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コーヒー自家焙煎技術講座(柴田書店1986年刊) [2]焙煎の基本方法 (89~105ページ)

[2]焙煎の基本方法   (1)焙煎の基本作業

(ア)焙煎を始める前に 

 これからの説明は,自家焙煎店で多く使われている小型電動焙煎機3~5kg釜を中心に考えたものである。
 焙煎作業には集中力が必要と言われている。焙煎技術者の健康状態,精神状態も自動車のドライバーのように焙煎過程によく現われるという。心身ともに健康状態を保つことも大切である。

 (i) 始業点検
 自家焙煎店にとって焙煎機は心臓部である。事故・故障のないことが第一条件である。まず,焙煎を始める前に始業点検を行なうこと。焙煎機のすべての仕組みが正常かどうかをチェックする。備品類が所定の位置にあるかどうか,作業ライン上に余計な物が置いてないかどうか確認する。
 焙煎は途中でストップのできない連続作業である。慣れない間は慌てて事故を起こしたり怪我をしたりする。習慣化するまで確実に行なうことが必要である。(注1)
 自家焙煎店で多く使われているガス燃料釜は,ガス管とその連結部の点検が欠かせない。

 (ii) 作業手順
 個々の作業動作分確実にタイミングよくできるように反復練習し,前後の動作の関連も考えて,作業に適した位置,姿勢を決める。
 あらかじめその日に焙煎する生豆を検量して,コーヒー名・焙煎量・使用目的・焙煎度合を記入したカードを添えると,勘違いや混乱を避けられる
 (表14焙煎記録カード参照)。

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①スイッチを入れドラムを回す。
②バーナーに着火。
③予熱火力調節。着火は目で確認する。
④ダンパー調節。
⑤ドラム焙煎豆取り出し口の閉鎖確認。
⑥ホッパーに検量した生豆投入。

⑦所定温度でドラム内に生豆を投入。
⑧第1回目の焙煎開始。
⑨投入弁を閉めて次の生豆をホッパーに投入,ダンパーを調節する。
⑩焙煎の火力を調節する。
⑪スプーンで経過確認。
⑫必要があれば,再度火力調節をする。
⑬炒り止め前に冷却ブロアーのスイッチを入れる。
⑭冷却槽の製品取り出し口の閉鎖確認。
⑮スプーンで炒り止め確認。
⑯素早く取り出し口を開け,冷却槽内に取り出す。
⑰火力調節をして弱火に。
⑱第1回目の焙煎豆の冷却開始。
⑲本体冷却一体型ブロアーの場合は,切り換えダンパーを冷却に切り換え
 る。3分以上経過後,第2回目の焙煎に入る。
⑳所定温度でドラム内に生豆を役人。
㉑第2回目の焙煎開始。

㉒投入弁を閉めて第3回目の生豆をホッパーに役人。
㉓第1回目の炒り豆冷却終了。
㉔焙煎豆の取り出し。
㉕スプーンで2回目の焙煎経過の確認。
  あとは,これの繰り返しである。

(注1) 事故・故障
 一番多いのは,シリンダーと鏡板(シリンダーをはさんでいる鉄板)にシリカ系の硬い小石,鉄片,コインなどがはさまってシリンダーが回転しなくなる。
 コーヒーを釜の中で燃やしてしまった。
 生豆投入口(ホッパー)から異物を入れてしまってシリンダーが噛んでしまった。
 ダンパーシャフトなどのピン類の抜け落ちと破損。ベルトの摩耗と破損,プーリーの異物のくいこみによる破損。電気系統(モーター、スイッチ板など)に間違って水をかけた。
 注油しなかったので重くなって,動かなくなって摩滅した。
 これは故障ではないが突然取り出し口が閉まらなくなることがある。これは取り出し中にコーヒーが蓋の隙間にはさまったのをそのまま閉めたために起こる。冷却前のコーヒーは柔らかく,蓋で挟むとlmm以下になる。それがじゃまになって蓋が閉まらなくなる。これを防ぐには掃除をすることである。
 それをむりやり閉めると,止め金具がだめになり,蓋に隙間ができて冷気が入り焙煎が悪くなる。
 簡単なことだが知らないと大事に至る。

 (iii) 連続焙煎の順序
 何点か連続して焙煎する場合の順序は,焙煎度合の浅いものから深いものへと焙煎する。量的には少ないものから多いものへと焙煎すると,作業ロスや燃料ロスが少なくてすむ。


 (イ)火力

 火力調節はダンパー調節とともに味にかかわる重要なことである。
 焙煎装置のバランスがとれていれば,生豆の前処理は別にして,この火力とダンパーの2点の調節が焙煎のポイントである。
 予熱のときの火力は釜全体を温めるのが目的であるから,弱火か中火程度が適当であろう。
 空焚き中に高温でドラムが焼けていると,生豆投入時に温度が下がるまでドラムに触れたところが斑点状に焦げるいわゆる斑点豆になる。
 火力調節の基本として焙煎機それぞれに応じて,次のような火力の程度を調べておく。

 a 焙煎がほとんど進行しない火力(弱火)
 b 焙煎が徐々に進行する火力(中火)
 c 焙煎が急速に進行する火力(強火)


