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日記(渋谷道劇9中)

 2021年6月11日、ツイッターを見てて「えっ」てなる。えっ何? マジ? マジなの? それは好きな踊り子さんのツイート、画像だけのツイートで、画像のなかには白い便箋があり、踊り子さんの手による文字が並べられている。目に飛び込んでくる「引退」の文字。マジなの……?
 これは好きな踊り子さん、美月春さんの引退週に、1年ぶりにストリップ劇場に行った日の日記です。でもその1日だけではその1日を書き残せない、だからこうやって振り返っている。でも2021年の6月に返っただけでは足りないわね。
 もっと振り出しに戻って、2016年6月4日、夜。新宿歌舞伎町。今はなき新宿TSミュージックが、私の初めて行ったストリップ劇場だった。私の好きなアニメのスピンオフのアニメのパロディ演目がなされているらしく、それがすごく評判がよくて気になった。ちょうどタイミングよくインターネットの友だちに誘ってもらったのだった。
 その日に得た感動のことは何回も思い出して、ひとに話して、ツイッターにきれぎれに書いて、もう思い出っていうか言葉みたいになってしまった。それはそれで思い出すときにちょうどいいかもだけど、まだまだ不十分な言葉たちでもある。不十分な言葉を重ねるよりか、ここでは省略します。
 とにかく出会った最初のストリップの光のなかに、美月さんもいたのでした。
 そして私のストリップ客ライフが始まります。その週の新宿TSにそのあと2回足を運び、次は池袋ミカド、その次は渋谷道劇……と行ったことのある劇場を増やしていく。劇場に行くたびに好きな踊り子さんが増える。私はひとりのおねえさんを熱烈に好きになってただそのひとを追いかけるみたいなタイプのストリップ客ではなくて、とくに誰が好きとかは決めずに行けるときに行ける劇場に行ってきらめきを摂取するタイプでもなくて、好きなおねえさんがたくさんいて、めっちゃ好きっておもうおねえさんもいくらかいて、このかたの新作が見たいから今日はこの劇場に行こう!とか、このおねえさんとこのおねえさんが一緒に乗るの?じゃあ行かなきゃ!とか、そういう客だ。そうやって行く香盤を決めて、月に1〜3回くらいのペースで3年半いろんな劇場に行った。蕨、上野、道後、まさご、小倉、他にもいろいろ。ストリップ劇場以外のステージや、ストリップ以外のイベントにも。

 さて2019年6月にスト客4年生となり、またいろんなきらめきに出会うぞ〜!て途中に、そう、2020年。新型コロナの流行が始まってしまう。劇場にも当然影響があって、公演が中止になったり、営業時間が短くなったりした。(ちなみにストリップの劇場は性風俗関連特殊営業にあたって、だから自粛せざるを得ない状況・客足が遠ざかってしまう状況にあっても、持続のための給付金を得ることとかはできません。そういう行政のあれこれへの恨みつらみもまた何かの機会に。)自分の仕事にも変化が起きる。担当している案件が感染症流行の影響でいくらか消えて、ちょっと暇になる。時給で働く身なので労働時間が減るとそのまま得られる賃金が減ることになる。
 劇場の営業が縮小し、自分の稼ぎが減って、だから劇場から足が遠のき……というわけでもありませんでした。たぶん私たち(私とその同居人の双子)はかなり早いタイミングで「自粛」を始めて、ずっとそれを続けている人間たちの一部だ。単純に感染が怖かった。自分に症状がなくても気づかんうちに自分が感染させた他人に重い症状が出たら?てつねに怯えていたし、高齢のお客さんの多い劇場はとくに近づきがたかった。もともと、駅のホームとかで他人のうしろに並ぶときとか「じぶんがもしこのひとを押して線路に落としてしまったらどうしよう」ってナーバスになるタイプだからね。飛行機に乗るとき「落ちませんように」ってガチで怖くなるタイプ。ストリップの劇場だけじゃなく、映画館にもめっきり行かなくなった。週2くらいで行っていた松屋と王将にも。ラーメンも行かない。自炊とテイクアウトの日々。職場と家の往復。その道中でときどきケーキ買うのが楽しみ。最寄駅の西友が娯楽。友だちとも滅多に会わない……。
