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蛇塚心中(処女作♡ノーカット版)

note SSフェスティバルでは、投稿条件二千字以内に合わせひゃーひゃー言いながら削りました。実はこちらが221Bの処女作にございます<(_w_)>オハズカシナガラ

正月の「BL書いちゃう?」をお調子にのって有言実行したところ、noterのShivaさんが挿絵をして下さいましたm(;∇;)mウレシスギル! 絵を見た瞬間「あ♡メグちゃん♡はじめまして♡」と恋に落ちました(//▽//)
ありがとう~♡ありがとう~♡

コレハBLじゃないねぇ・・・BL未遂です f(^^;)エヘッ


◆◆◆◆◆

このところ、自分の時間が全く取れない日々が続いていた。前髪が伸びて鬱陶しい。歯医者もすっぽかしたまま次の予約を入れていない。まずどれから片付けようか?幾分浮かれた足取りでバス停に向かう。

時刻は18:13。
次のバスの到着まであと2分。早ければ19時前に家へ着く。
はずだった・・・

「忙しいんだ。帰れ」
「今日は近所だよ。もみじ谷のお地蔵さん」
「・・・蛇塚は嫌いだ。ひとりで行け」
「足が折れたんだ。ひとりじゃ行けない」
「俺には関係ない」
「村田正三。10年前の主治医は早瀬錬太郎先生でした!」
「・・・・・・」

厄災が・・・松葉杖を突き、ロングコートの下から真新しいギプスをチラつかせ、俺の前に立っていた。


槙村恵。職業、散骨屋。
幼馴染みのこの男は、昔から俺を面倒ごとに巻き込む病を抱えている。しかも、その症状は年を追う毎に増悪の一途を辿り、去年の晩秋には一緒に死にかけたほどだ。

「錬太郎さぁ、村田さんの干瓢巻きが好物だったろう?」
「無駄話はいらない。骨を撒いたら、俺はすぐ帰るからな」
「俺の面倒も見てよ。腹へった」
「嫌だ、断る」
「腹へったぁ~」
「タクシー来たぞ」

厄災神は松葉杖を器用に操ると、俺の隣に身を収めた。
そして、おもむろに切り出す。
「でね、年末に呼ばれてさ、『もうすぐ死ぬから、ふたり一緒に蛇塚に葬ってくれ』って言うんだ」
10年前・・・額に手をあてて記憶を手繰る。下町で和菓子屋を営む村田さんは、受診の度に季節の練り切りや干瓢巻きを差し入れてくれたっけ。

「弁膜症が悪化したのか?」
「いんや・・・がん、胃がんだってさ」
「なんで蛇塚なんだ?」
「逢い引きの場所だから」
「逢い引き?ふたりって、奥さんじゃないの?」
「訳ありの、そりゃあイイ女だったらしい」
「村田屋のおかみさんも優しくていい人だったぞ」
「イイの具合が違うのよ、錬太郎くん」
「・・・俺に、浮気の片棒担げって言うのか?」
「色好まざらん男は、いと騒々しってねぇ・・・ふたりで何度も心中を考えた、人生最初で最後の恋だったって、爺さん泣いてたよ」

和菓子職人だった村田さんは、先代に見込まれて婿入りし、老舗を継いだ。始まりは愛だの恋だのじゃなかったにしても、外来で見かける姿は夫婦仲睦まじく・・・

「死ななくたって、他に何か・・・」
「駆け落ちなんかしたら店を潰されるだけじゃすまない、家族が殺されちゃうって。心中したって、オンナの連れ合いが大人しく諦めるとは思わないけど」
「殺される?訳ありって、ナンだよ」
「ヤクザの親分の情婦。で、オンナは月曜に死んで木曜に焼かれた。骨を一本分けて頂戴ってお願いしたらさ、旦那が嫌だって言うんだ。だから、火葬場に潜り込んで・・盗ん、だ・・・」
不意に恵が体を折り曲げ、顔を顰める。
「痛むのか?」
こいつとは幼少のみぎりからの長いお付き合いだ。俺は「まきむら めぐみ」という人間の大概を知っており、そうそう取り込まれたくはないと思うのだが、会えば必ず気を揉むことになる。