量的変化や外気温度変化を受ける直火式・半熱風式焙煎機は,それに応じて火力をスライドさせるのが基本である。

 (ウ)ダンパー操作

 ダンパーには二通りある。ドラム(焙煎)排気ブロアーと冷却排気ブロアーが共用になっている共用型と,それを別々に持っている独立型とである。(注2)
 ダンパーの役割は燃焼ガス・温度の付加された気体の量をコントロールすることにある。基本的には開ければドラム内の温度は上がり,閉めればドラム内の温度は下がる。
 独立型にはダンパーが2つある。ドラム(焙煎)排気用ダンパーとブロアー切り換え用ダンパーである。
 焙煎中は切り換えダンパーをドラム排気にして,その風量(ドラフト)をドラム排気ダンパーで調節する。
 独立型はその機能を別々に持っているのでブロアー切り換えダンパーはない。
 ダンパーは目盛り上「閉め」になっていても、構造上は若干開いていて「完全閉」にはなっていない。その意味は不完全燃焼の防止と二次燃焼(未燃焼ガスが煙道その他で燃え出すこと)の防止である。(注3) 
 ドラム排気ダンパーの始業点検は確実に行なうこと。

(注2) ブロアー
 ブロアーは焙煎機本体の排気と冷却機の排気のためについているわけだが,排気用と冷却用に別々にブロアーを持っている機種にはラッキーの4 kg釜以上がある。ブロアーが別々なので当然排気ダクト(煙突)も二つになる。
 本体の排気と冷却機の排気をひとつのブロアーで共用しているタイプにはフジローヤルの1,3,5kg釜がある。
 ブロアーを共用しているので排気経路はひとつになりダクトもひとつである。ひとつのダクトで本体の排気と冷却機の排気をするのでダクトの径が大きくなる。   
(注3) 不完全燃焼・二次燃焼
 本体の排気ダンパーが完全閉めになっていると火室(バーナーのあるところ)から先に空気(酸素)が吸い込まれないために不完全燃焼を起こす。それを続けているとダンパーの隙間から吸い込まれた未燃焼ガスが煙突の隙間から吸い込まれた空気に触れて燃え出す。これを二次燃焼という。二次燃焼はダンパーを開けるか火を消せば止まるが,ダクトについていたチャフやすすにその火がつくと止めようがなく,最悪の場合火災になるので注意する。


 (エ)スプーンの使い方

スプーンは焙煎中の豆をドラムの中から取り出して見る道具である。
 ホッパーのついていない焙煎機では,投入口の蓋を開けてスプーンで豆をすくう。その際,あまり奥ヘスプーンを入れると回転ドラムにスプーンを取られて危険である。また,スプーンを回転ドラムの中に落とさないように注意する。
 ホッパーのついている焙煎機では前面にスプーンがついている。豆を見るときはスプーン面を上向きにして抜き出す。見終わったら戻してスプーン面を下向きにして豆をあける。焙煎中はスプーン面を必ず下向きにしておく。
 小型焙煎機には,回転軸にスプーンがついている機種がある。このタイプのスプーンはドラム内に豆があるときは,自動的に「すくって捨てて」が回転にともなって繰り返されているので抜き差しするだけでよい。

 (オ)機械の保守


 保守として第1に重要なのは焙煎機の掃除である。焙煎中に出たシルバースキンやチャフ類を掃除するために,掃除口がある。 (注4)
 シルバースキンやチャフ類は焙煎作業の結果,かなりの量が煙道・煙突内に綿状に付着する。錦状に付着したチャフは火がつきやすく,非常によく燃えるので危険であるから,定期的に必ず清掃しなければならない。
 自家焙煎店は焙煎機が故障したら商品の材料が入手できなくなるのだから終わりである。ベルトの交換,グリースアップ,ベアリングの交換,チェーン,スプロケットなどの油差しも忘れられない。
 焙煎機が変われば味も変わってしまうので,できるだけ同じ機器を長く使いたい。そのためには,保守をしっかりしていく必要がある。


(2)標準的焙煎過程

 焙煎過程にどのようなことがあるのか,生豆投入からおおざっぱに順を追って見てみよう。
 火力は弱火,ダンパーは「蒸らしダンパー」(ダンパーを閉め気味にする),釜の温度は180度,生豆2kg投入,釜の温度が下がりだす。豆の音は堅くチャチャチャである,2,3分で150度前後になり温度低下は止まる。
 青臭いにおいが出てくる。温度が徐々に上がりだす。豆が柔らかくなる。湯気が出てくる。豆の音がサッサッサッに変わる。色が白っぽくなる。水分の多い豆は茶色になる。全体的には豆の色は肌色になってくる。水分の多い豆は水分の抜けたところだけが肌色になってくる。青臭いにおいが少なくなる。
 9~11分経過,水分が抜けて豆が縮か。豆が再度,若干堅くなる。肌色が濃くなる。蒸らしが終わり,火力を調節し,ダンパーも調節(開く方向に),温度は200度前後まで上昇する。センターカットが開いてくる。 (注5)
 1度目のハゼ。音はハナバチ。香ばしい甘い香りになる。豆が膨らみ,肌色から茶色になってくる。煙が出て,しわがのびる。香りが変化する。焙煎スピードに応じて火力調節,ダンパー調節をする。茶色が濃くなる。
 2度目のハゼ,音はピチピチ,豆が大きくなる。 18~20分経過,茶色の上に黒味を帯びてくる。ツーンとしたにおいが強くなる。コーヒーの色が黒っぽくなる。焙煎全体の所要時間は20~25分程度である。
 焙煎の若干の違いが,コーヒーの味や外見に影響する。このブレをなくすことが重要になる。

  (注4) シルバースキンやチャフ類
 豆が投入されると,表面についていた微塵(チャフ)や豆が焙煎されてゆるんできて(焙煎し始めてから4分から6分),豆についていたシルバースキンがはがれてくる。これが煙道に吸い込まれて付着する。煙道に火が入って煙突が焼け火箸のように真っ赤になった例もある。煙突類は定期的に掃除することてある。そうすれば最悪の事態は免れる。自然乾燥式のブラジルとかマンデリンなどシルバースキンの多い豆は,シルバースキンが豆から離れたピーク時にダンパーを最大に開けて釜から出すと,乾燥しきったシルバースキンが焦げて火がつくことや釜汚れ,豆汚れを防止できる。
  (注5) センターカット
 豆の内側(フラットビーン)の平らな方にあるスリットの部分。
 柔らかい豆ほど1度ハゼの前にセンターカットが大きく開く傾向にある。
 これで色と香りの変化とともに水分の抜け終わりが確認できる。


