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其の2 『聖母の深き淵』柴田よしき

作品の主役は村上緑子という所轄刑事です。詳細は本編をお読み下さい。

このテキストでの主役は、麻生龍太郎(44)です。
麻生が主役の恋愛警察小説『聖なる黒夜』については触れておりません。
が、この先は作品の引用を多く含み、麻生❤山内の関係がネタバレしてます。その件につき了解の方のみ【もっとみる】をclickして下さい。
それでは・・・
「もしこの台詞を百目鬼が吐いたら♥」という妄想込みでお届けします。



ほとんど本編の内容には触れませんが、一応ご紹介します。
私が読んだのは文庫ですが、単行本は1996年 角川書店 です。
1996年・・・何してたかしら?というぐらい昔ですねー

その筋では伝説の小説『聖なる黒夜』は2002年の作品で、実はこの本のスピンオフらしいです。しかし、時系列ではコチラの方が後のお話。
『聖なる~』で企業舎弟にすぎなかった山内。『聖母~』では杯もらちゃって組員となり果て、飲んだくれて婦女暴行を犯したりするアグレッシブなお方と化してます。麻生曰く「破滅したがっている」のだそう。そうかな?
同じ若頭でも矢代と違って、ではなく(♥)と呼ばれてますのん♪

rainaさんの頭と若の興味深い比較「山内練と矢代を通して見えてくるもの」を是非ご一読下さい~ GO★

本日の主役
麻生龍太郎という男。詳細は『聖なる~』のネタバレになるので割愛しますが
元は本庁捜査一課の刑事で、現在は探偵。
イイ人なんだろうけど・・・ちょっとズルい、かなり鈍感、ある意味自己中。
そして、悪魔の申し子・金の亡者の異名をとる、春日組若頭 山内練の・・・
ナンだろう?藻とカレーかなぁ?・・・運命の人であることには違いない!

『聖母の深き淵』は緑子さんの活躍が軸であり、もとよりBL小説ではないので、あまり麻生と山内のカラミはないのです。が・・・・・・
もうっ!この部分は秀逸すぎる!という悶絶カットのみをご紹介します。
こんなに長い引用は違法か?と思いますが、たまらない♥のでお読み下さい。
太字は、突っ込まずには居られん私の心の叫びです。邪魔なら読み飛ばして


【場面】舞台はおでん屋の屋台。コップ酒を傾けながら、緑子が麻生に「恋人はどんな人?」と尋問してます。緑子さん、刑事だけに良い誘導してます。(以下、麻生の台詞から始まります)


「辛い、恋。うん、それ以上にぴったり来る言葉ってない、そんな感情って確かにあるよな」
「それじゃ、恋してるんですか、麻生さんも?だから宮島さんのことが・・・・・」
麻生は、箸の先に突き刺したままのちくわを目の前でくるっと回した。照れているのだと、緑子は思った。
「歳を考えると恥ずかしくて、素直にそうですなんて言えないけどなぁ。でもまあ、それがいちばん表現としては当たってるかも知れない」

― 中略 ― 

「俺な、ある事件の捜査をしていて、ある人と知り合った。それで・・・・・・
その、なんと言えばいいんだ?要するに、夢中になった」
「惚れちゃった?」
「そう。惚れちゃった。なんだかなぁ、もう他のことは何も考えられなくなるくらい、いきなりスコンと落とし穴に落ちたみたいに」
「一目惚れ?」
「そんな感じだな。あんまり衝撃的だったんで、自分で自分の感情を持て余して一人であたふたしてた」

― 中略 ― 恋に狂ったおっさんのノロケが始まるよ~

「とにかく俺はその人に夢中で、他のことはどうでもよくなった」
「どんな人なんですか、彼女」   彼なのよぉ-
「どんな人・・・・・・」
三杯目に口をつけながら麻生はちょっと首を傾げた。
「そうだなぁ・・・・・天然の、柔らかいくせっ毛なんだ。日本人にしては茶色っぽいな。朝日がさしてその髪に当たると、瞬間だけど金色に見えることがある」
「朝日」緑子は、クスリと笑った。「大人の表現ね」
「嫌い?イヤなら止めるけど」   止める気なんかない、言いたくて仕方ない