「で?スジ者に折られたって?ギプスの感じからして、相当の骨折に見えるんだが?」
「脛骨と腓骨が一遍に折れた。でも、もう、大丈夫だ!」
そういえば、いつもは長い手足を巻き付けてパーソナルスペース・ゼロを主張する人間が、今日は一切触れてこない。これは、なにか隠し事があるというサインだ。
「嘘をつくな」
そっと首に触れると、尋常じゃない熱と拍動が俺の掌に伝わる。と、恵は猫のように軽く首を振り、俺の手から逃れた。
「いつの木曜だ?先週か?」
「・・・今週?」
「こん・・?って、昨日じゃないか!おまえ、なんで歩いてるんだっ!」
「?松葉杖だけど?」
「ふざけるなっ!」
「なに?なんで怒るの?」

そうだ、解ってる。恵は茶化しているわけじゃない。
「ちゃんとオペ後24時間は安静にしてたよ。手術は成功!経過も良好!」
明るく宣言する恵の顔をまじまじと見つめる。高熱の所為で目が潤んで、頬と唇が朱い。左の口角が切れて少し腫れていることに、今更ながら気づく。
「殴られたのか?」
「そりゃね、俺は骨泥棒だから」
やたら神妙な顔で頷き、赤い舌でチロリと傷口を舐めた。
「そうか。そうだな」
小さくつぶやいて、顔から視線を逸らす。ロングコートから覗く襟元がワイシャツに黒いタイであるにもかかわらず、下半身はシャツの裾から縦縞のトランクスがのぞいている。ギプスさえなきゃ、大爆笑だ。

溜息をひとつ。無言で左手を差し出す。
「なあに?」
「骨を渡せ。さっさと終わらせて、病院に叩き込む」
「優しいのねぇ、錬太朗は。お化けが出そうな所、大っ嫌いなのに」
「うるさい」
片手でメロンの形をしたシャーベットのケースを受けとり、ポケットにねじ込んだ。
「もっと相応しい容れ物があるだろ?どうしていつもコレなんだよ」
答えは聞き飽きた。「好きだから」だ。いい歳をして、ホントにこいつはどうかしている。


間もなく東京タワーの根元、芝公園19号地に着いた。運転手に許可を得て右手のドアから降りると、恵が反対側から降りてくる。
「中で待ってろ」
「行く・・一緒に・・・」
言わんこっちゃない。降車の動作だけで額に汗を浮かべ、肩で息をしている。回り込んで肩を貸す。
躯が、熱い。
「足場が悪いから、ここで待て」
「やだ!」
「メグちゃん!」
「嫌だ・・・これは俺の仕事だ」
しばし睨みあう。呼吸が荒いのは興奮のせいじゃない。ベッドで患者しているはずの容態だからだ。
「おんぶ」
「?ナニ?」
「背負ってやるから、松葉杖置いてけ」

こいつは昔っから言い出したら引かないし、今は術後患者だ。
にしたって・・・
「なんで下半身パンイチの男を背負ってんだ?俺は?」
自分と変わらない背格好の男を担いで、遊歩道を下る。
「目が覚めたらノーパンで寝かされてたんだ。喪服のおズボン、高かったのに切られちゃうし・・・コンビニでユルユルのトランクス買って、タクシーの中で履いて」
「聞いてない。喋るな。重い」
暗く人気がないうえに、小川の所為で足元が泥濘んで滑る。
「くそっ狭い階段だな」
悪態をつきながら蛇塚の石段を登る。ここから落ちたら俺まで骨折しちまう。
「お地蔵さん恐いんだろ?錬太郎はビビりだから」
「杖無しで歩くか?」

