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エレベーターが倒れる時

 僕たちは、それを「えんとつ」と呼んでいた。
宇宙コロニーにつながるエレベーターのことだ。人が行き交うための交通手段としてのエレベーターの他に物資輸送用、高気密精密資材用、コ・エネルギー循環媒体用。数十本のシャフトが、海沿いの僕の街から宇宙につながっていた。
 ある日突然、警報が鳴り響き、避難アナウンスが流れた。

「緊急事態が発生しました。直ちに高台の避難場所に逃げてください。繰り返します、、、。」

 僕らは、校舎で授業を受けていたが、先生の指示で屋上に集合させられた。やがて街中から人々が校舎に集まってきた。家族と一緒になった同級生は泣いてお互いの名前を呼び合っていた。僕は必死で父と母の姿を探したが見当たらなかった。やがて、誰かが叫んだ

 「えんとつが倒れるぞー」
その声で皆が一斉に海を見た。湾岸沿いに立ち並んでいたえんとつからいくつも瓦礫が落ちてきた。遅れて轟音が鳴ると、えんとつは飛沫を上げながら海に垂直に沈んでいく。緊急アラームが鳴りやまない中、大きな波が押し寄せてきた。皆が「ああ、、、!」と声をあげているなか、僕の不安に耐えきれず叫んだ。

 「コロニーには、まだ父さんと母さんが!」

僕の声を無惨にもかき消すように、えんとつが一つ、また一つ、海に沈んでいく。避難場所の小学校の2階まで波が上がっていたが、僕にはそれどころではなかった。

叫んでいたのか、泣いていたのか

今では、よく思い出せない。
ただ、あの日を境に僕は否が応でも大人になるしかなかった。

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