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仮面の恋①

※文才ゼロなので棒書きです。
※悪ーウェルになる前を想定した、大学生時代のピュアウェルです。
※柄にもなく、ロマンチックが止まりません。
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プリンス・オブ・ウェールズ柄の生地を抱えて、特権階級であるヒーロー様方の居住区域にある、老舗の仕立て屋へ来ている。

今秋にNRCを卒業して、偏差値トップの大学に入った。
世界各国の天才が集まる場所だから、かつての小山の大将も、ここでは平均的な学生に過ぎない。
ヴィランもヒーローもごった返していたが、それでもやはり、ヒーローはヒーロー、ヴィランはヴィランで固まりがちで、小競り合いも日常茶飯事だ。そして勝つのはいつも、ヒーローと決まっている。

俺は、この世で最も美しいと称賛される黒髪にグレーの瞳で、加えて端正な顔立ちだから、ヒーロー側の人間だと勘違いされており、実際そのような振る舞いで過ごしていた。
倫理的な課題で高得点をとりやすいし、人脈で有利だし、何かと優遇されるので便利だ。
更になりきるには、牙を消す必要があるので、歯科医に相談した事もある。しかし、バカ高い費用がかかるのと、生まれ持った自分の造形を変える事に抵抗を感じ、やめた。
なに、高笑いをしなければバレない問題だ。

そんな背景もあり、しがない学生の俺様は、わざわざ布の原産地まで箒を飛ばし、格調高い生地を安価でこさえて、この皇室御用達の最高級店にジャケットを仕立てに来ているのだ。
服というのは仕立てに金を注ぎ込むべきだから。

ふと目をやると、トルソーにこの地区には不釣り合いな、黒を基調とした奇妙なドレスを見つけた。

⚗️「これは?」
🪡「面白いだろ?すぐ北に美しい庭園があるの知ってるか?そこの公爵邸の令嬢のオーダーだ。再現するのに骨が折れたよ。」
⚗️「へぇ。お嬢様にしては変わったセンスだな。素材は冬物だが…全体的に軽く見える。東洋の黒アゲハみたいだ。」
思わず食い入るように見つめていた。

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そのうちに🪡の採寸とデザインスケッチが終わった。
持ち込んだ生地に無地の黒を合わせてギャバジンパネルにし、控えめなピークトラペルをアクセントにしている。
さすがの腕前だ。
⚗️「好きだな。フロントカットの裾だけ二重にすると高くつくか?ここにもチェックを入れたい、普段から着まわしたいんだ。」
🪡「ふむ…着まわす想定ならいいアイディアだ。よし、勤勉な学生さんは出世払いでいいさ!そのドレスの10分の1で構わないよ!」
⚗️「恩に着る。」
…とはいえ、それなりの額にはなる。

家庭教師のバイトをしていて、評判が良いので時給がどんどん上がっていった。が、所詮バイトだ。奨学金を取ったとはいえ、学費も教材もバカにならない。学歴と世帯収入は比例するから、学園生活の全てが富裕層価格だ。
誰にも絶対に言えないが、俺はストリートチルドレン上がりだ。NRCの黒い馬車が来た時は、このビッグチャンスを逃がすものかと縋った…。

大学を卒業したらNRCの教師になるつもりだ。高成績を取る必要があるから、遊び散らかしている周囲とは適度な距離をおき、真面目にやっている。NRC時代に悪友と通った歓楽街で女のイロハは覚えたし、結婚は30過ぎてからでいいし、今の俺に恋人は必要がない。
デートする金があるならコートを新調したい。

さておき、そう、学生寮も高いので、幼少時代のツテで、倒産したデパートのワンフロアを安価に借りている。エアコンがない、コンクリート打ちっぱなしの、撮影スタジオのような部屋に住んでいる。深夜でもネオンが煌々と入るが、まぁ悪くはない。

⚗️「仮面舞踏会?サバトの一種か?」
俺と同じくヒーローになりすましている同級生がチケットを差し出す。
😈「いや、違う。やんごとなきヒーロー様が主催の乱交パーティーだ。身分制限一切ナシ。逆玉の大チャンスだぞ!」
⚗️「…くだらん。一夜限りだろ?相手の正体がわからないんじゃぁ、なんの意味もない。」
😈「でもお前、ファッション好きじゃないか?いろんなヤツが自分を偽って、着飾ってくるんだぜ?ひやかすだけでも面白いと思うけどな。」
⚗️「自分を偽って…?バレないように…か。」
先日の公爵家のドレスがよぎったので、俺は珍しくドンチャン騒ぎに付き合う事にした。

パーティー当日。
😈とその友人らは、悪魔的な衣装に身を包んでいる。
俺の方はクローゼットに眠らせていた真っ赤なスーツに黒い毛皮のストールでキメた。ヴィランがヴィランの仮装をしてるのだから、凄みが出ないわけがない。やり過ぎないように仮面のデザインを幼稚に見えるようにし、ネクタイピンを犬にしておいた。

😈「ヒュー♪こりゃ女ホイホイだ、ついてくぜ魔王殿!」
⚗️「勝手にしろ。ルールはあるのか?」
😈「扇子の動きを見ろ。目が合った後、扇子を閉じて口元にあてたら、GOだ。必ず行け。」
⚗️「…ということは、誰とも目を合わさなければ面倒にはならないんだな?」
😈「釣れないなぁー、楽しめよ。…お、来た。お前が居ると女と目が合いやすいな、ありがとさん!…ちょいと外すぜ。」

確かに多種多様な、フェティッシュなファッションセンスが渦巻いて、見ていて面白い。折れそうなほどコルセットで絞ったウエストや、全身ラバースーツのメイド、つま先から腰まで編み上げのブーツ、赤ん坊の格好をした大男や、鳥の巣を被った貴婦人…。
そして一際目をひいたのは、見覚えのある奇妙な黒いドレス。

⚗️「…やはり今晩のためだったか!」
俺は凝視した。
なるほど、布が身体より遅れて動くデザインだから、浮遊感が出るんだな。
ご令嬢(👗)は誰かと歓談をしていたが、やがてこちらの視線に気づく。
目を合わせないことは無理だった。
距離を空けて、お互い見つめ合う。
👗の扇子が閉ざされ、口元に運ばれた。

急いで人混みをかき分け、彼女の元へ向かうが、途中、婦人がワインをひっかけてきた。おかまいなく…と言っても逃げられない、狙って誘っているのだから。
そうこうしてるうちに👗も、自分に送られたサインだと勘違いした男に、ダンスを申し込まれて、断れないようだ。

オーケストラが今宵一番の渾身の楽曲をはじめた。
俺達はお互い、違う相手と踊る羽目になり、途中何回か、存在を確認するように、視線を追いかけ合っていた。

つづく。
※次の絵が描けたら更新します。

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