 そうこうしているうちに、感染症の流行について、状況は悪くなったりちょっとよくなったり、またさらに悪くなったりを繰り返しました。「じゃあまだマシなあのとき行っとけばよかったのかな」も繰り返し味わう。仕事の量はほとんど元に戻って、担当する案件も逆に増えます。だけど感染防止策としてちょっと仕事時間が短くなっていて、べつにお賃金は増えない。
 劇場は普段から大声で応援とかしない場所だし、握手の機会は早い時期になくなったようだし、感染源になったという話はきかない。過剰に感染をおそれる気持ちが劇場の経営を危なくしてしまうのではとか、でもだからって今こんな時期にけっこうな数の人間を詰めた電車に乗って通勤してるひとが劇場に行ってそこで感染したりさせたりしてしまったらとか、同じことを何度も何度も考えた。でも劇場に通い続けるひとのことを悪く思う気持ちとかはなく、自分のいないあいだの劇場をよろしくっておもったり、でも楽しそうなレポを読むのがつらくてついミュートしちゃったりとか。「おれだってストリップの1回1回がその一瞬にしかなくて、のがせばもう見られないかもしれない輝きだってわかってないわけじゃないんだよ〜」って毎日じぶんに言い訳してたね。もし劇場に行くとして、回数を絞らざるを得ないとすると、その「選ぶ」ことに耐えられる気がしないよとかもあった。「自粛」を行政が推奨していて、しかも行政は「夜の街」をかなり悪様に扱っており、結果としてはそれに自分が従うかたちになっていることも悔しかった。だって行政がもっとマシだったら、今頃もっとさあ……。
 結局なにが正解なのか、未だにわからんでいます。踊り子さんたちがSNSで「来てくれたらもちろんうれしいけど、来ないひとの気持ちもすごくわかる、また大丈夫になってから遊びにきてね」みたいなメッセージを何度も発してくれていて、それに救われる気持ちになって、でもそんな業務外の客のケアまでさせちまってってかなしくて。とかも。
 そんなかなしい日々のなか久しぶりに劇場に行ったのは2020年9月13日。美月春さんの7周年週でした。美月さんの周年は、ストリップに出会った2016年から毎年楽しみにしてきた。3周年のとき、最初のTSで好きになった美月さんが道頓堀劇場で周年をするって知って、「え〜すっごい気になるけど道頓堀って大阪だよね。突然は行きづらいな〜」ておもった。でも道頓堀劇場は渋谷にある劇場だったのでした。行くわいね。そこで美月さんもだし、この劇場も好きだなあってなる。回転して迫り出す盆、ぎらぎらぴかぴかの照明、スモーク、音響がでけーのもわくわくする。女子トイレもきれいだし。(でも一応じぶんの客としてのホーム劇場ってのがあるなら池袋っておもってるね。現存する劇場のなかでいちばん始めに行った劇場だし、あの小さい体育館みたいな場内や四角の盆、かちかちいう照明が好き。池袋でじぶんの誕生日にいちるさんの周年を見るのも毎年の楽しみだったんだけど、ここ2年できていないこと本当にショックだ……。)
そんなこんなで「自粛」を続けていくなか見た美月さんの7周年作、スモークのなかの強烈なかがやきにはめいっぱい元気をもらった。eyeさんのずっと見たかった演目を見れて胸がいっぱいになったし、黒井ひとみさんの演目のストーリーの幸せは続くんだよ!てかんじに勇気づけられたりもした。
