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みじかいお話

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5000文字以下の短い小説たちです。 診断メーカーのお題などで書いています。
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記事一覧

【掌編】祝福の光としなびたはんぺん

 黄昏時、恋に落ちた。  薄く暮れた空、コンビニを出てアパートまでの道を歩く。  今年初めてのおでんがレジ横に並んでいて、思わず購入した。  ちくわ、こんにゃく、玉子、はんぺん、大根。定番のものばかり選んだそれを、大事に抱えて店を出た。  実を言うと、はんぺんは煮込まれていない方が好きだ。長時間ぷかぷかとだしの上に浮いていたような、茶色く染まったものは論外。  熱が通り、ほのかにふわっと膨らむ程度に軽く煮ただけの真っ白いはんぺんが好きだ。  かじるとしゅわっと音がして、舌の上

【掌編】雨の匂い

 雨が嫌い。  くせっ毛はどんなに必死でブローしても、1時間もすれば湿気で広がり、うねる。  傘をさして歩くのが苦手で、いつも靴を汚してしまう。落ちる雨粒と、歩くたび水たまりを跳ね上げて、靴下までじわりと染みる。  混雑した電車の中は蒸れた匂いでいっぱいになり、濡れた傘が足元に貼りつき不快になる。  雨には昔からいい思い出がないから、気分も上がらない。  下校中、突然降り出した雨に、隣で、彼が覗き込むように空を見ていた。 「止みそうにない」  土砂降りに変わった雨が、周りの

【掌編】飛行機が怖いんだ

 窓の外、飛行機の翼の上にグレムリンが立っている。  ああ、これ、何の映画だったっけ?  キーキー鳴きながら楽しそうにジャンプするそいつと、窓越しに目が合った。  グレムリンは俺に向かって何か訴えるように鳴き続け、さらにばたばたと暴れるように飛び跳ねたりくるくると回る。  飛行機は苦手だ。  何でこんなでかい鉄の塊が空を飛ぶのだろう。  だから、乗り込んだらなるべく早く眠ってしまうことにしている。  目が覚める頃には目的地で、その間は恐怖を感じなくて済む。  そう、俺は飛行機