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「今年のベスト10に絶対入る作品!」松崎健夫さん(映画評論家)×山本英監督 トーク・ティーチイン🎤【イベントレポート】『熱のあとに』

2/15の夜、渋谷シネクイントにて『熱のあとに』公開記念トーク&ティーチインが行われ、映画評論家の松崎健夫さんと山本英監督が登壇。
最初に、作品を見た感想を問われた松崎は「冒頭の橋本愛さんのカットを見た時に『これはすごい映画かもしれない』と思ったんです。そのあと自分の想像を最後までことごとく裏切ってくる展開と演出の数々に痺れました」という絶賛の言葉からトークイベントが始まった。
 
冒頭、血まみれの橋本愛さん演じる沙苗が階段を下っていくファーストショットが素晴らしいと語る松崎は「倒れている隼人の前に沙苗が立って煙草をふかすシーンで初めることもできたのに、階段を下るショットから始めることによって、彼女が今後転落していくということを映像で宣言しているように感じてぞわっとしました」と分析しながら話す。それに対して山本は「そういった意味付けももちろんありました。加えてこの映画では“現在から見る過去”というテーマを描いていきたいなと思っていました。彼女が過去と繋がる場所、装置となりうる場所を作りたかったんですよね。事件から6年後、出所した後の沙苗が過去を思い出す場所として階段がその機能を果たすのではないかと思いファーストカットは階段にしました」と冒頭シーンに込められた思いを語ると、松崎が「後半、沙苗と新人ホスト・詩音が再会する重要なシーンでも階段が示唆的に使われていますよね」とモチーフの反復にも触れる。

「倒れている隼人を見下ろしながら沙苗が煙草を吸いはじめるシーンでは、煙草の煙に反応してスプリンクラーが作動します。その水を浴びている沙苗が涙を流しているように見える。なのに彼女が不敵に笑いだすという一連のカットで、彼女がこれまでどのような人生を歩んできたのかを我々観客に想像させる力があると思いました。しかしこのシーンは数分で終わります。尺をとらず簡潔に描こうと思った理由はありますか?」と松崎が質問すると、「結果的には2カットしか使っていないのですが現場では様々な場所から5~6カット撮影しました。編集の大川さんと作業していく中で、こんなにじっくり見せるべきなのか?と話し合い、“現在から見る過去”を描くのであれば過去は印象的なカットだけ繋げて現在に飛んでしまった方が良いのではというアドバイスを頂き、思い切って短くしています」と山本は編集の際の裏話を語った。
 
山本監督と松崎さん、そして編集の大川景子さん(担当作:『夜明けのすべて』『ケイコ 目を澄ませて』など)は全員東京藝術大学で映画を学んだという共通点があり、松崎さんと大川さんはなんと同級生。本作の脚本:イ・ナウォンさん、録音:織笠想真さんも藝大出身だ。
同じ学び舎で学んだ仲間と作品作りをすることの良さを松崎が監督に問うと、「自分のダメなところを分かっていて、それをちゃんと僕に伝えてくれるところが一番大きいです。ナウォンさんも織笠くんも『山本さん、ここがダメだと思います』としっかり伝えてくれるのがとても支えになったので、そういった意味で学生時代から一緒にやってきた皆さんは必要不可欠です」と、長年の付き合いだからこその風通しの良い関係性を振り返った。

メインキャスト3名のキャスティングについて松崎が質問すると、山本は「橋本さんはSNSや雑誌で自分自身の言葉で発信しているところに沙苗との繋がりを感じ、彼女なら沙苗を安心して任せられる、守ってくれると思いお願いしました。健太は自分の弱さがどんどん露呈していく人物ですが、仲野さんは自分の中にある弱さに向き合っている方だなと、芝居を見て思っていたので、ぜひ健太を演じて頂きたいと思いました」と説明。
「木竜さんは沢山の作品に出演されていて、演技への向き合い方が誠実な方だとずっと思っていたので、足立という掴みどころのない人物にも誠実に向き合ってくださると思いお願いしました」と山本が語ると、「今回の木竜さんの演技は感情を表情に出さないので、台詞と全く違うことを心の中では思っていたということが後から分かり、その落差にびっくりするんですよね」と分析。
 
沙苗と足立が告解室で対立するシーンが本作の白眉だと語る松崎は「格子越しに話している2人のことをカメラはそれぞれ正面からとらえるのですが、足立のショットのときだけ格子越しだと気づいた時にすごい!と思ったんです。というのもあのシーンは沙苗の方が足立に責められている構図なのに、格子の奥に足立がいることで何かに囚われているように僕には見えましたのですが、これは意図したものだったのでしょうか?」と問いかけると、山本は「的確に的を突かれました」と笑う。「もう1つ自分の中では、『熱のあとに』は沙苗側に立って撮ろうと決めていた作品なので、そういった自分の意志が沙苗の視点として表現されています」と思いを明かした。

同じモチーフを踏襲することで別の意味が導かれていく構造が全編に散りばめられていると語る松崎は、1つの例として森の中で健太と足立が初めて出会うシーンをあげる。「足立が罠にかかり動けなくなっているところで健太がまた別の罠にかかる場面。試写ではどっと笑いが起きていたのですが、その後の沙苗と足立の展開を見ていると、僕らも罠にかかってたんだなと後から気づくんですね」と振り返る。また、本作には“たぬき寝入り”のシーンもいくつか点在しており、最初はただの現象だったものに、徐々に意味が内包されていく脚本が素晴らしいと称賛した。
 
イベント終盤では客席からの質問を募り、2回、3回と映画を鑑賞しているリピーターの方からの濃厚な質問が相次いだ。閉めの挨拶で松崎は「今年のベスト10に絶対入る作品!」と力強く宣言。「本作を見て言語化し辛いという方もいらっしゃると思いますが、言語し辛いものを見て考えることの面白さをぜひ広めて頂きたい」と客席に投げかけた。山本は「分かり合えないことを誰かと分かりあいたいという思いで撮った作品です。今日ご覧の皆様に『熱のあとに』が届いていたらすごく嬉しいです」と話し、和やかな雰囲気の中トークイベントは終了。遅い時間にも関わらず、イベント終了後にも監督の元に質問をしにくる方が相次いだ。「分かり合えない」ことを誰かと語りたくなる映画『熱のあとに』の魅力をたっぷり掘り下げて頂いたイベントとなった。

『熱のあとに』
新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかにて大ヒット公開中🔥

出演: 橋本 愛 仲野太賀 木竜麻生 坂井真紀 木野 花 鳴海 唯/水上恒司
監督: 山本 英
脚本: イ・ナウォン 
プロデューサー: 山本晃久
製作: ねこじゃらし、ビターズ・エンド、日月舎 
制作プロダクション: 日月舎
英題: After the Fever
配給: ビターズ・エンド
2024/日本/カラー/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/DCP/127分【PG12】

公式サイト: https://after-the-fever.com/
公式X: https://twitter.com/After_the_Fever
公式Facebook: https://www.facebook.com/profile.php?id=61553796901100

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