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「ひとり散歩」のススメ(前半)ー決めることに、疲れたら

その日、ぼくは、かなりの疲れを感じていました。

1月ほど前から、仕事でも、家庭でも、大きな変化が続いていて。決めなきゃいけないこと、選ばなきゃいけないことが次々とやってきて、その対応に疲れていたのでした。
それに加えて、新型コロナ。買い物ひとつ、食事ひとつにも気を使う事が多くなり、日々、刻々と変わる情報に応じて、自分がどうすべきかがなかなか定まらなくて。

そんな中、ふとした拍子に「ひとり散歩」をしてみたことで、気づいたことがありました。

***

その日、ぼくは歯医者を予約していたので、仕事を早退して歯医者にいきました。
治療を終え、歯医者のドアから外に出ると、西の空には、どんよりと暗い雲が垂れ込めていましたが、隙間から、赤い夕空が見えました。

もう帰宅してもいい時間でした。でも、帰宅して、家族の一員として振る舞うことも負担に感じ、「もうすこし、一人でいたい。」と思いました。

雨が少し降っていましたが、傘をさすほどではなく、お腹もそれほど減っていません。

そこで、ぼくは決めました。

「散歩をしよう」と。

家族に電話して今から散歩をすることを伝え、近くの広い駐車場に車を停め、西の空に向かって、田んぼの中の道を歩きました。

暗くなってはいたけれど、畦には春の草花が咲いているのが見えました。田んぼには、真っ直ぐな水たまりが並んでいて、そこに、赤い空が映っています。

あぁ、もう畦の草も咲いてるな、もう田んぼの荒起こしも終わったんだと、季節の移り変わりを実感しました。

そして一歩一歩、歩いているあいだに、冷えていた身体も徐々に温まってきました。足取りも軽くなり、気持ちも、少しずつほぐれてきました。

T字路につきあたりました。右に行けば、いつも通っている大きな道路。左に行けば、まだ歩いたことのない道。

ぼくは、進路を左に決めました。

しばらくすると、また分かれ道がありました。まっすぐ行けば、集落の中。左に行けば広々とした田んぼみち。こんども僕は、左に進路をとりました。

そしてまた先には、交差点。こんどはどっちに進路をとろうかと考えている時に、ふと、気づきました。

「あ、今、ぼくは、選ぶことを楽しんでいる。」と。

さっきまでは、あんなに、選ぶことも、決めることも、しんどかったのに、と。

(つづく)

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