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歩様をデータ化。勝ち上がりやすい募集馬を見抜く『リズム診断』とは

『リズム診断』とは、歩様の良さのみに特化した、競走用馬用ファンド(いわゆる一口馬主)における募集馬選びの新たな評価基準です。

見た印象で決める定性的な診断ではなく、再現性の高い方法で測定した定量的な数字や、そこから導き出された傾向を元に診断しています。歩様のみ評価であるため、血統など他の評価軸と組み合わせての活用をおすすめしています。

この記事の要約
・『リズム診断』の成り立ちを説明
・1歳馬の「歩様」と「競走能力」は因果関係ある?という仮説を立てる
・各クラブの募集時動画をもとに、その歩様と競争成績を検証
・検証の結果、仮説が“ある程度は正しそう”だと分かる
・検証データを加工し、歩様の評価基準『リズム診断』をまとめる

1. 「思い込み」で選ぶしかない現状

競走馬に出資をする際、「馬体」「測尺」「血統」など色々な判断材料がありますが、みなさんは何を重視して検討していますか?

以前の私は“馬体派”でした。いわゆるガチムチ体型が好きで、「こりゃトモの筋肉が凄い!」と鼻息荒く出資を重ねていましたが、なかなか勝ち上がれません。あの立派に見えたトモは“思い込み”であり、実際はぜい肉だったのでしょうか……。

競走馬は、走るための筋肉はもちろん大切ですが、骨格、気性、心肺機能…など、さまざまな要素がうまく結びつくことでパフォーマンスが発揮されるものです。しかし、クラブから与えられる情報は、「馬体写真」「測尺」「血統」「歩様動画」…といった競走馬を構成する要素の断片でしかありません。

これらの断片情報を繋ぎ合わせて総合的な能力を見抜くことは困難であり、やはり”思い込み”の範疇のなかで選ぶしかない現状です(その断片情報のなかで自分なりに結論づけるのが一口の醍醐味とも言えます)。

もちろん「馬体」「測尺」「血統」等からある程度の能力を類推することもできますが、もっと別の視点で具体的に判別できる方法は無いのでしょうか。よく言われている「POG期間において、母年齢15歳以上の仔の活躍は難しい」といった数値が伴った指標があると分かりやすいのですが。

そこで、クラブから提供される断片情報を数値化し、その検証データから新たな法則を導き出せないか考えてみることにしました。


2. 馬の「歩様」を数値化

そんな折、募集時にクラブから提供される「歩様動画(ウォーキング)」を見ていると、のんびり歩く馬、そして逆にきびきびと歩いている馬がいることが妙に気になってきました(これまでは特に気にしていなかった)。

この歩くリズムの違いが、その後の競争成績にどう影響あるのかを調べたら面白いかもしれない。そんなことを思い立ち、各馬の歩く加速度を計測してみました。

手始めに、各クラブの募集時動画から150頭ほどを計ったところ、「ある数値を境に、勝ち上がり率が悪い」という傾向が見えてきました。簡単に言うと、のんびり歩く馬は勝ち上がりづらい。
※ここでいう「勝ち上がり」は、中央競馬の新馬戦・未勝利戦を指します。

私が出資している東京サラブレッドクラブの、2017年産を例にみてみましょう(リズム診断を始めた当初の募集産駒)。“ある数値以下”は、以下10頭が該当していました。

レッドベロム
レッドヴァレリー
レッドジャンヌ
レッドカルム
レッドカルマン
レッドラルーチェ
レッドキュリアス
レッドミダス
レッドライヤ
レッドエランドール

このうち、3歳未勝利戦の期間終了までに勝ち上がったのは、レッドカルムのみ。実に該当していた10頭中9頭が未勝利という高い割合でした(その後、レッドエランドールは地方2勝を経て中央勝利を収めています)。

調査した東サラ以外のクラブでも同様の傾向がみられたため、歩様の加速度計測による「ある数値を境に、勝ち上がり率が悪くなる」という傾向は、さらに検証してみる価値がありそうです。


3. 各クラブ「471頭の歩様」を調査

その後、サイトまたはYoutubeで過去の歩様動画が見られる各クラブ(キャロットC、シルクHC、東サラ、グリーンF、ノルマンディーOC)から、2015-2017年産、471頭の歩様を調査してみました。

この数値に対してとある補正をかけ、以下のように分類してみたところ、かなり良い傾向が出てきました(補正分類してアクセントを加えた歩様の加速度を以後「リズム」とします)。

※以下は2020/08/29時点の数値です。あくまでも検証時の測定であり、現在の測定方法とその勝ち上がり率とは異なります。

■リズムS(歩様きびきび) 

n=213件中、勝ち上がり147頭
勝ち上がり率69.0%(!)

