ランダム辞書SS④

「プラモデルの塗装なんて何が楽しいのかしら」

そう言って、形のいい爪にふぅと息を吹きかけながら彼女はテレビを一瞥。けれど僕の視線の先にある彼女の爪は、綺麗なピンク色に彩られていて。これから更に上塗りするらしい。

「君のそれもあまり変わらないと思うけれど」
「んま、失礼ね。そう言うなら貴方のそれもおんなじ」

君こそなんて失礼な。
「絶対あげないから」とそっぽ向くと、僕はチョコレートたっぷりのザッハトルテを頬張った。

『コーティング』

———

近頃寝た気がしないのです。
何故って、夜中に何度も起きてしまうのが、いいえ、起こされてしまうのが原因でして。
ただでさえ眠りの浅い私がこんな仕打ち受けていいはずがないのだけれど、一つおかしなことがあるのです。
私は一人暮らしで近隣に人は住んでおらず、私を起こす人なんて誰も居やしないということ。それなのに、目を開けてしまうほどに視線を感じるのです。どうせ起こすのなら朝にしてくれればいいのに。ああ、ほら。また見てる。

『熟眠障害』

———

ぶつかって、はじけて
ころんで、けずれて
とけて、ながれて
われて、さいて

こんにちは

『頭』

———

雨上がりの朝は無性に散歩がしたくなる。濡れた土の匂いと湿った空気の中を、敢えてお気に入りの靴で歩くのだ。大切なそれを汚すかもしれないスリルは、寝起きの頭にはなかなかのスパイス。大きな水溜りをジャンプして飛び越える瞬間は、小学生の時を彷彿とさせる。あらよっと——

「あ」

靴の裏から響く、ゴリ、と嫌な音。
足元に気を取られて、着地した先に大きな石があったことに気付かず。僕の身体はぐらりとつんのめり、眼前に迫った水溜りには、なんとも間抜けな顔が映り込んでいたのだった。

『のめる』

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「こうするとね、ほたるいかみたいでしょ」

電気を消したお風呂場で、湯船の中、カチ、カチ、とカラフルなライトを点滅させる可愛いあなた。
綺麗だね、と私は笑いました。そうすれば、あなたもつられてあかいほっぺで笑いました。

こうして海を見下ろすたび、あのほたるが私の網膜に飛び込んでくるのです。暗い暗い海の底から、カチ、カチ、と。まるで私を呼ぶように。

「綺麗だね」と微笑んで、私は一歩踏み出しました。

『ほたるいか』