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コーヒーの自家焙煎を始めようとする方へ

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小規模で強い店を作る「カフェ開業の教科書」より

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コーヒーの自家焙煎を始めようとする方へ

最近、個人でコーヒー自家焙煎店を開業する人が増えています。また、カフェが新たにコーヒーの自家焙煎にチャレンジするケースもあります。
長年、コーヒー自家焙煎店を営業してきた私はうれしく思うと同時に、危惧もあります。それは、コーヒーの自家焙煎を一時的なブームに終わらせてはいけないということです。
そのためには、コーヒー自家焙煎の本質は何か、お客様にとっての魅力は何か、そのことをよく考える必要があります。

コーヒー自家焙煎の基本であり、本当に大切なことは良質なものをつくるということです。そこにコーヒー自家焙煎店の存在価値があります。


コーヒー焙煎機選びで考えておきたい5つのポイント

コーヒー焙煎機を選ぶ時に考えなくてはならないポイントには主に次のようなものがあります。

①営業形態(焙煎量)とコーヒー焙煎機の容量(形態と特徴・性能)
②コーヒー焙煎機と味
③排煙設備
④環境への配慮
⑤コミュニケーションツールとしてのコーヒー焙煎機(演出効果)

まず営業形態とコーヒー焙煎機の容量について。コーヒー自家焙煎店の営業形態は、主に以下のように細分化されます。

A豆売りのみ
Bカフェ(店内飲食)のみ
C豆売り+カフェ
D宅配
E通販

営業形態によって焙煎量が大きく違うので、その点をよく考慮したうえでコーヒー焙煎機を選ばなくてはなりません。

それと、開業直後、2年後、5年後の焙煎量を想定して、コーヒー焙煎機を選ぶことも大切です。焙煎量が多くなれば、それに合わせて買い替えれば良いという考え方もありますが、当然相応のコストがかかってきます。やはり、ある程度長期的な視野にたって目標となる焙煎量を設定し、それをクリアできるコーヒー焙煎機を選ぶことをおすすめします。
では、コーヒー焙煎機は何キロから始めればよいのでしょうか。私は、最低3キロから始めるのが良いと考えます。その理由は、味づくりがしやすいからです。
また、豆売りを想定した店を始める場合、3~5キロの焙煎機があれば経営を安定させる焙煎量を達成しやすいと言えます。

コーヒーの知識と技術を修得して始めて焙煎機が選べる

「スペシャルテイコーヒー時代にはどのようなコーヒー焙煎機を選べば良いか」
最近、このような質問をよく受けるようになりました。
スペシャルテイコーヒー時代になって、焙煎の仕方も変わってきています。ぴと昔前は、焙煎の欠点がでないように焙煎をすることがとても重要だとされてきました。
もちろん、これは今でも大切なことですが、近年、それ以上に求められてきているのが、そのコーヒー豆の特性を生かした焙煎です。焙煎のポイントも、時代とともに変化してきています。
また「自分はこうした味のコーヒーを目指したい。それに合ったコーヒー焙煎機はどのようなものを選んだらよいか」という相談もよく受けます。明確な答えを示すのは難しく、最終的には自分の目指す味に合ったコーヒー焙煎機を選ぶことになります。そのためにはコーヒーの知識と技術を修得していなくてはなりません。
そのことをよく理解したうえで、焙煎機を購入する前に、まずじっくり腰をすえてコーヒーの知識と技術を身につけることが大切です。それが、自分の目指す味とは何かを見つけ出し、それに合ったコーヒー焙煎機を選ぶための道しるべになります。
実は私自身、自家焙煎を始めるにあたって、たいへん苦労しました。
コーヒーの自家焙煎を始めたのは『カフェ・バッハ』と店名を改め、リニューアルオープンした時のことでした。当初、焙煎機の納入がずれ込み、店頭に自家焙煎という大きな看板をだし、「豆売りやります」とお客様に告知したのに焙煎機がない、という事態に直面したのです。その急場をしのぐために選択したのが、テストロースターでの焙煎です。
テストロースターで1回に焙煎できるコーヒー豆の量は2OO~300グラム。1回に焙煎できる量は限られているので、何回も何回も焙煎しなければなりません。多い時には1日に20回焙煎したこともあります。
朝早くから焙煎の仕事にかかりっきりになってもおいつかない。結局、夜通しで焙煎を行い、寝る時間も惜しんでという状態が何日も続くようなこともありました。
確かに大変でしたが、今振り返ると、この時の苦労がその後にたいへん活きてきました。テストロースターで数多く焙煎することで、体験を積み重ねることができ、その後の自家焙煎の仕事に大いに役立ちました。コーヒー焙煎のメカニズムも理解できるようになり、それが、カフェバッハのオリジナル焙煎機の開発にもつながっていったのです。

