肥後琵琶語り「イジラとクルカ」

さてお鑑ます物語は今井雅子作「イジラとクルカ」。
どんな話になりますやらお時間まで!
さてもあじな年号はじまった
ナマズ元年どんこ月
さてもわたのはらをみながせば
東は春の海イルカのなかに
みなより大きなイルカがござそうろう。

「汝は身の丈の大きいこと
 イルカにあらず、クジラであろう」
「なんぞ我はクジラにあらず」
「さりとてもその大きさはイルカではあるまいて」

みなより大きなイルカは
イジラと名づけられ、イジラは、
ひとりぼっちになりにける。
みなより大きなからだを
もうしわけなさそにすくめては小さくなろとしていたが
それでも、身体はちいさくならぬ。

さても話はかわり
西は秋の海クジラのなかに
みなより小さなクジラがござそうろう。

「汝は身の丈の小さきこと
 クジラにあらず、イルカであろう」
「なんぞ我はイルカにあらず」
「さりとてもその小ささはクジラではあるまいて」

みなより小さなクジラは
クルカと名づけられ、クルカは、
ひとりぼっちになりにける。
みなより小さなからだを
いっしょうけんめいのばしては大きくなろとしていたが
それでも、身体はおおきくならぬ

のけものにされしか イジラ。
のけものにされしか クルカ。
群れのみなからはじかれて、群れのみなからはなれては。
海のまんなかで、たったひとりぼっちとなりにける。

と思えしが、ふと目をこらせば
だれかある。

イジラはクルカを見つけたり。
クルカはイジラを見つけたり。

「汝は、イルカでそうろうか?」
とイジラはクルカにたずぬれば。 

「自らは、クジラであると思いしが、
 みなからはクルカとよばれたる」
とクルカが申せば

「汝は、クジラでそうろうか?」
とクルカはイジラにたずぬれば。

「自らは、イルカであると思いしが、
 みなからはイジラとよばれたる」
とイジラは言う。

「イルカでもクジラでもないイジラ殿よろしく」
「クジラでもイルカでもないクルカ殿よろしく」と

イジラとクルカは
はなのさきをチョンとあわせて、あいさつをすれば。

「我ら、おなじような大きさであろう。」
とイジラが言えば
「我ら、おなじような小ささであろう」
とクルカが言う。

「我ら、同じように大きくて、
 同じように小さい」と
イジラとクルカは共にうなずき、

「ならば、われらはイルカでクジラだ」
とイジラが言う。
「ならば、われらはクジラでイルカだ」
とクルカが言う。

「どちらかではなく、どちらもだ」
イジラとクルカはわらいあい。
きゅうくつだった海の中、きゅうに広くあざやかに。

「イルカでクジラ イジラクルカ」
「クジラでイルカ クルカイジラ」
「イルカでクジラ イジラクルカ」
「クジラでイルカ クルカイジラ」

イジラとクルカはうたいながら
広くなったわたのはら どこどこまでもおよぎいく。
どこどこまでもおよぎいく。

今井雅子作 わたのはら冒険物語「イジラとクルカ」
これからの二匹の快刀乱麻愉快な物語はこれからなれど
長い話は座の障りここらあたりで一区切り。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?