(3)基本焙煎の方法

 焙煎技術はアマチュアが炒るのであれば,オーバーロースト等失敗しても個人の問題であるが,商品としてのコーヒーはそうはいかない。
 最低,次のことが要求される。

 (i)同一ロットの生豆を同じ焙煎度に何度でも焙煎できること。
 (ii)同一ロットの生豆を同じ形状に何度でも炒れること。
 (iii)同一ロットの生豆を同じ味に何度でも炒れること。
 (iv)上記の炒り方を生豆が変化してもできること。

 すなわち再現性がポイントである。
 したがって,これから学ぶことは,再現するための基準を身につけることが中心になるわけであるから,最初に基本,基準焙煎を身につければよい。
 その焙煎をもとにして,どうしたら同じように焙煎できるかを考えて反復練習するのである。焙煎過程を記録に取り,いつ,何の因子でチェックするのか,前回と違っていたら何を調節すればよいのかを学べばよいのである。
 基本焙煎にする生豆は焙煎過程が素直で各々の因子が観察,確認がしやすく,味も焙煎技術の良し悪しで極端に側らない,いわゆる焙煎のしやすい豆を選んだ方が焙煎の全体が理解しやすい。それで焙煎の全体が理解でき(i)(ii)(iii)ができるようになったらそれを基準焙煎にする。
 具体的な例で初期,自家焙煎店で多用されている方法を基準にすると次のようになる。


焙煎機 3kg~4kg釜
 焙煎量 2kg
 コーヒー名 ハイマウンテン,ハイチ,キューバなど柔らかいタイプの豆
 焙煎度 フレンチロースト(7度)
 コーヒー豆は薄青白タイプ,カリブ海系の生豆で,焙煎量はガス通りがよく少量焙煎のことも考えて3kg釜ならば2 kg, 4kg釜ならば3kgがよい。
 焙煎度はフルシティからフレンチ・ローストまでとする。初心者のイタリアン・ローストは着火の危険があるので,火力とダンパーの調節が正しくできるようになってから練習するとよい。基本焙煎は表15の焙煎過程図を参考にすれば比較的簡単にマスターできると思う。  (注6)

(注6) イタリアン・ローストの着火
 イタリアン・ローストまで焙煎が進むと揮発成分や煙が出てくる。このときに火力が強いと豆に火がつくことがある。
 これは,たいてい排気が開に合わないぐらいに火力の強い,早いスピードで焙煎しているときに起こるので,揮発成分が本体に充満していて豆全部に一気に火がつき危険である。
 慣れないうちは深炒りの加熱は慎重に徐々に火力を上げてその焙煎機によい火力と焙煎スピードと排気能力(その焙煎スピードと量でいぶり臭が出ているかいないかでおよそ見当がつく)を知ってから焙煎するとよい。

 そこで,焙煎の過程にはどのようなことがあるのかを知るのが先決である。
 それを図式化したのがこの焙煎過程図である。これで焙煎過程の各々の因子を知り,実際に確認できるようになるとよいわけである。
 この表では標準的に焙煎するなかで五感識で確認のできることを要素とした。

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--時間--
 基本的には短時間でテクニックを要さないで目的の味の出せる焙煎が一番よいわけであるが,焙煎度合がフレンチ,イタリアンで,量はフルローストの場合20分前後が一般的である。早い場合(短時間焙煎)でも17分前後,遅い場合(長時間焙煎)は幅があり,25分から50分かけるというものまである。 (注7)
 コーヒーの味や形状は焙煎時間が同じ20分間でも,どこの過程にどのような温度,火力で,ダンパーをどの程度で,時間をどのように使ったかによって変化する。

(注7) フル・ロースト量
 その焙煎機での最大焙煎量。ここでは3 kg,5kg釜を基準にしているが焙煎機が大きくなってもそれにつれて火力も大きくなっているので特殊な焙煎以外は時間的には大差ない。

--音,ハゼ--
 ハゼはひとつの豆に2度ある。 (注8)
 1回目のハゼは一般的にパチパチという音で力強く音も大きい。生豆の性質にもよるが,ハゼの始まりからハゼの終わりの音の変化をよく聴くと,それぞれの豆のハゼ方がある。
 乾燥が一定のもの,粒が揃っているもの,柔らかい豆は一気にハゼはじめる。逆に不揃いなものは間を置きながらハゼる。温度が低い場合も同じようになる。
 ハゼの始まりからハゼの終わりまでの時間がポイントである。
 ハゼの途中で温度を下げるとハゼは途中で止まってしまい重い味になる。そうした豆は大きく膨らまないままになる。その後,温度を上げてもハゼの温度になる間に焙煎(色づき)が進んでしまい,暗い色になりつやがなくなる。低い方への温度調節はハゼの前までにする。
 ハゼの途中で下げたい場合は徐々に下げる。高い方への温度調節はいつでもよいが急激な加熱は避け万方がよい。
 2回目のハゼはピチピチという音でハゼるので,1回目との区別は容易につく。温度が高いと,1度ハゼと2度ハゼの間隔が短くなり,豆の縁やセンターカットの部分が焦げる炒りムラになることが多い。