 そして帰宅して「またこれからもこの思い出を胸にがんばるぞ」ておもったり、返ってまた劇場に行きたい気持ちが増してうめいたり。また同じ考えをぐるぐる考え続ける日々に戻ります。2021年が来てもそう。帰省もずっとしていない。帰省のついでに広島にまた行っておくの、したかったな。行きたくてとうとう行けなかった劇場、香盤がいっぱいある。香盤をチェックするのもやめてしまった。
 6月。
 美月さんがあと3ヶ月で引退されるって知って、感情の波は激しさを増します。ここから全部見たいけどそうも行くまい、けどラスト引退週だけは通うぞ!て決心する。ツイッターで動揺をさらしていたら友だちから久しぶりの連絡が来て「ご一緒したい」て言ってもらったり、同じおねえさんを好きだろうなとかんじていたツイッターのかたに「どこかで一緒にどうですか」て勇気出して連絡とったり。「もう会えないから行く」みたいなのなんか嫌だけど、やっぱり引退興行って特別なんだ。もう会えないって知らずに見てしまったじぶんにとっての最後のショーがたくさんある。おねえさんたちのそれぞれの決断が一番大事だから、「何も言わずに去ってしまうなんて」とかはおもわない。でも引退するって教えてくれて、最後として最後に会う機会をくれるおねえさんたちの気持ちをすごくあたたかくかんじます。
 そのころの東京の新規感染者数は、5月に一時千人を超えていた山が落ち着いて、500人行かないくらいになってきたあたり。「このままきっとオリンピックも中止になったりして、3ヶ月後にはもっとマシになっているのでは?」と楽観的に考えていた。「では?」の答えはNOもNOで、状況は悪くなるばかりだった。オリンピックもパラリンピックも決行されて、「オリパラやれるかんじなんだね」て空気がたしかに自分らから遠いところにはあるっぽく、でも感染者数は増えに増えた。仕事の予定の調整がむつかしかったり、予約争いに負けたり、遠くの接種会場に行こうとする気力がなかったりで、ワクチンも打てていなかった。8月の始めにはじぶんの職場にも陽性者が出る。複数。「もう無理だ、きっと無症状なだけでぜったいじぶんも感染してる、9中に行くことはできない」てマジでガチで落ち込んでいた。マスクしてるから同じフロアで働くひとが陽性になっても、濃厚接触者には当たらないんだって。だから検査は無し。会社で「もし陽性者が出ても、業務のために濃厚接触者を出さないよう、マスク等の対策を改めて重要視しましょう」みたいな案内をされて、絶望感が増した。じぶんは暮らしのために感染する・させるリスクを負ってまで通勤を続けてきたとおもってたけど、じぶんの暮らしのためでさえなく、会社の利益のためだったんかな、じぶんに「嫌です」て言う勇気がないだけで……。そういう絶望感ね。
 そこから「美月さんの引退週をどう諦めるか」をずっと考えていたとおもう。でもある日、9中の香盤が発表され、また「どうしても行きたい」って気持ちに火がつく。もうこれ以上ヤバくはならんだろとおもってた感情がまた揺れに揺れる。自分自身のなかに渦巻く「本当好きなら云々」みたいな考えがもうめちゃくちゃ私を苦しめた。「本当に好きなら当然会いに行くでしょう、せっかく東京に暮らしているんだから」「本当に好きならそれこそ今は会わない選択をすべき、だってそれが感染を抑えるための正しい選択だから」……。自分が「劇場に行くこと(または行かないこと)」を「じぶんの正しい愛の証明」のようにしてる部分があり、それが本当に怖かった。愛はだめだ。愛はよくない。
