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ねまかき様

「夜騒ぐといいが!山から『ねまかき様』がくるぞ。」ばあちゃんがいつも言うセリフだ。ねまかき様って何んだろう。母ちゃんに聞いても「さあね」というばかりでわからなかった。

朝、学校へ行く途中で登校班の仲間に聞いたら、「なんだよそれー!ねまかき様?聞いたことねえよwww」と笑われたが、ねまかき様がどんなのか、みんなで想像しまくった。蛇やタヌキ獣の類だろうとの意見。妖怪やお化けじゃないか。いやいや、山の主だよ。女の神様じゃないか。いや老婆だよ。なんて言って盛り上がった。

学校が終わったら山へいって「ねまかき捜索大作戦」をすることに決まった。ねまかきを捕獲したら、雑誌や新聞に載るのだろうか?テレビ番組で特集を組まれたらどうしよう。テレビカメラの前でインタビューされる俺。やべえ、ワクワクしてきた。

待ち合わせは、山の入り口の神社だ。毎週日曜朝には子どもだけで神社掃除させられる所だ。家から武器になるものを持ってくることになっていた。学校から家に帰って見渡したら、畑仕事を終えたじいちゃんの靴下が落ちていた。すごい臭い。俺はじいちゃんの靴下をビニール袋に入れて神社に向かった。

神社には、登校班の班長で6年生のタケ兄がいた。手には、金属バット。やっぱタケ兄はかっこいいな。

「おう、ケンタ!お前武器は持ってきたんだろうな。」

タケ兄からは、俺はケンタと呼ばれている。本名は、青木健太郎。ケンちゃんって呼ばれたり青ケンって呼ばれたりさまざまだ。俺は持ってきたじいちゃんの靴下を見せた。

「って、なんっで靴下なんだよ!しかも、くっせえし!」

俺はグヘヘって笑ってると、年下の涼ちんが来た。手には、まさかの

「サランラップうう?って!涼‼︎なんなんだよそれ。ふざけてんのかよ。」

タケ兄が叫ぶと、涼ちんは縮こまって

「ねまかき様を捕まえるっていうから、ロープを探したんだけど無くて。代わりにラップでぐるぐる巻きにしようかなって。」

俺が笑い転げているとイライラしてるタケ兄がにらんだ。タケ兄の機嫌が悪くなったようだったので、俺は

「じゃあ、こうしたらいいんじゃね?最初に俺がじいちゃんの靴下で相手を弱らせておくから、そのスキにタケ兄は金属バットでやっつけてよ。」

と言うとタケ兄の顔がパッと明るくなった。

「お!それいいな!俺がやっつけたら、涼!お前サランラップでぐるぐる巻きにしろよ。」

「え、僕怖い。」

「心配すんなって、ねまかきの野郎を俺が身動きできないくらいコテンパンにしてやるからよ!」

「う、ううん」

「俺ら、最強じゃね⁈マジやべえよ。」

「スゲーよ!タケ兄!『オラーねまかきでてこーい!』」

俺はゲラゲラ笑ってタケ兄の後についていった。
しかしその日は、ねまかきは現れなかった。

夜、おねしょをした。布団から出たくなかったからだ。なんだか、ねまかき様に悪いことしたよう気持ちになって、トイレに行く途中ねまかき様が来たらどうしようとか考えて眠れなかった。

朝、学校に行く途中、涼ちんが言った。
「昨日、あれから家に帰って母ちゃんに言ったら、すごい怒られて、、、。」

「なんで、母ちゃんに言ってんだよ!」
タケ兄は声が大きい。

「だって、、、そしたら母ちゃん『お供え物を持ってねまかき様に謝って来なさい。』って」
泣き出しそうな顔で涼ちんが言った。

俺も
「実は、俺も夕べ眠れなくて。なんか悪いことした気持ちになったよ。」もちろん、おねしょしたことは言わないでおいた。

タケ兄は、ため息をついた。
「うん、ちょっと調子こいてたかもな。学校終わったら、お供え物持って神社に行くか!」

「うん!いいね!」

「でも、お供え物って何がいいんだろう。」

「そんなの何だっていいんだよ!好きな食べものとかお菓子とか、なんかあんだろ?」

ねまかき様は、何が好きなんだろうかと考えた。俺が食べたい物あげたら、俺が食べれなくなっちゃうじゃないか。それは、困る。

家に帰って、おやつ棚を開けてみた。うまい棒があった。これにしよう。

うまい棒を持って神社に行くと、タケ兄が神社の階段に座って待っていた。

「おい、お前何持ってきた?うまい棒かよ、シケてんな。俺の見ろよ!」

タケ兄が持ってきたのは、アルミホイルに包まれたおにぎり。でかい。

「俺は、爆弾って呼んでるんだ。」

少し包みをあけると、真っ黒なノリが照っていた。美味しそうだった。涼ちんが来た。涼ちんが持って来たのは、

「ビーフジャーキー?!涼‼︎マジかよ。父ちゃんのビールのつまみじゃねえんだよ!」

涼ちんは、面白い。俺はゲラゲラ笑っていると

「だって、もののけ姫で、オオカミの女の子がビーフジャーキー食わせてたし、ねまかき様好きそうだなって。」

ああ、確かに。そう言われるとねまかき様、ビーフジャーキー好きそう。

俺らは、神社に爆弾おにぎりとうまい棒とビーフジャーキーをあげて、手をパチパチとたたいてから「ねまかき様ごめんなさい。」と言って、家に帰った。

日曜の朝、神社掃除のためみんなが集まると、タケ兄が「あっ」と声をあげた。

「俺の爆弾、、、」

お供え物は、散乱していた。
ビーフジャーキーは、無くなっていて、うまい棒は袋が破れてアリンコが湧いていた。爆弾おにぎりはバラバラになって、アルミホイルとご飯粒が散らばっていた。

その中で、梅干しが手付かずのまま落ちていた。

ねまかき様は、酸っぱいのが苦手なのか。
俺と同じだ。と思った。



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