パコーンと帯昇格(ブラジリアン柔術の)

私は死刑◯◯派なんだけど、[略]。
いずれにしても、死刑の方法について大学時代の二年間くらい調べ続けていた時期があって、つまり残虐でない死刑はありうるのかという調査をしてて、たとえばイランの石打刑の石打職人は一発パコーンと生命維持をつかさどる場所を破壊してくれるらしいけど肝心の石打職人を育てるための方法が以下省略なわけで、絞首刑はロープの長さと太さに対する死刑囚の体重や首の強さなどとの相関関係によって何が起こるのかがいろいろ変わってくるんだけど基になるデータが何百年も前のイギリスの処刑人が作った適当なメモなのでアユを上手に食べる人みたいに生きたまま体から背骨がずるっと出てきちゃったりするようなパターンもありえるらしくて結構残酷らしい。科学の英知に頼るやり方もあって薬物注射は最高に苦しみが少ないんだけど肝心の製薬メーカーはその薬品の刑罰目的の販売をやめてるのでちゃんとしたデータの無い野良薬品みたいなのを注射するとかなり苦しくて残酷なことになり、同じ方向性にあるのがガス刑で、これもまたかなり一発パコーン系統のやり方なんだけど、電話ボックス的な箱の中に座ると無味無臭のガスが足元からじわりじわりと迫ってきて、電話ボックスの前にいるマッドサイエンティストみたいな医者が穏やかにアイコンタクトを送ってくれるので、医者の指示に従って呼吸をいったん止め、ガスが部屋に満ちたと判断した医者が合図を送るので死刑囚は大きく息を吸って一発パコーンと執行。これもまたかなり苦痛が少ないんだけど、死刑囚は医者の言うことを聞かないという非常に大きな問題がある。ドキドキしちゃったりそもそも他人の言うことを聞かないまま生きてきた彼らの反社会的な人間性だったりいろんな理由で濃度が薄いときに中途半端にガスを吸っちゃって七転八倒されちゃうとものすごく残酷さが増してしまう。あとガスが充満した密室の掃除ってのはなかなか難しいらしく、刑場の掃除が面倒くさくて税金が掛かる。

で、ここまでが前置きで、帯の授与っていうのは最後の電話ボックスのやり方にすごく似ているという話です。いつもいつもいつも電話ボックスの中にいる死刑囚を見つめる医者の気持ちになる。死刑囚がなんか言ったり思ったりしているんだろうけれどとりあえず互いのためにいったん深呼吸してくれハイ次は息を止めてくれ私が指示する限りずっと息を止めてくれよしいくぞいくぞハイどうぞ呼吸しようパコーンみたいな感じで互いの呼吸を合わせていきたい。
生徒もそろそろ自分は帯昇格なんじゃない?って思ってるんだろうけど経験だとか実力だとか技術だとかの諸要素が足りてないときにトライフォースの帯を渡すわけにもいかず、こっちとしてはそろそろ一発パコーンといきませんかといっても相手はいやまだですまだですまだ息止めてますんでみたいになったりもする。いやまあガスが充満してもまだ呼吸したくない趣味のひとだったらまだいいのよ。不満に思っちゃってる人がもしかしていたら悲しい。彼らがもしかしたら悲しい気持ちになっていやしないのか想像しただけで悲しくて泣いちゃう。悲しくてやりきれない。

私の紫帯は、通りすがりのブラジル人にオースオマエムラサキ!的な感じでリアル通りすがりで渡されてまあええわって感じで謎だった。青帯は学生時代をひたすら柔術に費やして4年かけてもらったけどこれは結構長く待ったと思う。かなーり待ったと思う。ガスが無味無色無臭で医者の考えていることも今ひとつわからないガス処刑室にずっと座っている感じだった。私はひたすら呼吸を止める派です。

トライフォースの帯昇格のルールは多少わかりやすくて昇格条件が会員さんたちにも事前に示されている。
経験は既定の練習回数で判断することになっている。実力的な要件を補完するために既定の倍の経験を積ませることもある。
実力は公認大会の結果と平素のスパーリングの様子で判断される。
技術面の判断は簡単で、テクニック検定の合格で判断する。普段のスパーリングで既定の技術を使っているのかを常に見ているし指導するときにも声掛けしているはずだけど、好きなことしかしないディープハーフおじさんとかかみつきおじさんとかヘッドロッカー・フットロッカー・柔道マンとかに帯を渡すと、うるさい外野の全く関係ないひとたちからあいつは技術が足りないだのなんだの言われるとこの狭い世界では必ず漏れ聞こえてくるのだけど、いやテクニック検定に合格してますが?と一言いえばだまらっしゃい体の硬い太ったおじさんにはおじさんの生き方があるんだようるせえと無視できるので非常に便利なシステムです。あとテクニック検定の審査の過程で、普段は好きにしなはれとしか言わない杉村が突然細かく技術の意味とか他の技法とのつながりとかをに言及するので、しかも減点方式の試験を早川先生から強要されているがゆえに私は常に褒め褒め人間でいたいのにもかかわらず実際はものすごく厳しい印象で指摘せざるをえないんですよ?心苦しいです非常に心苦しいです言いたくないんだけど渡世の義理で早川先生の命令によりあなたの改善点を指摘せざるを得ないです、およよよ的な感じで、それもまた蛮族のバンジージャンプとか成人の儀式で入れ墨入れるとか前歯を抜くとかのイニシエーション的な感じになって本人も喜んでいて何よりです。簡単に言うとテクニック検定がすべてを補ってくれるので非常に便利です。

なお、スーパーハッカーみたいな人がコンピューターゲームを攻略するような感覚で、客観的な条件を最低限だけ攻略してどやあ帯よこせといってきたらきたで悲しいです。いつかそんなスーパーハッカーが来るのかドキドキしてます。待ってますスーパーハッカー。一応常々何をすれば帯昇格なのか言うようにはしていますが普通に考えれば扉の向こうから見つめるマッドサイエンティストの言葉が届きそうもないのだろうという不安をよそに今のところ案外心は通じ合うものです。奇跡。

あと、会員さんたちに対しては「尊敬される柔術家になりたい?それともとりあえず黒帯とれればいい?」って聞くようにしています。そこから逆算して今何をするべきかを一緒に考える方針です。今びっくり技の攻防をきわめるべきか、黒になるまでタックルだけをきわめるのか、道場にいる誰かにスパーリングで圧倒することを考えるべきか、だらしない態度で練習に参加する姿を後輩に見せるべきか。
柔術はたった一人で戦うルールなのでこっちとしても好きにさせるしかないのですが自分は一人だとは思ってほしくないものです。ひとりで戦うスポーツだということは大前提ですが、それでもやはり電話ボックスの中にいる囚人のような気持ちにはなってほしくないものです。

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