(注8) ハゼ
 1回目のハゼはハゼの始まりから終わりまでの時間は,火力,焙煎量,豆の性質によって変化するので一概には言えないが,概ね2分間ぐらいである。2回目のハゼも同じぐらいのハゼ時間である。
 ここでちょっとハゼについて考えていただきたい。もし生豆に全くばらつきがないならば,同じ条件で焙煎しているのであるから,釜の中の豆は全部同時にハゼて,ハゼ音はパチの|回で終わりのはずである。しかし,ハゼはどんなに揃ったよい生豆でも2分間ぐらいかかる。それは外見上揃っている生豆でもハゼ時間分だけばらつきがある証拠である。そこでどんなによい豆でもできるだけ足並みを揃えるための火力調節がいるということである。
 次に,先にハゼた豆の焙煎ができるだけ進まない火力を見つける必要があること。そうしないとハゼ時間だけのムラが次の焙煎過程に持ちこされて外見上それほど炒りムラには見えないが,焙煎度合の違ったものが混じることもあって,味はかなり重くなる。

--色つやの変化--
 焙煎によってコーヒー豆のたどる色の変化の把握は,チェックポイントとして重要なことである。色具合と味の変化とその節目を知ること。
 色の変化は含水量,生豆の性質,油脂成分の量などによって変わるので,手始めにキューバ,ハイチ,ハイマウンテンなどの色づきが素直な豆で観察するとよい。それを基準にすれば途中で出てくる細い黒いしわに惑わされることがなく,実色を観察できる。 (注9)
 その後,ニュークロップ,水分の多い豆,堅い豆,マンデリン,トラジャ,それぞれの中間的なものなどの色の変化を知り,類型的に分類するとよい。
 ①マンデリン,トラジャや含水量の多い豆(例えばコロンビアのニュークロップ)は,肌色になりC点の手前で茶色になってから豆の扁側部や突起部分か肌色になってきてハゼる。
 ②キューバ,ハイマウンテンや含水量の少ないオールドクロップは白っぽい薄緑や黄色っぼい肌色になり,薄い茶色になってハゼる。
 1度ハゼから2度ハゼまでの色づき具合の微妙な違いを読み取ることが大切である。2度ハゼからは茶色に黒みが加わってくる。この黒みの増してくる色具合が目安になる。

(注9) 色の変化
 色と焙煎度合を知るために色差計を使っているロースターもある。
 高価なので一般の自家焙煎店では求めにくいが,ロースター間で色差計による焙煎度合が統一されれば焙煎度合のひとつの基準になると思われる。

--形状--
 コーヒーは1度ハゼの手前(水分が抜けたところ)で若干縮む。1度ハゼで豆は膨らみ,2度ハゼの手前でしわがのびて一段と大きくなる。
 一見同じような炒り上がりでも,膨らみとしわののび具合で味が変化する。香りも違う。その節目,節目を知ることが炒り止めのタイミングの基準になり,炒りぶれの防止になる。味のコントロールポイントとして重要なことである。
 例えば,1度ハゼ後の豆ののびきりの前後,2度ハゼ後の膨らみ前後などである。その節目の前と後では味の経時変化も違う。節目の後になるほど水分が抜けるのと,豆が膨らみ炭酸ガスが豆の中に多くなるので,昧は経時変化に対して安定する。
 1度ハゼ終了後,香りの変化するおとりから油脂分か豆の表面に現われてくる。この油の表出量と出てくるスピードも重要な変化である。ニユークロップや油脂分の多い豆は油脂分の出方が早く,これが熱せられて表面焼けをする。これは豆より早く色づくので炒り止めに注意する。

--香り--
 はじめは青臭いにおいで,1度ハゼの手前で青臭さがなくなる。1度ハゼの後,香ばしい香りになる。その後,2度ハゼの手前で,ツーンとした鼻にくる強い香りに変わる。ここがひとつの節目で,これの手前と後では味も変化する。

--ダンパー--
 ダンパーは焙煎が進行するにしたがって,開けていくのが基本である。ダンパーの用途を分けると,①蒸らしダンパー,②焙煎ダンパー,③排煙ダンパーということになる。ダンパーを開ける量は,その焙煎装置の能力によって違うので,一概には決められないが,概ね下記の範囲である。

 ①蒸らしダンパー 開度は4分の1から3分の1.生豆の水分抜き。生豆の大きさの違い,乾燥度の違いなどの足並みを揃えるときに使うダンパー。(注10) 
 ②焙煎ダンパー 開度は2分の1から2分の1強。焙煎をスムーズに進行させるときのダンパー。
 ③排煙ダンパー 間度3分の2から全開。2度ハゼの手前ごろからの揮発成分の排出,排煙のときに使うダンパー。

 ダンパー開度とそのタイミングは焙煎装置,焙煎方法,生豆の性質,その量によって変化するので,焙煎練習で確認決定する。
 蒸らしダンパーと焙煎ダンパーの基準は,生豆投入口に手をかざして,ダンパーを徐々に開けていって熱い空気が出ている間は蒸らしダンパーで,熱い空気が出てこなくなったらそこから先が焙煎ダンパーである。(注11) 
 蒸らしダンパー開度が焙煎ダンパー開度にあまり近いと蒸らし効果が薄れるので,蒸らしダンパーは焙煎ダンパーの範囲の2分の1から2分の1強程度にする。
 排煙時のダンパーは,ドラム内に発生する煙や揮発成分をできるだけ大量に早く排出させるためのものである。そのときにダンパーをあまり開かず,火力をダンパーで抑えた焙煎をしていると,その分の熱吸気量が増して,焙煎のスピードが加速され,煙や揮発成分の発生量も急増する。
 そこで煙,揮発既分かオーバーフローして,「いぶり臭」のコーヒーになり,味も悪くなる。最悪の場合,ドラムの中でコーヒーに火がつくか,またはコーヒーを取り出すと同時に一気に火がつき冷却槽の中で燃え上がるので,注意が必要である。 (注12)
 したがって,火力を弱めなくてはならなくなるが,概ね焙煎機は温度が急には下がりにくいので煙の発生前にチェックして,ダンパーを調節する。

