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錦糸町にヴェルファイア

あたしの好きな芸能人もハマってるから
ブラジリアン柔術ってやつを習ってみたいの。
月1万円くらいだしいいでしょ?
妻が新しい習い事を始めたいと言って来た時にはこんなことになるなんて思っていませんでした。

子育てもひと段落して暇な時間に習い事をしたい妻。
とくに止める理由もありませんでした。

体験入会に行った帰りには道着を持って帰ってきました。
「格闘技の道場は緊張したけどみんな優しくしてくれて雰囲気も良かった。
明日から通う。」
すごく楽しそうにと言ってました。

週2回の練習が週6回に、夜遅くに洗濯機を回されて、少しうるさいなとも思いましたが何かを熱心に打ち込む姿を見て微笑ましかったです。
平凡な専業主婦の生活に彩りをつけているようでした。


半年も過ぎた頃、私は試合に出ると言い出しました。
え?お金を払って試合??格闘技ってお金もらって危険なことするのでは?何の意味があるのでしょうか?無理をして怪我をしないといいなと思ってました。

減量中の妻は生理中よりイライラしていて扱いにくくなりました。
食卓に並ぶご飯は彩りも味気もないものになってしまいました。
ただ、本人のやる気を見ていると何言えません。
渋々、鳥のささみを一緒に食べてました。
空腹に我慢できずに、こっそりマクドナルドのセットをテイクアウトして食べました。
ゴミを発見された時には、私は食べれないのに!と怒鳴られました。

私や家族みんなが辛かった減量期間2ヶ月後、妻は試合の当時を迎えました。

試合当日の朝早く、家の前に道場の方達が迎えに来てました。
運転手の男が代表の先生なのでしょうか?
「あれ?ご主人??奥さん今日は試合を頑張ってきますよー。」

いい年して短パンにtシャツ、そしてサンダル。
短髪で派手な色に染めた髪。
日焼けをしてがっしりした体格の男が何故か握手とかしてきて気持ち悪かったです。

同じ道場のロゴTシャツに短パン、サンダの男が何人か乗っている黒のヴェルファイアに一人女性の妻は乗って試合会場に向かって行きました。格闘技に興味のない私はこのお金を払って怪我の恐れもある試合をする人が楽しそうにしているのが不思議でした。
何を目指しているんだろう?って。

試合の日は打ち上げもあったらしく深夜に酔っ払って帰ってきました。
酔っぱらった妻に、あんたは大人になってから何か頑張って金メダルとか取ったことあるの?と言われました。

そしてスマホを家のテレビに繋いで試合の上映会を始めました。
ルールもわからない、固定カメラで流れる試合をうとうとしながら見てました。
眠そうになってると今のところしっかり見て!と怒られました。
昔、父親に興味のない野球の巨人の試合を隣で見ろと言われた時のようでした。


夜遅く洗濯機に投げ込まれる帯が青色に変わったころには私のように格闘技をしている人は特別な存在だと言わんばかりの態度になりました。
1時間3万円払ってセミナーやレッスンは受けるの当たり前。
金を払って試合に参加。
これは散財ではなく自分への投資。
月謝のほかにもかなりお金を使うようになりました。

「あんたさー、ぶくぶく太ってたるんだその体は恥ずかしくないの?あたしの先生は体も鍛えてるしイケメンなのに同じ男としてえらい違い。」
私が風呂上がりにお酒を飲んでる時のことです。
ニヤニヤしながら体を見て笑ってきました。

腹(たるんでる)が立ち思わず掴みかかった時です。
幸か不幸か私はDV男にはなれませんでした。
肩を掴んだ腕を捻られて極められました。
「痛い、痛い。」
ひ弱な声で鳴く私。
こっそりTwitterで女性の護身動画におんながこれできるかよ笑笑と書いてたのが恥ずかしくなりました。
「あんた、ごめんなさいは?」

この日を境に家族のバランスは変わりました。
「また試合だから子供の面倒を頼むわ。」
いつもあの男がヴェルファイアで迎えにきます。
なぜか最近は他の会員さんは車に乗っていません。

錦糸町でのつまらない接待営業をした深夜の帰り道。
黒いあの車がラブホテルの駐車場に停まっていました。
リアガラスに犬のステッカーが付いてるやつです。

今日も試合があったのかな。


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