見出し画像

笑瓶にーやん

 編集部に集合。例によって雑談しながら、それぞれの状況や、次号でやることを決めていく。昨年からのコロナ禍により、これまでのように、ジムへ行って自由に取材することができない。その状況は依然続き、こちらのストレスももう、かなり前から爆発寸前だが、なんとか耐えなければならないのはみな一緒だ。

 そんな中でも、取材を受けてくれるところもある。本当に感謝である。

 コンタクトレンズ利用者なのである。視力が低下して、最初にメガネをかけたのはたしか、中学1年のとき。「暗い部屋で、読書をしていたから」──というのは、表向きの理由で、実際は、深夜にやっていたちょっぴりお色気な番組を毎日、目と鼻の先で観ていたから。

 もちろんいまのようにスマートフォンもパソコンもない時代。親が寝るのを確認すると抜き足差し足、居間に行って、テレビにイヤホンを差してつける。『11PM』やら『アクションカメラ』、『トゥナイト』などを手あたり次第観た。テレビは離れて観なければダメ。これは子どもたちに口酸っぱく言ってきた。自分の経験をふまえての切実な想い(笑)。

 中学の3年間はメガネをかけて過ごした。そのメガネがまた非常に地味なやつ。黒縁で、いわゆる“がり勉くん”みたいなのだった。モテるわけがなかった。きっと、メガネだけのせいじゃないけど。

 高校に行って、少林寺拳法部に入った。コンタクト(レンズ)をしながらコンタクト(スポーツ)をしたい。だから、メガネから変えた。目に異物を入れるというのは当初、かなり勇気が要ったけど。
 で、やっぱりモテなかった。でも、男子校だから……というのを理由にした。思春期のサルばかりの生活は、でもそれはそれで楽しかった。

 大学はもちろん男女共学。でも、やっぱりモテなかった。

 そんなこんなで、長年コンタクトを愛用してきたが、視力はどんどん落ちる一方。いつの間にか乱視まで入り、その都度、コンタクトで矯正してきた。

 スマホを使うようになり、そこに老眼も入るようになった。今時のコンタクトレンズはそれも矯正することができるようだが、それだけでは追いつかないレベルに。去年ぐらいから老眼は一気に加速した。本が読みづらい。夜はPCの文字も辛い。ゲラを見て校正するのも厳しい。仕事に支障をきたす状態が続き、「早くなんとかしなければ……」だった。

 そんなとき、隣のミヤちゃんが『ハズキルーペ』を導入した。オレよりひと回り以上、年上なのに新しもん好きで、取り入れるのは何でも早い。ちょっと借りて文庫を見てみたら、世界が見違えるレベル。それからは、『ハズキ……』のホームページで取り扱い店舗を検索しては、自分の行動範囲にあるお店を覗き、「ここもないなぁ……」の繰り返し。そんな話をしたら、「俺は秋葉原のヨドバシ(カメラ)で買ったんだよ。あそこは店頭にたくさんあったよ」とミヤちゃん。なんとなく秋葉原は敬遠する街だったのだが、今日ついに意を決して行った。

 何年ぶりだろう秋葉原。やっぱり人が多かった。しかもやっぱり歩きスマホしてる人がうじゃうじゃ。それが不思議とぶつからないで行き交う。その姿がまた不気味だった。ぶつからなければいいというわけじゃないのだ。なんとなくこう、“血が通ってない”感じ。歩きスマホをしてないオレを見る彼らの「え? なんでスマホ見てないの?」みたいな一瞬驚く顔に驚かされる。

 総合案内所に行くと、担当の女性がいままさに、店内放送をしようとしているところだったのだが、彼女はオレを察するとそれをすんででやめて、にっこりと笑顔で対応してくれた。サービス業の鏡である。しかもてきぱきと店内図を使って2箇所教えてくれた。

 1箇所目は、ただどんと置いてあるだけ。いろいろ訊きたいのだが、周りに店員がいない。なので、もうひとつのほうに行ってみた。こちらはすぐ横にレジがあったので店員たくさん。イスとテーブルもあった。お試し用の辞書も置いてあったが、自分の持ち物で確認したいから、店員にPCをここに広げていいか尋ねて、拡大率3種類(1.32倍、1.6倍、1.85倍)と、フレームカラー10種類、すべてを試した。PCにある原稿を開き、持参した文庫も眺めるという作業。「これかなぁ、いや違うなぁ」を30分以上繰り返し、ようやく選んだのが1.6倍の白。後から気づいたが、CMで舘ひろしがつけてるのと同じ。彼は似合うが、オレは似合わん。でも、他の色はもっと似合わなかったからしかたがない。なので、「あいつ、舘ひろしのつもりかよ!」とか言わないように。自分では「笑福亭笑瓶みたいだな」って思った。昔だったら渡辺謙みたいになりたかっただろうけど。そういや、渡辺謙は、いつCM降りたんだ? 武井咲は相変わらずやってるけど。

 もう、メガネがあろうがなかろうが、モテないもんはモテない。とうにわかってる。
 この年になると、そんなことはもう、どうでもよく、常に自分自身にとって実用的かどうか、それだけを気にして生活している。オレも大人になったもんだ。

 とにもかくにも、これで次号から『ボクシング・マガジン』からは誤字・脱字がなくなる、はずだ、と思う。きっと。いやたぶん。

                           <文中敬称略>

ボクシングの取材活動に使わせていただきます。ご協力、よろしくお願いいたします。