(注10)  蒸らし
  1度ハゼの手前までは生豆のばらつきを均一化するための作業操作が中心になる。そこで急激な加熱は避けるわけだが,その火力に合ったダンパーに調節しなければならない。それを蒸らしダンパーとする。その度合を蒸らしダンパー開度という。
 基本的に火力が弱いのだからダンパーは閉めぎみになる。開け過ぎると二次空気が入り過ぎて燃料の無駄になる。
(注11)  火力をダンパーで抑えた焙煎
 火力に対してダンパーを閉め過ぎていると焙煎機本体を加熱して温度コントロールができなくなる。さらに焙煎が進んで排気のためダンパーを開けたときに,ダンパーが閉まっているために吸い込みがなく,火室にたまっていた熱量が一気に釜の中に吸い込まれ急加熱になる。余った熱はバーナーロ(火室の開
口部)からバックしてくる熱でおよそ計ることができる。これが極度に多くて熱い場合は火力を弱める。
(注12)  冷却槽での火災
 排煙時にダンパーを閉め過ぎていると,コーヒーから出る揮発成分と煙で本体の圧力が上がり空気(酸素)が遮断されることになる。したがって釜の中では着火しないがコーヒーが炒り上がって取り出し口を開けたときに空気(酸素)に触れて火がつき燃え上がる。
 このようなときは冷却用の煙道に火がつかないようにするため冷却ファンを止めて火を消す。水で消すときは電気系統に注意する。



--温度--
 焙煎温度は生豆の熱の吸収量であるから,生豆の投入前の釜の持っでいる温度(予熱という)も問題になる。予熱が変われば焙煎過程も変わる。したがっていつも同じ予熱から焙煎し始めるとよい。(注13) 
 例えば200度の釜に3kgの生豆を投入して,温度が下がりきったところを中点とする。そこから温度が徐々に上昇していくスピードを温度で監視して,火力やダンパーを調節するわけである。
 焙煎とは炒リムラをしない火力をバーナー(熱源)とダンパーで調節して,目的にかなったよい味のときに炒り止めることである。
 焙煎は芋を煮るのとは違って,焙煎が進む(焙煎度合)にしたがって,味が変化していく厄介な作業である。したがって,炒り止めのタイミングを的確につかむことも重要なことである。

(注13)   温度計の位置
 同じ200度といっても温度計のセンサーの取りつけ位置によって温度が違う。ここでは焙煎機上部またはそれに近い排ガス温度である。

 因子は初めての焙煎でも「ハゼ」のように確認できるものと,色,しわ,形状のように変化が小さくて焙煎の途中で確認しにくいものがある。そこでまず最初に因子のひとつひとつの変化を知る必要がある。
 焙煎過程では各因子が重層的に現われてくるわけだが,その変化の節目節目を順を追って観察確認していけるようになることが,炒りぶれのないよい焙煎への早道である。
 この確認ができないと,「どこで何をするのか」の基準がとれないし,炒り止めのタイミングもつかみにくい。

(4)各種焙煎法

 --①単品焙煎--
 1種類のコーヒーだけを炒る焙煎は,全てその名のとおり単品焙煎である。ストレートのコーヒーは無論これによるわけだが,基本焙煎もこれに入る。使用する生豆はひとつひとつこの焙煎でその生豆の焙煎過程をつかみ,カップテストをして各々の焙煎度合の味や特徴を知る基本的な焙煎方法である。そこで目的にかなった焙煎ができず調節が必要な場合に③~⑤の焙煎方法をするのである。

 --②混合焙煎--
 ブレンドの焙煎方法である。2種類以上のコーヒーを一緒に焙煎する方法であるが,焙煎特性の違った生豆を一緒に炒るのだから,小型焙煎機では高度なテクニックが要求される。単品焙煎を確実にマスターしてから始めるとよい。
 混合焙煎は1回の焙煎でブレンドを作れるよさがあるが,炒りぶれしたら使用不可能になるし,味の変化の原因がわかりにくい。
 1種類でも生豆が変化して味が変わったら,全体で調節しなければならない。これは作り直しと同じ労力がいる。ストレート用に共用できない等の欠点もある。
 混合焙煎をする場合は,次の点に留意する必要がある。
 [焙煎特性の似たもの同士の混合焙煎の場合]
 2種混合から練習するとよい。例えば豆でいえばハイマウンテンとキューバ,コロンビアとグァテマラ,エチオピアとルワンダなど,特性でいえばスクリーンが似ているもの,
水分の多い豆は多い豆同士,堅い豆同士,枯れた豆同士を焙煎する。2種焙煎ができるようになったら同じ要領で,特性の近い豆同士で3~4種混合焙煎する。(注14)
 [焙煎特性が違うものの混合焙煎の場合]
 この焙煎はただ炒っだのでは炒リムラと同じになる。そこで焙煎スピードの足並みを揃えることがポイントになる。
 方法は次の項で詳しく説明している長時間焙煎と同じであるが,いずれにしても単品焙煎以上に長くなる傾向にある。焙煎時間を長くすると見面(形状)はよくても異臭が出たり,味がスカスカになくなってしまう傾向があるので限界がある。

いずれも何をポイントに炒り止めするかが決め手になる。
 焙煎は下記のようなさまざまな要因で変化したり,させたりする。
 ・1回あたりの焙煎量
 ・生豆の種類
 ・生豆の状態
 ・使用目的(焙煎度合)
 ・味のバランスをとるため
 ・外気の変化
によって調節が必要である。
 ・同じ焙煎度合で酸味・苦味を抑えたい,加えたい
 ・豆のしわをのばし,豆を膨らませたい
 ・乾燥にムラがあるので足並みを揃えたい
 ・ニュークロップなので水分抜きを多くしたい
 ・豆の大きさがパラパラで「ムラ」炒りになるので,足並みを揃えたい
等によって基本焙煎とは異なった焙煎法が必要になる。その代表的なものには長時間焙煎(低温焙煎),短時間焙煎(高温焙煎),ダブル焙煎などと言われている焙煎方法である。これらの意味と長所や短所,方法を説明する。

