紫帯おじさん

『いやー、紫帯までになるとなかなか柔術も辞めれないのよね。
これまでかけた時間とお金とかも考えると他の趣味なんて考えられないよ。何より柔術は楽しいし。』
ボロボロの紫帯を巻いた彼は笑顔で白帯に柔術の素晴らしさを伝えてました。

確かに白帯や青帯で辞める人はいるけど紫帯までまでになるとなかなか辞める人はいない。 紫帯までくると、就職、結婚、子育て、大きなプライベートのイベントがあって辞める人がたまにいるぐらい。

辞める時に、しばらく柔術とは距離を置きます、、、。また復帰する時にはみなさんよろしくお願いします。とかエモい文章をSNSに上げて結局戻ってこない人は多いですが彼はブラジリアン柔術に戻ってきました。


いやー、やっと子育ても落ち着いたよ。
3年ぶりに彼が帰ってきた時は嬉しかったです。
少し太ったねと茶化すと、また練習して昔みたいにすぐ痩せるよと笑顔で返事をしてきました。

再入会の手続きを終えた彼がマットに上がった時にはお別れする前の昔に戻った気がしました。
復帰の時に着てたのはピカピカのショーヨーロール。
もう今はそのブランドの道着は誰も着てないけどね。
値段が高いだけの昔流行ってた道着。

昔の知り合いに挨拶をする彼。みんな彼の復帰を歓迎してました。
あれ、白帯だったあいつが俺と同じ紫帯にになったの?
怪訝そうな顔に一瞬なった後、ちょっと厳しめに相手してやるか。僕にこそっと耳打ちしてきました。

スパーは酷いものでした。昔は白帯だった後輩は最新の教則を購入して勉強していました。
同じ帯色でもまるで相手になりません。シングルXも知らなければ蹲踞ベースも知らない。
昔のテクニックしか知らない彼はボコボコにされました。

すごすごとマットの隅に戻ってきた彼は「まあ、今日は復帰した初日だからな。あいつにエビとか腕十字を教えたの俺だぞ。昔の体力が戻ればボコボコにするのはこっちだよ。」
そうだね。また頑張ろうね。それ以上は何も言えませんでした。

復帰をして2.3週間は昔のように毎日練習に来ていました。
ピカピカのショーヨーロールと昔の古いコラルの道着を交互に着て練習をしていました。
昔はたくさん持っていた道着も休んでいる間にほとんど捨てたのかな?

1カ月たっても昔の後輩にスパーで勝つなんてことはありませんでした。
うさぎと亀の話を思い出しました。
彼がゆっくり寝ている間に少しづつ後輩は強くなり、はるか先に行ってしまったのです。そもそも彼は才能あるうさぎでもなかったですが。

復帰から半年もし頃には今の柔術の不満を言うようになりました。
「え?昔はもっと帯の昇格厳しかったのに?お前はそんな試合結果で紫帯なってたの?なら俺茶帯じゃないとおかしいよ。」
「俺がやってた昔はこんなに試合のエントリー費も高くなかったわ。もう試合出ないわ。」
「昔は気軽にインストラクターも個別に指導してくれてたのに今はプライベートレッスンでしかおしえてくれないの?やる気無くすわー。テクニックの時間とか出るのやめよ。」
「変な技多くなってない?50/50とか格闘技の本質からズレた技でしょ。あと、俺のいた昔はラッソーなんて言わないよ。この技は巻きスパイダーでしょ。」
「なんかおれのやってた昔の柔術と全然違うわ。」

残念ながら彼の望む昔とやらは2度と来ることはないでしょう。時計の針は昔には戻りません。自分の力で止まった時計の針を進めることはできるので頑張って欲しかったです。

昔は紫帯も少ない道場で他の会員さんにも尊敬されていた彼はいまではこの道場の厄介者になってしまいました。

ボロボロの紫帯を巻く青帯より弱い彼。
今ではスパーで負けるのが恥ずかしくて
入会したて白帯を捕まえては昔の技を指導するのが生き甲斐です。

僕は昔のように仲良くすることはできなくなりました。
本当に好きなら子育てをしていても週に1時間くらいは柔術の練習できなかった?
試合とかテクニックを見たりする時間は本当になかった?
なんで戻ってきたの?
本当に柔術は好きだったの?

『いやー、紫帯までになるとなかなか柔術も辞めれないのよね。
これまでかけた時間とお金とかも考えると他の趣味なんて考えられないよ。何より柔術は楽しいし。』

彼が白帯に柔術の素晴らしさを伝えているその言葉。
それ本心なんですか?
こうして万年紫帯おじさんが生まれました。



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