Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章 単行本 – 2021/7/27

心理学系のネタを用いた読み物を複数眺めていると、人間がいかに残酷なことをしてしまうのか、無責任で、卑怯で、攻撃的といった性悪説を強調したエピソードをよく目にします。戦争や犯罪など、記録から歴史をふり返るだけでも、確かに目を覆いたくなるような残虐行為の数々。「そうか、人って普段ニコニコしていても、一枚剝ぐととんでもない動物なのね」と、なんだかがっかりした気持ちになります。こうした歴史から学んで自戒の念をもつことも悪くはないのですが、自虐が過ぎるのもどうかと思いますし、そもそも「人って放っておくと、ホントにそんなに酷いの?」と思う自分もいたり。

こうした思いでモヤモヤしている人には、とても気持ちがよくなる内容です。人間の性悪説を説くべく何度も引き合いに出されてきた、スタンフォード監獄実験、ミルグラム電気実験、キティ・ジェノヴィーズ殺人事件といった具体的な出来事についての再検証を試みているのが興味深かったです。あらためて当時の関係者を探し当ててインタビューしたり、史実を整理し直したりすると、まったく語られてこなかった後日談や、事実認識とは異なる証言などが次々に再確認され、真逆の解釈も成り立ちかねないことがわかったというレポートを読むことができます。いつの世もそうですが、メディアの功罪に関わる話でもあるなぁと思いながら読みました。

ただし、「じゃあ性善説のほうが正しいのね」とか言い出したいわけではなく、人間の持つ別な性質にもちゃんと目を向け直して、これから作る未来をよりよくするために役立てようよ、新しい発見を元に作戦を立て直してもいいんじゃない?という提案だとも受け止められます。書名にあるとおり、僕らは酷いばかりじゃない、”希望の歴史”を歩んできたのだから、堂々とその性質を活用して課題を解決していこうよと。昨今の世界事情を見渡すと、ますますそんな思いを強くしたくなります。

単になんでもポジティブに解釈しようという話だと乗れません。でも、本書で書かれている内容は、人の営みの中で日々暮らしていて得られる直感とも符合する部分が多々あってリアリティが感じられました。世界平和を掲げて活動している人たちばかりではなく、家族関係や職場関係を改善したい人や、よりよく生き抜くための知恵を得たいという人たちにも、大いにヒントを見つけることができるのではないかと思います。

(おわり)


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