(注14)   堅い豆
 一般に堅い豆とはハイ・ローストぐらいまで焙煎しても豆がよくのびない豆のことである。水分抜きが不十分でそうなったものとは違う。
 こうした豆はそのまま標準焙煎したのでは味が重くてよくない。そうしたコーヒーをよい味に焙煎するために長時間焙煎やダブル焙煎がある。

 --③長時間焙煎--
 長時間焙煎とは,火力を抑えて,同一過程での熱量をゆっくり吸収させる方法のことである。長時間焙煎と一ロに言っても,その時間をどの段階で多く使うかによって方法が異なる。苦味の調節,とくに同じ焙煎度合で苦味を出したいときに有効である。また,形揃え(しわのばし,膨らまし)にもなる。ダブル焙煎ほど,コーヒーの特性を損なわない。
 長時間焙煎の2つのタイプを次に説明する。
 (i)1度ハゼの手前まで,いわゆる「蒸らし」の時間を長く取る方法。蒸らしは普通の豆でも必要であるが,乾燥にムラがあるので足並みを揃えたい,ニュークロップなどの水分抜き,酸味抜き,などの調節が必要なときに行なう。
 例えば,乾燥ムラの場合は,水分の少ない方の豆が水分が抜けても焙煎が進まないで,水分の多い方の豆が水分が抜ける程度の火力に抑えて調節して,含水量を同じにする。
 中間の火力になるので時間がかかり,味が平坦になる。さらにそれが過ぎると異臭が出るなどの短所もあるが,焙煎テクニックとしては一番基本的なものである。この方法を修得するだけで,生豆の変化の調節,味のコントロールが大幅にできるようになる。
 (ii) 1度ハゼから2度ハゼの手前までの間で時間をとる方法。1度ハゼからの温度上昇を抑えて,焙煎スピードをゆっくりにする。これは渋味抜き,ニュークロップなどにあ
るタング(舌をさす味)を取るなど,飛び抜けて強い味の調節,欠点を待った悪いコーヒー豆に対する調節として有効である。すなわち,普通の焙煎では飲めないようなコーヒーや,炒り上がりが悪く商品とならないようなコーヒーの焙煎に向いている。
 ただし,高度な技術が要求されるので,焙煎中はつきっきりでコントロールしなければならない。注意点は,温度を抑えても下げないことがポイントである。温度が高い場合は長時間焙煎の効果がなく焙煎が進んでしまうので確認できる。低すぎる場合の失敗は,使用不可能までまずいコーヒーになることを覚悟しなければならない。発色が悪く,香りも悪くなり,味も普通に炒ったときよりも重くなって,最悪のコーヒーになる。
 焙煎がコーヒーの味を引き出すことであれば,味は平坦になリコーヒー特有の香りも少なくなるこの焙煎方法は,所詮ごまかしであり,多用することはあまり薦められない。このような焙煎をしなければならないコーヒー豆を購入しないことがむしろ肝要である。

 --④低温焙煎--
 低温(一般には,180度以下でずっと焙煎すること)で焙煎すれば,当然時間が長くなる。これは前記の長時間焙煎を温度の因子で現わしたもので,③と同じことである。

 --⑤短時間焙煎--
 これは長時間焙煎とは逆で,焙煎スピードを早くするというものである。同じ火力で焙煎量が少なくなれば早くなるし,また量が同じで火力を増大すれば短時間になる。これも1度ハゼまでにするのと,1度ハゼ後にする方法がある。
 用途は酸味の加減である。同じ焙煎度合で,酸味を出したいときにはとくに有効である。といっても温度を上げる短時間焙煎にはおのずと限度かおる。上げ過ぎると,炒リムラになったりイブリ臭の原因になるので,そうならない焙煎スピードの上限を知ることとダンパー操作に注意が必要である。

 (i)1度ハゼまでの場合
 豆がゆるむ前から高温にするのは炒リムラの原因になるので,豆がゆるんでから始めるのがコツである。この場合に適した生豆は,柔らかく,良く膨らんで,形が揃っていて,さらに含水量が一定の炒りやすい豆である。

 (ii) 1度ハゼ後の場合
 生豆がばらついている堅い豆に向いている。1度ハゼ前までは蒸らし(足並みを揃えて)をしてから,高温にすると炒リムラにならず調節できる。

 --⑥ダブル焙煎--
 焙煎の途中で一度中止して,冷却してからもう一度焙煎し直す,2度炒りのことである。欠点や味的な問題を待った生互に対して行なう。
 目的は色合いを揃えたい,渋味消し,見面をよくしたい,浅炒り中炒りで酸味のバランスをとりたい,強い味を抑えたい,乾燥度合が極度にばらついているので水分抜きをして炒リムラを避けたいなどである。
 この方法をとると簡単に味と形が整えられるので,初心者はダブル焙煎にたよりがちであるが,こればかりをしているといつまでもよい焙煎技術が身につかない。

(5)焙煎度合

 ここで,焙煎を行なうのに知っておかなければならない重要な基準がある。それは,焙煎度合である。この基準が焙煎技術での唯一の比較できる基準である。正確な焙煎度合を身につけたい。味の比較も焙煎度合を基準にして行なうとよい。