一番奥まで登りきると、そっと恵を下ろした。
「立てるか?」
「お参りの振りして、並んでしゃがんで手を合わせて・・・ふたりの願い事は商売繁盛なんかじゃなかったんだ」
「・・・そうか」
「蛇のように絡み合ったのは束の間で、小指ひとつ繫げない、見つめ合うことも許されない・・・やがてオンナはここへ来なくなった」
「ん」
「およそ20年経って、息も絶え絶えな電話が一本。『私が死んだら、あんたのモノにして欲しい』ってさ・・・・・・ねぇ、錬太朗ならどうする?俺が、もし」
「撒くぞ」
蓋を開けると、灰白色の粉が匙に1杯ほど。いつもよりずっと少ない。
「老舗和菓子屋の婿養子と、彫り物入りの女の左薬指だよ」
「そりゃあ、また、ロマンティックなことで」
軽く指で混ぜて、地蔵の頭から振り掛けた。灰は僅かばかり舞い上がって、サラサラと丸い頭を滑り落ちていく。

恵の隣に並び、ふたりで手を合わせる。いつの間にかルーティン化した所作だ。
「泣く?」
「泣かない」
「そう?睫毛がキラキラしてますよ」
「置いて行かれたいのか?此所に?」
「困るんだ、泣いてくれなきゃ。こうして錬太郎を呼ぶ意味がなくなる。うまく泣けないからさぁ、俺は」
そう言って、恵がふにゃりと笑う。
「・・・そんな顔、すんな」
おまえは何ひとつ悪くないのだから。


ともあれ和菓子屋の恋は成就した。後はこいつをしかるべき場所へ・・・
「ねぇ錬太郎、この後とうふ屋に予約入れたんだけど」
「アホなのか?早く病院に帰れ!人の恋路で足一本ダメにする気か?」
「村田さんが早瀬先生に会いたいって」
「?死んだんだろ?」
「死んだのはオンナの方」
「だって・・・おまえ、ふたりの薬指って・・・」
「生きてたって指は切れるだろ?」
「う゛?」
「実は俺さぁ、外科医だったんだよ。忘れているようだから教えてあげよう」

あの村田さんが?物静かで、控えめで、はにかみ笑いの村田さんが、指を?

「あのさ、切り落としたのは指だけじゃないじゃないんだよね。ど~こだ?」
「ん?」
「ヒント!男の情念。錬太郎には分からないだろうねぇ」
「勿体ぶるな。早く言え」
「ん~・・・あなたに男の子の一番大切なものをあげるわ♪・・・って歌、昔あったよね」
「・・・・・・なっ!おまえ、まさか?」
「操立てたいって言うから、先っちょだけね。生活に障りがない程度にさ、チョンって」
「~~~バレたら免許なくすぞ!アホ!・・・村田さんも・・・イイ歳してナニやってんだっ!」
「それほど強く、身勝手で、戯けた業ってこと。仙人みたいな錬太郎には、分からないでしょ?」
「おまえに分かるっていうのか?」
「そりゃ俺はアスペな大人だけど、不思議とこの感情だけは知ってるんだ、昔から」
そう言ってニヤリと笑うと、鼻をすする俺の背によじ登ってきた。
ヨッと背負いなおすと、ウッっと小さく唸る。ほら見ろ、痛いんだろ?
「まだ当分、村田屋の干瓢巻きが喰えるよ」
「そうだな」

20:08。
丸い月と俺たちが見送るなか、芝公園の蛇塚で元患者がヤクザの情婦と心中した。




+プラス+
めぐちゃん、指以外にトンデモナイトコちょん切っちゃった・・・
Shivaさんの嬉しい誤算からアイデアをいただき、より情話っぽくなりました❤満足です❤

Shivaさんのnote【蛇塚心中】にお邪魔しました をご堪能下さい!

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