排煙設備も焙煎機の一部という考え方が必要

近年、排煙設備や環境への配慮は、コーヒー焙煎機を設置する時に考えなければならない大きな問題になってきています。特に、近くに住宅があるような場所では、居住者に配慮して環境設備の設置が必要不可欠になってきます。
時には消煙機や消臭機といった機械を焙煎機に取り付けなければならないでしょう。
排気のための煙突もコーヒー焙煎機の一部という考え方が必要です。焙煎機の設置には、必ず設置建物の屋上より上まで煙突を立ち上げることが必須です。
また、コーヒー焙煎機を店内に置く場合には、焙煎機がコミュニケーションツールとしての役割も担うことになります。
焙煎機を通してお客様とのコミュニケーションを深めるためには、目を引くデザイン性やカラーリングといった要素も焙煎機を選ぶポイントになるでしょう。しかし何より重要なのは、やはりコーヒーに関する知識をかにすること。それがベースにあってこそ、焙煎機の機能が、カップの中のコーヒーのおいしさとどう結びついているのかを系統だてて説明することができ、お客様とのコミュニケーションも豊かなものにすることができるのです。
スペシャルティコーヒー時代のコーヒー焙煎機として、カフェ・バッハが大和鉄工所と協同で開発した「マイスタ—焙煎機シリーズ」を解説します。

バッハと大和鉄工所が協力して開発した オリジナル焙煎機

「マイスター焙煎機シリーズ」(生豆容量10キロ、5キロ、2.5キロ)は、カフェ・バッハが日々の営業を通して蓄積してきた焙煎技術のノウハウ、データを組み込んで開発した小規模店向けのオリジナル焙煎機です。
2002年に発売しましたが、じつはそれよりずっと前からこうした焙煎機の必要性は痛感していました。製品化していただけるメーカーがあリませんでしたが、私の思いを理解していただき全面的に協力していただいたのが岡山県岡山市にある大和鉄工所です。ここで、「マイスター焙煎機」が製品化された経緯について少しお話しさせてもらいます。

ある日のことでした。大和鉄工所の岡崎俊彦さんが、1枚の写真を持ってカフェ・バッハを訪ねてくれました。大和鉄工所は公共事業で河川の水門(ゲート)を設計・製作しているメーカーで、それまではコーヒー焙煎機には縁のない会社でした。彼自身、大のコーヒー好きで、おいしいコーヒーを飲みたいという一心から趣味で作ったのが写真の1キロ焙煎機でした。彼とはその時初めてお会いしましたが、その写真を見ながら、何時間もコーヒーについて話をしました。その話の中で、ビジネスだけでなく、良いものを作りたいというものづくりに賭ける情熱が伝わってきました。ものづくりという点においてはコ—ヒーの世界も同じで、同じ価値観をもっている彼と、ぜひ自分が以前から作りたいと考えていたコーヒー焙煎機を一緒に開発したいと思いました。そうした私の思いと、岡崎さんのものづくりに賭ける情熱を理解して、全面的にコーヒー焙煎機の製作を後押ししてくれたのが大和鉄工所の安井久社長さんでした。コーヒー文化を広く普及していきたいという思いに共鳴していただき、会社をあげて開発に取り組んでいただきました。