「とんでもない。そういうの大好きよ。続けて」   あたしも好き
「うん。睫が長くて、泣き虫なもんだから、その睫の先に大きな涙の粒が載っかってことがたまにある。それが揺れると、ころんと落ちる。鼻の脇に、ほんの少しだけどそばかすがある。ちょっと怒ったりするとすぐに耳が朱くなる。それからそう・・・・笑うとね、左の頬にだけ、えくぼが出来る」 良く見てンな
「からだは?痩せてるの、それとも、グラマー?」
「痩せても太ってもいないな。バランスのとれた身体だと思う。胸・・・・・・は、うん、両腕で抱くと、俺にはちょっとだけ大きい」
「やだ、それじゃ結構、グラマーなのね」

「そうかな。見た目はそんなに特徴のない、普通の人だよ。抱きしめてやると、山鳩みたいな声を出す」   ヤマバト~~~もぉ~~~
「山鳩?」
「そう。ククゥ、ルルルルって聞いたこと、ない?あんな感じ。寝ている時に、たまに歯ぎしりする。本人は気づいてない」 聴いてンの?寝顔みて?
緑子は声を出して笑った。
「教えてあげればいいのに。歯ぎしりって、身体に悪いのよ」
「お互い様だからなぁ。その人の話だと、俺はイビキをかくらしいから。あとは、そうだな、酒が強いな。酔い潰されたことが何度かあるよ。その人は酔うと少し下品になるんだ。扇情的になって、すぐに脱ぎたがる。あれは悪い癖だな........あ、俺も酔ったな、もう止めようか」   ダメだ!止めるな!
「いいじゃないの、続けてよ。大丈夫よ、あたし、こう見えてももう大人だから。酔っぱらって下品になって、それからどうなるの?」
「天使になる」  ぐはっ

緑子は思わず吹き出した。  私は思わずはなぢ出すとこでした
「麻生さん........そんな言い回し、どこで習ったの?昔からそんなにロマンチストだったの?そうだとしたら、最高」   麻生、最高!
「昔から俺はこんなだったさ。でも誰も、俺の恋の話なんて聞いてくれなかったものな」
「だってまさか、石橋の龍さんが........酔っぱらって脱いで天使になる女性の話なんかするとは思わないじゃないの」   天使になる男なんだよ~

「でも本当なんだ。俺には天使になるとしか思えない。俺は、夢の中でフワフワ浮きながら........あの人が俺の前にヒザマヅいて俺をふくむ........俺はあの人の柔らかい髪を撫でる。あの人は夢中になっている。ほんとに夢中になっちゃうんだ。もういいって言っても止めようとしない」
「........放送コードすれすれ」
「そう?伏せ字は避けたつもりだけどな。とにかく、俺は何度も天国に連れて行かれて疲労困憊する。翌朝は太陽が黄色く見える......結局、俺は溺れてたんだな。いい歳して、二十歳の若造が年上の女に夢中になるみたいに、あの人に手玉にとられてた。でも幸せだったよ。そんな風に溺れている自分自身のことも、不思議と情けないとは思わなかった。むしろ自分のことが好きになった。前よりも、ずっと」   はぁ~楽しかった


まだ会話は続くのですが、ネタバレるのでココまでにします_(._.)_

仕事帰りの電車の中でコノ場面を読んだのですが・・・
「ぬはっ!」とか「ぐひょっ!」とか、とにかく変な声が出ないように耐えました。もちろん、ニヤニヤ笑いも禁物です!大人ですもん。
イヤ、つらかった・・・


最後の台詞が、麻生という人間をよく表してます。対等だった恋愛関係を「溺れてた」「手玉にとられてた」と話し、関係が途切れた今となっては「幸せだった」「前より自分が好きになった」と語る。善良すぎて、自己完結するんです。
やれやれ、練の泣き虫は誰の所為なんだか(-_-)

若頭なのに、泣き虫とか、抱きしめると「クゥ・・・」って音出すとか・・・
もう!たまらんです!何度読んでも身悶えしてしまいます。

この『聖母の深き淵』はジェンダーの話なのかな?ひと昔前の(1996だしね)女性観ですが、興味のある方はご一読下さい。個人的には、何故だか?主役の村上緑子が好きになれない・・・


お楽しみタイム
邪道です、小説の楽しみ方としては、本当に邪道です!外道かもしれません。しかし、ですね・・・
もしコレ、チカラさんが語ったら・・・と、考えずにはいられない『囀る』患者なのです。重篤です。
「あの人~」って言う呼び方が、もうっ!(興奮して血圧が上がりそうです)


本日のチカラさん ダッシュ

チカラさん・・・
なぜ影山センセは固まり、なぜ久我が笑うのか? 解りません。

おしまい


引用文献 柴田よしき.聖母の深き淵.(1996)角川書店



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