■リズムA(歩様やや早い)
n=79件中、勝ち上がり36頭
=勝ち上がり率45.6%

■リズムB(歩様ややのんびり)
n=24件中、勝ち上がり11頭
=勝ち上がり率45.8%

■リズムC(歩様かなり早い)
n=114件中、勝ち上がり28頭
=勝ち上がり率24.6%

■リズムD(歩様のんびり)
n=32件中、勝ち上がり9頭
=勝ち上がり率21.9%

■リズムE(歩様かなりのんびり)
n=9件中、勝ち上がり2頭
=勝ち上がり率22.2%

※リズム診断の評価ごとの詳細は以下をご覧ください。

この分類によって、勝ち上がり率に差が出ているのがよくわかります。「リズムS(歩様きびきび)」に該当する馬であれば、2017年産(2020年8月29日時点)のサンデーサラブレッドクラブの勝ち上がり率56.6%よりも約10%も高いことになります(あくまでも検証時の参考値です)。

よって、競走馬に出資をする際、歩様を重視して「リズムS」に該当する馬を中心に選別していくのはかなり有効と言えるのではないでしょうか。少なくとも、“トモの許容量”といった思い込みだけで決断していた曖昧さからは脱却できそうです。

これが今回提唱する、馬選びの新たな評価基準『リズム診断』です。


4. 歩くスピードは厩務員さんしだい?

「でも結局、歩様は馬を引く厩務員さんの歩くスピードしだいじゃない?」という声も聞こえてきそうです。ですが、「日常の躾と管理 - JRA日本中央競馬会」によると、

引き馬の基本
人の立つポジションは、馬の肩の位置である(馬に前進気勢を与え、人がついていくイメージ)。引っ張るのではなく、ムチや声を用いて後肢からきびきび歩かせる(快活な歩様)

とあり、厩務員さんはあくまでも馬主体のスピード感で歩ているようです。無理に引っ張ると馬に過度なストレスがかかり、その後の気性形成にも影響があったりするらしいですからね。よって歩様動画は、その馬主体の動きが表れていると考えて良さそうです。

何度も撮り直しをさせられて本来の動きを表現できていない馬もいるようですが、それも馬自身の特性だと捉えています。同じような条件下であっても、しっかり歩けている馬はいますから。


5. のんびり歩く馬は避けたほうが良い?

人間の場合、歩くスピードが速いほど脚に負荷がかかります。馬も同様に、ある程度の負荷のかかるキビキビとした運動が日常的にできていれば、それが基礎体力を育む要因になっていても不思議ではありません。

よって、のんびり歩くお馬さんは筋力が備わりづらい(身になりづらい)・もしくは日常の運動量が不足している可能性があります。逆を言えば、筋力が無いため脚をスムーズみ運べず、のんびりと歩かざるを得ないとも言えそうです。

前述の調査結果で「のんびり歩く馬は勝ち上がり率が低い」という傾向が出ていることからも、基礎筋力が備わっていないことを疑い、歩様では低評価にしたほうが無難です。

そもそも性格的にのんびりしている…のかもしれませんが、この場合は「競争」に向いていない可能性もありますね。


6. 歩くスピードが速いほど良い?

では逆に、歩様が速ければ速いほど良いのでしょうか。この場合は、いわゆるチャカついた状態に近いかもしれず気性の心配がありそうです。

例として、東サラで現3歳のレッドエーデル(アドマイヤリッチ17)は「リズムC(歩様かなり早い)」と判定しており、中央未勝利のまま競争成績を終えています。

募集時の歩様動画を見てみると、常にきょろきょろしており集中力がなく、歩くリズム・歩幅もばらばらです。実際エーデルは直近でも「物見がすごい」とコメントされるなど、まさに気性がネックとなっていたようです。

また、歩きが速く、かつ骨格が悪い/腱が弱い/脚の運びが上手くないといった馬の場合だと、余計な負荷がかかり過ぎて故障に繋がるというリスクもありそうです(例に出すのは控えますが該当馬複数)。


ちなみに、前述の“3. 各クラブ「471頭の歩様」を調査”で示した「リズムS(歩様きびきび) 」が、評価別の最大母数(212 件)です。このリズムが、実は競走馬にとって歩くのに最適な速度ゆえ、自然とここに集約されている表れなのかもしれません。

いずれにせよ、歩くスピードが極端にのんびり/早いであった場合、何かしらの事情を抱えているかもしれず出資は避けたほうが良さそうです。


7. 歩くリズムがバラバラだと?