焙煎者の感性が生かせるように あえてセミオートの焙煎機にする

従来の小型焙煎機は、どんなに熟練してもダンパー操作など毎回繰り返し行わなけれなならない作業があります。そうした繰り返し行わなければならない作業をデータ化し、操作盤にインプットできるのが「マイスター焙煎機」です。プログラムされたデータを、操作盤の液晶タッチパネルから入力することで、生豆投入から2ハゼまでの排気量を自動で制御でき、日々の焙煎作業が大幅に軽減できます。
それと、この「マイスター焙煎機」のもう―つの大きな特徴は、あえて全自動にせず、焙煎者の感性が生かせるセミオートにしていることです。
2ハゼの手前で「焙煎判断」をタッチすると手動に切り替わり、味づくりに重要な「煎り止めのタイミング」が焙煎者によって決められます。作業効率を上げながら、味づくりの表現が自在にできるようにしています。ここがスペシャルティコーヒー時代の焙煎機として高い評価を得ている点で、1時間に何キロできるかという商業ベースの焙煎ではなく、店がコーヒー豆の味わいをより豊かに引き出す焙煎技術を駆使することで、その店ならではのコーヒーが提供できます。

焙煎のブレを解消した二重構造。 使う人の身になった優しい設計

コーヒー焙煎機の加熱方式には、大別すると直火式と熱風式、半熱風式があリます。「マイスター焙煎機」は半熱風式で、それには理由があります。
効率の良い加熱を実現し、焙煎のブレを解消すること。そのために、従来の焙煎機に比べて、上質な材料と高度な技術を投入しており、これこそが「マイスター焙煎機」の最大の特徴です。 コーヒーの焙煎でたいへんやっかいなのが、日々の天候や環境の変化によるブレです。例えば、夏と冬では、熱の拡散度合いが同じにならないため、焙煎にブレが生じやすくなります。従来の焙煎機は燃焼に使われる一次空気がバーナー室に直接入り込む構造になっているものが多く、季節の変わり目などでは火力と排気の微調整を行わなければなりません。さらに、焙煎室の環境にも影響を受けるため、焙煎が安定しない原因にもなっています。
こうした不安定要素を解消したのが「マイスター焙煎機」で、釜の断熱カバー(釜そのものではなく)を二重構造にして(外断熱方式)、燃焼に使われる一次空気は、内カバ—と外カバーの間の空間を通ってバーナー室に入る構造になっています。そのため比較的安定した温度の一次空気がバーナー室に送り込まれ、環境に左右されにくい焙煎を行うことができます。さらに排気ファンをインバーター制御したうえに、副ダンパーのアロマメーターを装備したことと、焙煎でも繰り返す作業の自動化と相まって、焙煎の安定性、味の再現性を格段に向上させることに成功しています(特許2件取得登録)。
焙煎は勘と経験がものをいう職人技のように思われている面もあります。もちろんそうした面も大切ですが、「マイスター焙煎機」の設計にあたっては、、焙煎の技術の「可視化」を目指しました。例えば、焙煎に必要な情報はすべて操作盤に設置された液晶タッチパネルで確認できます。作業工程は時間を追って簡易グラフで表示されるので、誰が見ても一目でどの作業段階にあるのかが分かります。また、焙煎の各工程をブザー音で知らせています(生豆投入、ハゼ温度、焙煎判断)。豆温度、排気温度、焙煎時間は同一画面にデジタル表示されるので、―つの画面で3つのデータを確認できます。安全性にも配慮して設計してあり、非常消化装置、焙煎温度ハイカット設定装置、制御状況警告音発信装置、ガス漏れ警報装置を常設しています。
また、「マイスター焙煎機」の設計には、現場で焙煎する人を助けるために、人間工学の思想が反映されています。例えば、生豆の投入扉と冷却箱の豆取り出し扉は、作業する人のうっかりミス” を防止するために、開ければ自動的に閉まる構造になっています。ガス圧調整ハンドルは、微調整がしやすいように、全閉から全開まで7回転で調整が可能です。本体底部はキャスターが脱着式で取付け可能なので、据付やメンテナンスの時に移動がラクに行えます。付属設備として、生豆搬入用のジブクレーンを用意しています。ジブクレーンを導入して車椅子で自家焙煎に挑戦している人もいます。

(続く) 富士ローヤルの解説