 ①焙煎度
 焙煎度は,基本的にアメリカで決めた8段階制が普及したようである。
 8段階の名称は炒りの浅い順に,
 (i)ライト・ロースト
 (ii)シナモン・ロースト
 (iii)ミディアム・ロースト
 (iv)ハイ・ロースト
 (v)シティ・ロースト
 (vi)フルシティ・ロースト
 (vii)フレンチ・ロースト
 (viii)イタリアン・ロースト
 である。
 日本では8段階制を度数に置き換えて表わしているところもある。それはライト・ローストを1として順に,イタリアン・ローストが8,とそれぞれに度数を与えて,ミディアム・ローストを3度ロースト,ミディアム・ローストとハイ・ローストの中間を3.5度ローストという言い方で焙煎度を表す方法である。1度(1°)から8度(8°)という言い方も便利であり感覚的にも理解しやすいようである。
 ジャーマン・ローストやアメリカン・ローストという言い方もあるが,この8段階の中に含まれる。 (注15)

(注15) ジャーマン,アメリカン・ロースト
 ジャーマン・ローストはハイからシティ・ローストである。ドイツの代表的なゴールド・ブレンドとマイルド・アウスレーゼ(各社が同じ名称のブレンドを販売しているので味と豆の内容と価格が比較しやすい)などは収穫したてのコーヒー(ニュークロップ)のみでブレンドしている。それはパースト,オールドクロップのコーヒーに比べて同じ焙煎過程(同じ焙煎度合)で色が濃くなるので見た目よりも焙煎度合は若干
浅い。
 アメリカンコーヒーの焙煎度合は日本のミディアム・ローストぐらいであり,しっかりした苦味と香りを出すためにメーカーによってはそれに2割ぐらいシティ,フルシティ・ローストの豆が混合されているのもある。

 ②焙煎度合の判別
焙煎度合の判別はカラー写真(4頁)を参考にしていただきたい。
焙煎度の目安は初心者が確認しやすいことを目安にした。
(i)ライト・ローストは1度ハゼの手前までの焙煎度。 (注16)
(ii)シナモン・ローストは1度ハゼの途中の中間までぐらいの焙煎度。
(iii)ミディアム・ローストは1度ハゼ終了後の焙煎度。
(iv)ハイ・ローストは豆がのびて,香りが変化する手前の焙煎度。
(v)シティ・ローストは香りが変化したところから2度ハゼまでの焙煎度。
(vi)フルシティ・ローストは2度ハゼ後,黒みがかってくるまでの焙煎度。
(vii)フレンチ・ローストは黒みの中にまだ茶色が残っている焙煎炭。
(viii)イタリアン・ローストはほとんど茶色がなくなり,黒くなるまでの焙煎

 概ね以上が目安であるが,焙煎練習の焙煎度決定のためのテストロースト(121頁)で,形,色,味,香り等で焙煎度全体のバランスをとるとよい。
 ニュークロップは焙煎過程の同じ時点でも色が濃くなるし,オールドクロップは同様に色つきが薄いので,色だけでは決められない。カップテストでその焙煎度の確認がいる。

(注16)  1度ハゼの手前
 焙煎度合は名称とその順位は定着したようであるが,実際は各メーカーによって1ランクぐらいのずれがある。
 ライト・ローストはハゼが始まったところとしているのもある。
 ハイ・ローストは生豆によっては若干のずれはあるが,2度ハゼの手前で甘い香りからツーンと鼻にくるにおいが出てくるその手前までの焙煎度合である。


(6)基本焙煎のチェックポイントと調節の仕方

チェックポイントが焙煎過程で正しく確認できて,その調節の基準がとれれ
ば基本焙煎がマスターできる。
 
①温度コントロール
 火力とダンパーの複合調節で温度コントロールをする。温度調節の大きな枠取りは火力で調節し,その微調節はダンパーで行なう。
 豆を炒るということは豆に熱を吸収させることである。豆に熱量を吸収されて温度の下がった燃焼ガスを排出する。排出された量だけ新しい温度の燃焼ガスがドラム内に吸入される。この吸入・排出量をコントロールするのがダンパーの役割である。
 したがってダンパーの開閉によってドラム内の熱吸収のスピードとテンポを調節するわけである。
 理論的には,強火でダンパーが全開のときが最大熱量になる。最小熱量はこの逆で一番の弱火(あるいは消火)でダンパー全閉のときである。
 ここで知っておかなければならない厄介な問題がある。自家焙煎店で使われている直火式・半熱風式焙煎機は,二次空気(二次空気とは,燃焼をよくするためにバーナーの外側から加えてやる空気のことである)が開放型なので,ダンパーをしばらく開けていると温度の低い外気がどんどん吸引されて温度が上がらなくなり,そのまま続けると温度が下がる。 (注17)
 ダンパー開度・火力が同じならば,外気温度が上がれば(下がれば)燃焼ガス温度が上がる(下がる)。したがって季節の温度変化,室内の温度変化の影響を受けることである。

 ある火力(弱火,中火,強火)で温度が上がっていくダンパー開度,温度が上がりも下がりもしない開度,温度が下がり出す開度を知ることが必要である。
 また,あるダンパー開度(1~6)で温度が上がっていく火力,温度が上がりも下がりもしない火力,温度が下がり出す火力を知ることも同様に必要となる。


