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仮面の恋③

※①②はこちらです。

ぐにゃぐにゃと石畳が僕を飲み込んでいく。
どっちが空で、地面だかわからない。
このままじゃあの黒い馬車に轢かれて、バラバラになってしまう。
でも馬車は半分沈んだ僕の前で止まって、中からまた小さな馬車が降りてきた。
よく見ると馬車じゃなくて、あの子のバルーンスカートだった。
僕は必死で這いあがって、そのスカートの中に頭をスッポリ突っ込んだ…

━━━

酷い二日酔いだ。
起きたら昼過ぎだった。
携帯に😈からメッセージが来てたが読む気になれない。
中指で器用にに吐き出して楽になり、空腹にコーヒーとチョコレートバー、あとりんごを詰め込む。

⚗️「夢にまで出てきたらもう手遅れだな。」
恋という、厄介な生理現象と向き合わねばならない。無駄にパワーが漲って、なんでも出来る気分になるから、非常に危ない。
下手すると、恋こそが最強の魔法なんじゃないかとすら、たまに思う。

休日なのに大学へ行き、図書館で👗の住む公爵邸の図面を入手する。
著名な建築家が設計しているので細部まで編纂されていたのはラッキーだった。
仕立て屋で待ち伏せて、偶然を装う事も考えたが、外出時はあの女騎士が居るだろうからやめておいた方がいい。
伝書鴉か蝙蝠でラブレターも考えたが、来るかわからない返事を待つのは性に合わない。
兎に角、できるだけ今、触れたいのだ。

彼女が住む公爵邸の庭園は、土曜日だけ一般開放されている。
つまり今日だ。
時間がないので、図面を頭に叩き込み、彼女の寝室候補を暗記した。
薬学室で6時間分の変身薬を即席で調合し、ポケットに詰めこむ。

すっかり頭が湧いた俺は俺を止められない。
北へバスを走らせ、植物なぞロクに見ずに庭園の奥へ突き進み、邸宅に最も近い場所の木陰に立つ。
変身薬を一気にいく。
熱くなり身体が溶けて、服がバサバサと地面に落ちる。誰にも盗まれない事を祈るが、それは大した問題じゃない。

問題はもっと深い所にある。薬が切れたら、スッポンポンだ。
昨晩どんなに着飾っていても、いきなり全裸じゃ100年の恋も醒める。
100パーセント、醒める。
しかし、ワンチャンいけるんじゃないか?とも思う。この過信が恋の恐ろしさだ。
ま、あれだ、コマを進めていくうちにフッと回答が出てくる事もある。
計算づくめでいっても不都合は出るものだ。
ネジは多少緩い方が最終的に調整が効く、そんなもんだろ?
だから俺はスッポンポン問題について考えるのはやめた。

蜘蛛を選んだ理由は、電場に糸を引っ掛けて空高く飛べて且つ、窓の隙間から侵入できるからだ。
小さいから致死率も高いが、前に進むには必ずリスクが伴うものなので仕方がない。

さて、一つ目の候補の部屋を覗く。
いたって普通…という事はハズレだ。
部屋は人の内面を反映するから、彼女の部屋は昨晩感じたような、何か引っかかる特徴があるはずだ。

二部屋目、三部屋目と覗いていくが、なかなかそれらしき部屋にヒットしない。
移動速度が人間の八倍くらいノロいから酷く疲れる。薬の効果を長めにとっておいて良かった。

十三部屋目でヒットした。
古今東西のアンティーク家具がおり混ざった部屋。小さな犬、いや、小熊(?)の剥製。バカでかいクローゼット、レトロポップな照明、美術品でも飾るかのように並べられた帽子と靴。そして強化アクリル素材に見事な彫刻がされたモダンアートなテーブル(俺はこの作家のイスを買おうとした事がある。)…の上に、アゲハ蝶の仮面が置かれていた。

ビンゴだ。

━━━

👗は昨晩からうわのそら。
夕飯を食べているような、いないような。
父親は会食らしく、不在。
母親に何を聞かれても生返事だが、彼女にはよくある事で、家族は特に気にせず会話を続ける。

👩「昨晩、遅かったらしいわね、どこに行ってたの?」
👗「友達のパーティーよ。ナイジェルも一緒だったわ。」
👩「そう…なら、出かける前に言って頂戴よ。心配するじゃない。」
👗「イエス、ママー。気をつけるわぁ。」

あたしはママが好き。
パパはちょっと怖い。
ナイジェルは、あたしの幼馴染で婚約者。似たような家柄の育ちで、親同士も気が合うの。あたしと似てて、家族想いの遊び人だから、たまに二人で口裏を合わせて、一緒にいる事にして、お互い全然違うトコで遊んでる。私達はいいパートナーだけど、恋はしてない、そりゃそうよ。小さい頃からパンツ見せあって、ゲラゲラ笑ってたんだもん。

あたしは毎日が楽しいんだけど、何か欠けていてそれを埋めるために冒険に出たくなるの。
昨晩に大事な宝物を見つけた気がして、完全に心を置いてきてしまったから、食後に大好きなトライフルが出てきたんだけど、あんまり味がしなかった。

あたしは部屋に戻って、寝支度に入る。
ベッドに寝転びながら、親友に仮面舞踏会のエキサイティングな体験を電話する。
👗「あんなに綺麗な人、見た事がなかったわ!」
👗「ヴィランだからなんだって言うの?古臭い考えよ!」
👗「どうしたらもう一度会えるかしら?」
👗「夜な夜な踊ってればいつか会えるって?」
👗「気が遠くなる確率ね。」
👗「あー、連絡先!キスより先に連絡先を交換すべきだった!ほんとに勿体ない、バカな私!」

一通り喋り倒して、親友の恋愛相談も聴いて、来週行くギグの約束をして、ストレス発散したら、もうミッドナイト。
眠くないけど電気を消す。

逢いたい、逢いたい、魔法使いだったら、おまじないかけられるのに。
魔女だったら良かったのに。

見上げると、今日は綺麗な月明かりが入って来るから、月の女神様にお祈りしたくて、カーテンを開けることにした。
ベッドに戻ろうと見ると、不自然な膨らみがあって、なんだろうとめくったら…

彼が居た。
全裸だった。

━━━

叫ばれるかどうかは、賭けだ。
電話の内容からして、勝ちは確信できたが、それ以前に、流石にビビるだろ?
俺だって、叫びたい。

👗は、意外にも一声も漏らさず、暫く硬直した後、何故か平謝りしてきた。東洋で手に入れた狸の剥製が力を授けたとか、おまじないが月に届いて導びかれたとか、意味不明な事を口走りながら、ブロンドの髪をグシャグシャと掻き乱していた。

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やめてほしいから、俺は彼女の両手首をそっと握って、動きを止めた。

⚗️「こんばんわ、ミス・シャロン。俺はデイヴィス・クルーウェル。あなたを奪いに来た。」

そのまま躊躇なく、昨晩の続きを促す。

ほら見ろ、全てうまくいくものだ。
ヴィランは紳士的なアプローチより、侵略や強奪の方が向いているんだ。

続く

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