また、スピードの違いだけでなく、歩くリズムがバラバラな馬もいます。歩幅が毎回違っていたり、蹄の着地のタイミングが妙にズレていたり。これは、骨格のどこかに歪みがあるため、一定の歩様を保てないからかもしれません。

これは人間の場合でも同様ですよね。例えば、右足首を捻挫した状態で歩こうとすると、いつもよりバランスの悪い動きになってしまいます。そのまま無理して日常生活を送ると、痛みをカバーするため過重のかかっていた逆の足や、股関節を痛めてしまう原因になったりもします。

馬の場合、歩様レベルであれば大事になりにくいのでしょうが、育成の進捗度合いと共に懸念箇所由来の負荷が蓄積され、故障リスクが高まっていくものと推測されます。よって、きれいな歩様の馬をなるべく選びたいと考えています。

きれいな歩様の馬は、両脚がリズム良く、左右対称に弧を描くように運び出され、かつ首とも上手く連動して推進力のある歩きをみせます。

アーモンドアイ(フサイチパンドラの15)募集時の歩様動画を見てください。まるで機械のように正確なリズムで脚を出せていますよね? 等間隔の歩幅と、推進力を維持したまま、滑らかで、軽やかで、躍動感のある美しい動き!!!!

リズム感のある馬=アーモンドアイ級の活躍を見せるという訳ではもちろんありませんが、若駒段階から一定の筋肉・骨格・気性が備わっているからこそ、この完璧なリズムで歩けると言えるのではないでしょうか。

この基礎能力をもって、その後の育成・レースに臨めば、勝ち上がる可能性が高くなるのも頷けます。やはり募集時の歩様を重視することは有効そうです。

※ちなみにアーモンドアイを遡って計測したところ「評価S」でした(無理やり「S」にした訳じゃないですよ笑)。


8. 「リズム診断」まとめ

これらのような考えのもと歩様を数値化し、その統計データを元に導き出したものが『リズム診断』となります。

『リズム診断』はあくまでも歩様の“リズム”に絞った指標です。トモや飛節、測尺といった馬体、育成牧場、厩舎力、血統などの諸要素は一切考慮されていません。

これら見解は他の方もよく書いているので、『リズム診断』とうまく掛け合わることで更に有効な馬選びができるようになるかもしれません。

また、大切なことですが競走馬の能力は歩様だけで決まるものではありません。リズム診断が悪くても、以外の要素や、その後の成長しだいでは、もちろん良い競争成績を残せます。ぜひ、ご自身の判断で最良の選択を導き出してください!

リズム診断はまだまだ検証段階であり、今後このnoteで過去診断結果など色々な情報を公開していければと思っています。馬選びにおける新たな要素のひとつとして参考にしていただけると嬉しいです。


9. 補足など


『リズム診断』は、あくまでも中央競馬の新馬・未勝利戦での勝ち上がり予測であり、地方での勝ち上がり、及びその後の活躍を予測するものではありません(今後の検討材料)。


調査は、主要クラブの募集時期である1歳6-10月頃の募集馬を対象としており、以降時期に募集されるクラブや「追加募集馬」は調査対象外としています。調査対象馬よりも成長・育成が進んでいる状態のため、一緒に比較してしまうとデータの誤差が大きくなってしまうためです。


『リズム診断』について「良い傾向に導くために、都合よく数値操作をしているのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、私は測定データをもとに今後新たな傾向を導き出したいので、意図的に操作するメリットはありません(むしろ数値にノイズが混じるためデメリットしかない)

ただし、機械的にやっているとはいえ『リズム診断』の測定は多少の誤差があると思います(なるべく正確さと揺らぎの補正を心がけていますが…)。また、クラブによっては録画機材が違うと思われ、再生速度の微妙なズレもあるかもしれません。このあたりは研究段階ということでご了承ください。


『リズム診断』は独自統計データに基づく予測であり、勝ち上がりを保証するものでは一切ありません。あくまでも参考情報としてご自身の判断でご利用ください。
※ネタバレにもなるため、ここに書かれていること以外のご質問にも答えられません。


『リズム診断』の予想精度を示す、経過・成績は以下でご覧ください。


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