 これは焙煎量,外気温度,焙煎過程の位置によっても変化するので,この目安を知ることである。
 火力に対してのダンパーの状態には次のようなことがあるが,それを実際に確認すると火力とダンパーの目安がとりやすくなる。この関係をカメラにたとえると理解できると思う。フィルムの感度が生豆の量であり,レンズの絞りが火力,シャッターがダンパーの関係である。
 絞りとシャッターの関係で作られるのが「光量」ならば,火力とダンパーの関係で作られるのが「熱量」である。
 ダンパーと温度の関係には次のパターンがある。
 --(i)「ダンパーを開けたら温度が上がった」--
 この場合,火力に対してダンパーの開け方が少なかったといえる。これは,燃料の無駄であり,極端な場合,不完全燃焼を起こすおそれがある。(注18) 
 --(ii)「ダンパーを開けたら温度が下がった」--
 ダンパー開度が概ね適正であることを示している。通常の焙煎では,それ故に,ダンパーを開くタイミングに合わせて,火力も強めていく。
 --(iii)「ダンパーを閉めたら温度が上がった」--
 火力に対してダンパーを開けすぎており,二次空気が入り過ぎたために温度が下がるの
である。
 --(iv)「ダンパーを閉めたら温度が下がった」--
 (iii)の状態でなければダンパーを閉めたら本体内に導かれる新しい高温のガスの量が少なくなるので温度は下がる。火力が無駄にならずダンパー開度概ね適正。

(注17) 温度
 このときの温度計のセンサーの位置は本体上部もしくはそれに近い排ガス温度である。豆温度だけを計っていた場合こうしたことが豆が変化してからでないと確認ができないので遅くなる。
 温度計は欲を言えば二つつけると両方計れて確実になる。
(注18) 不完全燃焼
 ダンパーの開け方が少ないと空気の吸い込みが少ないので酸素不足になり不完全燃焼を起こす。


 ②炒リムラ
 炒リムラの原因は,
 ・生豆の含水星が一定でないものをそのまま焙煎した
 ・生豆のサイズがパラパラである
 ・全体の火力が強過ぎた
 ・取り出し口(装置)が不良である
 ・冷却を忘れた
 ・高温すぎる釜に豆を投入した
 ・急激に加熱した
 ・急激に火力を弱めた,加熱を止めた

 などである。こうしたことからいろいろな焙煎技法が必要になってくる。
 再三,温度という言葉が出てきているが,ここで温度の読み方を説明しておこう。
 普通,生豆投入後温度は下がる。下がりきって止まった温度,これを表15では中点としてある。そこから徐々に温度は上かっていくが,温度の上がっていくスピードが問題なのである。
 焙煎とは熱の吸収量であるということに着目して,何分で何度上がったか,例えば温度が5度上がるのに何分経過したか,そこからまた5度上がるのに何分経過したかを記録に取り,次回も同じスピードの火力に調節すれば諸条件の変化にかかわりなく同じ焙煎ができるわけである。
 そこで,実際にはどの程度のスピードに温度上昇を調節するかが問題であるが,火力は,温度上昇スピードはダンパーを蒸らしにして1分間に3度前後程度であるが,この基準は排気能力によって,また機種によって若干の違いがあるので個々の焙煎機で正確な適正スピードを見つける必要がある。
 この調節にいたる前にチェックすることは,生豆投犬時の釜の予熱と温度である。生豆の量とその温度が同じであれば,子熱が多いと中点の温度が高くなるし,温度低下が止まるまでの時間も早くなる。子熱が少ないときはその逆である。
 生豆投入時の釜の温度もチェックがいる。生豆投入時の釜の温度が300度と100度では,明らかに焙煎スピードに影響するのがわかる。高過ぎれば斑点豆になったり炒りムラになり,低過ぎれば時間と燃料の無駄になる。普通投入時の温度は,2kgで180度前後であるが,これも生豆の温度や室温によって異なるし,その後の火力調節によっても異なる。
 1分間に3度から4度の温度上昇のスピードで焙煎すると,13分前後で水分抜きが終わる。水分抜きの確認は青臭いにおいから,若干香ばしい香りに変わることと,センターカットが開いてくることでできる。そこで焙煎火力に調節するのである(若干,火力を加える)。そうすると1,2分で1度目のハゼが始まる。
 ハゼで何を確認するのか。ハゼの始まりからハゼの終わりまでの時間と火力が問題である。上手にできた焙煎を基準にして,同じ豆で同じ量を焙煎したら,外気の影響や生豆の温度の差によって1度ハゼまでの時間は若干変化してもハゼにいたった豆の状態は同じであるから,前回と同じ時間経過でハゼが終わるはずである。
 前回の焙煎でハゼの始まりから終わりまで2分かかったとしよう。そうすれば今回も2分間であれば火力は前回と同じぐらいと考えられる。もしハゼ時間がそれよりも短かったときは前回よりも火力が強いわけである。その反対にハゼの時間が長いときには火力か弱いのである。そのまま焙煎すると前回と同じように焙煎することが不可能になるので火力の調節をするのである。
 豆のハゼ時間は,豆の種類,サイズ,堅い豆,柔らかい豆,乾燥状態などのばらつき具合によって変化するので一概には言えないが,3kg釜で2分前後である。
 ハゼは,生豆ひとつひとつが同質で全く同じならば,全部が同時に一度にハゼて終わりのはずである。そうならないのはハゼ時間の分だけ豆がばらついているからである。したがってハゼはハゼやすい状態の豆から順番にハゼていくが,先にハゼた豆の焙煎が進まない程度の火力で,ハゼさせるとムラにならない。それが2分前後である。したがって豆のばらつきが多いものは若干ハゼ時間が長くなるような火力にして焙煎する。
 ばらつきが普通の豆でも2分ぐらいの差があるので先にハゼた豆の焙煎が進まない程度の火力でハゼさせるのであるが,その後の焙煎スピードの目安は1度ハゼ終了後から2度ハゼに入るまでの時間である。これは1度ハゼにかかった時間ぐらいは最低かけなければムラになる。普通は1度ハゼ終了後3分前後(+-1分前後)で2度ハゼになる。
 1度ハゼから2度ハゼまでのコーヒーの変化は微妙なのでその変化を確実に確認するようになって適切な処置をとれるようになるまで練習する。