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ペニシリン系抗菌薬で代謝性アルカローシスが起こるのか?
細菌性髄膜炎に対してアンピシリンを投与している人の代謝性アルカローシスについてカンファレンスで話題になりました。
教科書にはカルベニシリンによる代謝性アルカローシスが有名ですが,ペニシリンGナトリウムの報告もあるようです(日本はペニシリンGカリウム)。
昔,ビクシリンS®(アンピシリンとクロキサシリンの合剤)を1日12g投与していた症例で,代謝性アルカローシスを起こした症例をみたことがあります。
「ビクシリンS®(アンピシリン・クロキサシリン合剤)の外因性アルカリに起因する難治性代謝性アルカローシスを認めた1例」
内科学会,関東-578-98
(内科学会の「症例くん」で抄録を読むことができます。どうでもいいですが,「症例くん」をみると「闇金ウシジマくん」の話のタイトルっぽいなと思ってしまいます)
当時,担当医からペニシリンで代謝性アルカローシスになっているのではないか?と聞かれて,カルベニシリンではないし,違うんじゃない?と答えた覚えがあります。でも,ビクシリンSを止めたら代謝性アルカローシスも治ったので,そういうこともあるのか,と思いました。
クロキサシリンのせいかと思ったら,アンピシリンナトリウムも報告がありました。
59歳男性,40℃の発熱,吐き気,嘔吐,左CVA圧痛
99mテクネシウム骨スキャンでは腰椎のL4/5に集積あり→椎体膿瘍疑い
血培からアンピシリン,アミノグリコシドに感性の大腸菌が検出
→アンピシリン1g,6時間毎,カナマイシン0.5g,12時間毎
→1週間後,カナマイシンを中止して,アンピシリン2g,4時間毎(12g/日)に変更
→低カリウム血症出現(2.4mEq/Lまで低下),治療開始から10日後もスパイク状の発熱が続く,血液培養は陰性化
→プロベネシド0.5,1日4回内服,アンピシリンは3gを4時間毎(18g/日)に変更,低カリウム血症はカリウム補充で改善
→感染症医にコンサルトしたらカルベニシリン大量投与で低カリウム血症になることはあるが,アンピシリンナトリウムでは経験がないという返事
→Kの補充をやめたら,3.0mEq/Lまで低下した。K補充を再開。
プロベネシドとアンピシリン18g/日もなかなかですが,この中に,以下のような記載がありました。亜急性細菌性心内膜炎に対してペニシリンナトリウム100ミリオン単位,ミリオンは100万だから,100万×100で1億単位!?
Brunner and Frick described six patients administered daily infusions of 100 million units of penicillin sodium for subacute bacterial endocarditis.
出典↓を確かめると確かに100 mega unitと書かれていました。megaは10の6乗なので,1億です。多分,この時代はペニシリンGの最適な投与量が定まっていなかったのでしょう。
そういえば,私が卒後3年目の頃,別の病院に行った初期研修時代の同期から連絡があり,
「先輩が感染性心内膜炎(IE)に対してペニシリンG,1回2400万単位を1日6回投与してるんやけど,大丈夫なん?
量間違ってないですか?って言ったけど,IEにはペニシリンを大量に投与するんだって言われて・・・」
「え,1日2400万単位じゃなくて,1回2400万単位?」
「そう」
「2400万×6だから1億4400万単位?」
(というのは嘘です。作り話です。普通の病院なら薬剤部からストップがかかるはずです)
閑話休題
日本の製剤はペニシリンGナトリウムではなく,ペニシリンGカリウムなので,同じことは起こりにくいかもしれません。
逆に,ペニシリンGカリウムは,アセトアミノフェンとの併用でピログルタミン酸が蓄積し,アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスになることがあると教えてもらいました。
さて,アンピシリン12g/日を使っても皆が代謝性アルカローシスになるわけではありません。外からHCO3-を投与したとしても,血中のHCO3-濃度が上昇しただけでは,尿中からHCO3-が排泄され,代謝性アルカローシスは持続しません。
代謝性アルカローシスが起こるには,きっかけになるフェーズ(generation phase)とそれを維持するフェーズ(maintnance phase)が必要とされます。
ということを昔,BRS Physiologyの初版で勉強しましたが,もう8版になっていました。
https://www.amazon.co.jp/dp/1975153650
例えば,細胞外液量の減少(ECF volume contraction:)がある場合
→腎血流の低下→アンギオテンシンIIの亢進→Na+-H+交換の亢進→一緒にHCO3-再吸収の亢進(代謝性アルカローシスの維持)
という流れです。また,腎血流の低下はアルドステロン分泌も亢進させ、Na吸収が亢進するので、代わりに尿細管でのH+とK+が捨てられます。これも代謝性アルカローシスの維持に寄与します。
この場合,生理食塩液の輸液に反応するはずですが,Cl不応性(生食輸液に反応しない)の場合は,他に考えるべきことがあります。
Cl不応性のの代謝性アルカローシスの原因の覚え方は,昔Saint-Francesで,"ABCD"と覚えました。
(今はSaint-Chopraになっていますが,内容は変わっていませんでした)
Aldosteronism(primary)
Bartter's syndrome
Cushing's syndrome
Depletion of magnesium
最後のDはちょっとこじつけですね。
マグネシウム欠乏は意外と見落とされがちです。というのも血清Mg値を測っても、MgはCaと同様にイオン化しているものだけが働くので、血清Mg値が正常でも実はイオン化のフリーのMgが欠乏している可能性があります(多分、血清Mg値が低ければ低いと判断していいと思います)。
イオン化Mgは,昔は測定できませんでしたが,今は機械によっては測定できるものもあるようです(が,おそらくまだ一般的ではないと思います)。
というわけで、Cl不応性の代謝性アルカローシスで上記のABCがどうもなさそうだ、という場合や、Mgが欠乏しそうな人(大酒家や利尿剤使用歴のある人、下痢をしていた人)の場合には、補充を検討するようにしています。
たまに復習しないと忘れてしまうので,よい復習の機会になりました。
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