて商売するのなら、最低でも3kg 以上の焙煎機は必須だ。


天気や季節、焙煎環境との関係

 コーヒーの焙煎は、季節や天気による気温・湿度の変化により、影響を受けることがある。
 例えば、夏場で気温が高いときは、生豆の常温状態の温度も高くなりやすい。するといつもと同じ温度で生豆を焙煎しても、中点が高くなったり、温度の上昇率が早まったりする場合もある。

 一方、冬になると今度は生豆の温度が低くなり、中点が低くなったり、温度上昇が緩やかになる。また梅雨から秋にかけては、例えば暴風雨などの影響で、ダクトの排気が弱くなることもある。そうなると、火力やダンパーの微調整が必要になるケースもある。
 ただ、最終的に大事なのは出来上がったコーヒーの味である。焙煎後にカッピングで味を確認し、目的の味が出来上がっていたら、細かな変化に神経質になり過ぎることはない。


焙煎室の環境づくり

 焙煎機の設置環境も、安定した焙煎を行なう上で大事な要素となる。例えば、焙煎する部屋は、給気口と排気口が十分あることが望ましい。よく新築ビルなどに新たに焙煎機を設置する際、給気口が十分にないため、焙煎機のバーナーの燃焼が安定しないということもある。
 また、最近はカフェの店内、店外からよく見える場所に焙煎機を設置するケースもあるが、中には客席に近いところに置かれる場合もある。営業中は焙煎しないとしても、安全面や安定した焙煎のために、焙煎機と客席スペースの間はガラス窓などで区切り、焙煎室としてしっかり確保しておくことが望ましい。
 さらに最近の話でいうと、車のガレージなどを焙煎室がわりに使う例もあるが、そうした外気の影響を受けやすい場所では安定した焙煎は難しいだろう。


煙突の立ち上げ方

 焙煎の環境づくりとしては、排気設備の状況も焙煎に影響する。排気ダクトの配管の仕方や、煙突の立ち上げ方によって、排気の抜け方は変動するからだ。
 一般的に、外に立ち上げる煙突は高くすればするほど排気の抜けは強まり、部屋内部の横のダクトが長ければ長いほど、排気の抜けは弱まる。そのため、煙突による排気効果を得るためには、横の長さに対して1.5 倍以上の縦の高さが必要だとされる。

「よい焙煎」の評価

 自家焙煎店では、味を客観的に評価できないと、焙煎によって味を調整することができない。また、お客におすすめするためにも、自店のコーヒーの特徴をつかむことが不可欠だ。そのためには、実際に味を確かめるプロセスが必須である。数多く飲んでみて、舌と感覚を鍛えたい。

 例えば、見た目の色が揃っていて、きれいな状態である方が、「よい焙煎」といえる。味わいに関しても、苦くても酸っぱくても好みの問題だが、飲み干した後に不快な酸味や渋みがなかなか消えないものは、「よい焙煎」とは言えない。まず最低限として、マイナスの味がないことが、「よい焙煎」のための判断規準となる。

 特に、未熟な焙煎技術によって出てしまう味の要素としては、次のものが挙げられる。


煙かぶりの味

 揮発成分や煙の放出が多くなってきた時、それに応じた適切な排気ができないと、煙かぶり、もしくはガスごもりした味わいになる。ツンとくるような、鼻を突くような刺激臭(ロースト臭ともいう)がする場合もある。


渋み

 爽快な味の切れがなく、いつまでも下あごに残るような味わいがある。不快なエグさのある酸味、生モヤシをかじったような渋味、切れの悪い不快な苦味などの場合がある。主に芯残りや煎りムラが原因である。

 煎りムラは、豆の一個ずつの色がムラになっていること。見た目で判断できる。芯残りとは、火の通りが悪く、豆の中心部と表面部分の間に焼き加減のムラがあり、中心まで火が通っていないこと。中心部分が焼けていないため、表面上は一定に焼けているように見えるため、判断が難しい。