過去作②

「レジお願いしまーす!」

さっきからカウンターに向かって怒鳴っているのに。
自分の他に客一人いない深夜のコンビニ。それどころか店員の姿さえなく、有線だけが虚しく響き渡っていた。

「あのー!すみませーん!」

これも何度目だろうか。思わず溜息をついて、一度はカゴに入れたアイスを掴んで冷凍棚に戻す。防犯カメラだってあるのだし、このまま商品を盗んで行くわけにはいかない。だが、それにしたってあんまりだと思う。お金はあるのに煙草だって買えやしないのだ。
帰ったら絶対にクレームを出してやろうと決意すると、最後にもう一度だけ、ありったけの声で店の奥に呼び掛ける。

「レジ!お願いしまーす!!」
「お待たせしました」

突然の背後からの声にギョッとして振り向く。そうしてもう一度ギョッとした。
人じゃない。服装こそ、「宇治橋」と名札の付いたコンビニ制服を着ているが、首から上が人ではない。

「牛…」
「商品をお預かりします」

牛頭の店員がカゴを受け取ってカウンターに回り込んだところで、棚に戻したアイスを思い出した。急いでアイスのコーナーからソーダアイスを掴んでレジに戻る。

「すみませんこれも追加で…あれ?」

アイスをカゴに入れて顔を上げると、目の前にいたのはただの人間で。怪訝な顔をする私を、負けじと同じ顔で見つめ返している。
そうして買い物を終わらせて外に出たところで、煙草を買い忘れていたことを思い出したのだが、もう一度あの店に戻る気にはなれなかった。

後日、クレームは出さずに「宇治橋」という店員はいるかと聞いてみたのだが、どうやらそんな従業員はいないのだそうだ。