飯塚イズムで学ぶ 流れがわかる!感染症診療の歩きかた

飯塚病院の的野先生から新刊の「飯塚イズムで学ぶ 流れがわかる!感染症診療の歩きかた」をご恵贈いただきました。

私はちょうど20年前の2002年から2年間,飯塚病院で初期研修を受けました。当時は感染症科がなく,2019年に的野先生が着任して,感染症科が新設されました。

的野先生とは亀田総合病院で一緒に勤務していました。とても人当たりがよく,気配りのできる人で,1000床を超える飯塚病院で感染症科に着任すると聞いて,彼ならうまくやれるだろうと思いました。

本書はマニュアルサイズのB6版で,中身もマニュアル的でさっと調べてさっと使えるタイプの本かと思いましたが,結構読ませるタイプのものでした。マニュアル的なものを期待して手に取ると「あれ?」と思われるかもしれませんが,「考え方」すなわち「イズム」重視されているなと感じました。

感染症科と総合診療科の人が主に執筆されていますが,腫瘍内科や腎臓内科,小児科,外科,検査部,薬剤部,感染管理センターの人も執筆されており,内容に厚みを増しています。中でもコラムの「外科医の悩み」は本当にそうですよね,気をつけないといけないなと思いました。

感染症のコンサルテーションを受ける時,それまでの経過をいかにまとめるかが問われます。我々が普段行っている,デバイスがいつからいつまで入っていたか,いつからいつまでどの抗菌薬が使われていたかまとめる記載例があるのは類書にあまりないかもしれません。

マニュアルっぽくないと書きましたが,マニュアル的にも使えると思います。マニュアルからちょっとその先を勉強したい人にはよい本だと思います。

以下,本の紹介から離れます。

一点だけ,非常に細かい点なのですが,p.100の薬剤熱の項で「薬剤熱を初めて報告したのは1964年のCluffとJohnsonである。」と記載され,

Johnson DH, Cunha BA. Drug fever. Infect Dis Clin North Am 1996;10:85–91.が参照されています。これには1964年のCluffとJohnsonが引用されていますが,彼らの報告が初めてという記載はないようです。何かの勘違いでしょうか。実は,1964年よりも前に薬剤熱の報告はあります。子どもの頃「まんがはじめて物語」というテレビが好きだったせいか,「はじめて」と書かれると気になってしまいます。


Cluff LE, Johnson JE. Drug fever. Prog Allergy 1964;8:149–94.

余談ですが,このJoseph E. Johnson IIIは1983年発行のMurrayらによるFever of Undetermined Originという本でDrug Feverについて書いています。

不明熱業界では三代目JoJoによる薬剤熱の総説として知る人ぞ知るものです。

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さて,drug feverについて,PubMedで検索できる最も古いものは1947年の以下のもの。フランス語で書かれており,原文のタイトルが不明なので,これ以上検索できませんでした。

次に古いのは1948年の以下のペニシリンの薬剤熱についての文献です。

普通にdrug feverという用語が使われており,おそらくそれ以前からも使われていたのでしょう。1945年頃からFlorey(ペニシリンの発明と実用化でFlemingとともにノーベル賞受賞)らの精製した初期のペニシリンには不純物も多く,これによる薬剤熱もあったようです。不純物を取り除いたものでは起こりにくくなったようですが,その後も皮疹伴う発熱(ペニシリン中止により改善)や,皮疹を伴わない発熱はみられたそうです。一部,溶媒への微生物の汚染によるものも混ざっていたようです。

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