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千秋楽

目には目を 夢には夢を 悪夢には悪夢を 明ける夜ばかりでも

夢でよく渡る欄干のない橋がほんとうは高知にあるという

たましいの言いかけの町・多摩市にはたましいの代わりの川・多摩川

コップからコップへと移されながらすこしずつ減っていくポンジュース

生きて死ぬ? 生きないで死なないことを選んで会社員になったの?

まぬかれているっておもう キム・ジヨン読み終えてちょうど乗換駅だ

もういいかみたいな気持ちで告げるときのだんだん震えなくなるこころ

サメがいっぱい泳ぐ靴下のおかげでなんとか通勤を乗り越えて

週末は劇場に行く ストリップってずっと昼からやっているんよ

メドゥーサの集会に来てお互いのへびを撫で合うようなひととき

あたしが見てもあなたは石にならんかったミラーボールもよく回ってて

脱出に継ぐ脱出の100年に何度も車窓に見る知らん川

妻子ある男もおそれるのだろうかステロタイプを背負う痛みを

何を待っているのときけばオフィーリアときみは川上を指し示す

海が見たい国を滅ぼしたい口ではとても言えないことをおねがい

人間という語はレズビアンを指しそのほかみんな宇宙人だわ

植物に進化することで絶滅をのがれた恐竜の子孫、ゴーヤは

あっ家族団らんってもうないんだとか いいよ おともだちと混ぜる鍋

ことばにする、という衝動 ストリップショーのその記録されん光を

肌をさらしながらあなたはすごく無敵 てかあたしたちが無敵なんだね

でも性も美も芸術もあたしたちの語彙ではなくて ほろぼしたいな

火と火、鳥 愛さ髄kill でたらめな変換くらい楽しく自由に

よけいな花が勝手に咲いては散っていくからだをすこし許す すこしね

明けない夜 あどけない夢 秋茜 トンボにうまれるなら何がいい

ねえいつからこの世はスノードームなの降る銀紙に右手をのばす

大丈夫まだみなごろしの心もて震える足で立ってられるわ

タクシーが捕まらなくて悪夢みたいな無人の大通りを北に行く

踊ってもいいんかなこの踊らんで生きられる重い水のからだで

落下する前に映画が終わるから「それきり」なんよ 死なないんだよ

魔女のかけた呪いではなく だけど魔女は呪いを解いてくれたのだった

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2022.1.31
(短歌研究新人賞応募作)