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消えたわたがし

寺井町には大きなお祭りが年に1度ある。

【九谷茶碗祭り】である。

私の中では石川三大祭りのひとつだと思ってる。

当時は旧8号線を封鎖して歩行者天国にして開催する大きな祭りであった。

寺井の子供たちの唯一のお年玉を思う存分使う3日間であるといっても過言では無い。

ベビーカステラやりんご飴、やきとりなどの普段食べられない美味しい食べ物!射的にくじびきに金魚すくい、カタヌキに玩具さんなどなど普段野山を駆け巡ることしか出来ない中でこんなにも楽しい3日間はないのだから。

小学校低学年のわたしにとってこの時期はいちばんソワソワしたし指折り数えて楽しみにしていたのだった。お金が無くてもとにかく3日間その空気に酔うだけで幸せだったのだ。

そんな年。
 横浜のばーちゃんが遊びに来た。とにかくド派手な横浜のばーちゃんがお祭りで欲しいもの一つとやりたいこと1つだけさせてくれるというのだ。

そんな贅沢なことをさせてくれるド派手横浜のばーちゃんが神様に見えたのだった。

紫色のパーマー頭に紫のサングラスと白ヒョウ柄のスパッツ。ライオンの顔がデカデカとプリントされ目がルビー色のキラキラビジューが付いた服を着こなしたド派手横浜のばーちゃんと指輪がゴツゴツ付いた手を繋ぎ、何しようか何食べようかとワクワクしながら歩いた。
道行く人がジロジロ見られるのも何も思わんくらい迷いに迷って したいことをまずはした。

それはくじびき。
 1等がミニ四駆かBB弾かファミコンソフトだった。
なぜそれにしたかと言うと男子が沢山いたからだった気もする。もしここで1等を引いたら私は英雄になれると思ったから。

 300円 を払ってもらい
よーーーくぐりぐりとかき混ぜて1枚引いた。

なんと!


見事!



外れた!

羽のついた風船ストローか紙の伸びる剣?のどちらかが選べる賞であった。

ようは大ハズレ。
でもその場にいた男子たちの注目を一身に受けたので世は満足じゃった。(笑)

伸びる剣をびゆーんびゆーんとしながらまた歩く。

時たま伸びすぎて紙を巻き戻したり手間どる。

最終的にはくちゃくちゃになるのだけどそれはまた数時間後の話。(笑)

さぁ!次は食べたいものである。
見たことないハイカラな屋台飯に興奮した。

フランクフルトにからあげ、ポテト。
はしまきにたこ焼き、焼きそば、トウモロコシ…
かき氷、甘栗、クレープ

どれもこれも美味しそうだった

そして端から端まで歩いたら出入口に可愛い袋が沢山ぶら下がっている綿菓子やさんにたどり着く。

可愛いキャラクターがたくさん書いてあった。
カードキャプターさくらやポケモン、夢クレヨン?などトキメキがたくさんあった。

私はぽんぽんな綿菓子をド派手ばあちゃんに買ってもらうことにした。

1つ1000円もするのだからチョー高級である。

ピンクの袋に入ったキティーちゃんにした。
なぜなら1番パンパンに詰まっているように見えたからだ。

私は大切に抱っこしながら持ち帰った。

家に着いたら少ししぼんだように見えた気もしたが気のせいかと思い、じっくり見つめていた。


横浜ばーちゃんが「食べたらいいじゃない?」と言ったが私はみんなに自慢したかったので夜に食べるね!と言ってじっくり見つめた。

夜になり
家族全員揃ったので見せびらかした。

ばーちゃんに買ってもらったんよ!とニコニコと説明した。

中を開けてみるとまっしろなふわふわな綿菓子があった。

指でつまもうとしたらすべてつきてきそうだったのでかぷりとくわえた。

あま~!!!!!
極上の甘さである。

美味しいなぁ~と、幸せやなぁと感じながら袋に戻した。

食べないの?と言われたけど、明日以降も ちみちみ食べて長い間楽しみたいのでと伝えた。

私は大事に 出窓においた。

その日夢を見た。
大きな入道雲が綿菓子でどれだけ食べても消えない綿菓子をお腹いっぱい食べる夢を。極上の夢だった。


そして、朝目覚めると 悲劇が起きた。

 キティーちゃんがしなしなになって居た。

ぺちゃんこである。

パンパンに吐息と一緒に膨らましていたのに
ぺちゃんこ。

急いで割り箸をもっと しなりとした。

中を開けてみると


フカフカにあったはずの綿菓子が ちんまり割り箸にへばりついている何かになっていた。

私は姉に食べられた!と思い、姉を叩き起しに行った。

案の定 「食べるわけないやん!」と言われボッコボコにされた。

まさに一蹴り。いやそれ以上。

たしかに昨日の夜自慢した時に姉は綿菓子なんて砂糖やんっていっていた。
魅力を唯一感じない人間だった。

では、なぜか…
……ヨージ?(父)なのか?


いやいや。ヨージは食べん。
自慢した時に 砂糖やんって言っていた。

どいつもこいつも綿菓子を砂糖という。

犯人は…見当たらない。

私はメソメソしながら横浜のばあちゃんに割り箸を見せた。

ビヨ 「朝起きなら無くなってた。」

ばあちゃん 「あらま!アハッハハ!溶けちゃったんだね!残念!」

そう言って笑った。溶けるの…綿菓子って。知らなかった。

ばあちゃん「でも約束だからもう買わないよ。」

私はとても虚しくて 唯一残った割り箸を午前中いっぱいはしゃぶりながら過ごした。



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