 でも、もうダメだ。PCR検査を受けることを決意する。検査して陰性だったら行く。土曜に検査してそこからもう家を出ずに、平日の昼だけ劇場に行くのだ。まず会社に相談する。「発熱があってPCRを受けることになったときは必ず連絡する」みたいな決まりはあったけど、自費の検査についてのアナウンスはありませんでした。もし突然「症状はないんだけど自費で検査したら陽性でした」ってなったときどうなるのかわからんくて、確認しておきたかった。最初相談に行ったとき、辞めたいと言われるとおもったと言われてふふってなった。春の面談で「家と職場の往復で休日も遊びに行かなくて、なんのために働いてるのかわからなくなりました」って暗い顔で言っていたのだった。会社のほうには「無症状での感染拡大がすでに起きているかも」みたいな危機感はとくになかったみたいで怖くなったけど、でもいろいろ算段をつけてくれた。とくに自費PCRを止められるとかはまったくなくて、無事にさよならを言えたらいいねって応援してもらう(「なんてまた検査を」って訊かれて「好きなダンサーの引退公演があるんです、そこにウイルスを持ち込みたくないんです」って説明したから)。劇場で感染する可能性もあるわけだから、その後の出勤も縮小気味にしてもらう。声を出す必要がある業務はできるだけ避けて、それまでテレワークしたいけどできねえっておもってたけど、端末を持って帰って自宅での作業が週に少しだけだけど可能になった。自宅でできる作業ってほんの少しで、経済的にはきびしくなるけど、正直もう休んででも通勤を減らしたい気持ちがあったから、オッケー。はあ、革命じゃん……。
 土曜日、久しぶりに歯医者以外の用事で休日の電車に乗った。PCR検査を受ける。3万円(民間のもっと安いのも考えたけど、陽性になったときの対処がわからなくなるのが怖くて高いほうをとった。これまで劇場を我慢してたぶんのお金ですわ。まあ劇場や踊り子さんに払いたかった金だけれども)。翌昼、結果がくる。短いメール。陰性。よっしゃ!!!!!! 悩みながら慎重に文字を並べ、お手紙を書く。贈るための短歌をつくる。

 2021年9月13日。月曜日。1年前の「久しぶりの劇場」もちょうどぴったりこの日、渋谷だった。朝起きて去年買った美月さんの周年Tシャツにスカートを合わせる。久しぶりに化粧をする。赤色メインのメイク。見えないけど口紅も塗ります。グロスも塗る。身だしなみじゃなくて、お祭りの化粧だ。だってだってお祭りに行くんですからね。鞄には吸って食べるタイプのゼリーと小さいアルコールジェルを入れる。双子が自室から出てきて「これ、使って」と小銭入れをくれる。開くと500円玉が6枚入っている。「劇場に行くとき用にって貯めてたけど、意外と使っちゃって3000円しかないんだけどね」。同じく双子に誕生日にもらった薔薇柄のタイツを履き、そしてマーチンのヒールサンダルを履いて、地下鉄に乗る。
 久しぶりの渋谷はちょっと異世界みたいだった。どこの出口からも道劇にスッと迎えるぜって時代があったんだけど、もうその能力は衰えていた。駅の標識とにらめっこしながらふらふら歩いて地上にあがる。そういえば去年渋谷に行ったときはまだ呪術廻戦を知らなかったので、「ふええ、ここで……」みたいな気持ちで歩きました。劇場に入る前に、朝の、あかりのついていない看板の写メを撮る。
 入場券を買うとき財布からスタンプカードを取り出そうとして期限切れに気づく。出しかけたスタンプカードを見て「どうぞ?」と言ってもらい、「いえ、期限切れなんです」と答えたら「ああ、久しぶりの劇場ですか」「はい、1年振りです」。その会話だけでもう涙が出そうでした。ここに! 来たぞ!っておもって。新しいスタンプカードをつくったから、今度は貯められたらいいな。
 場内には平日朝にしてはもうすでにたくさんひとがいて、女性客、それもひとりで来ているとおもわれる女性客が複数いる様子に、「ああ美月さんの引退週なんだ」って実感する。三味線のかたの前座を経て、とうとう幕が上がります。

 行きたいほうの気持ちが勝ったのは、愛とかでなく、やっぱじぶんにとってのじぶんに対するわがままだった。なんでそんなにわがままになったかって、この香盤が、思い入れのあるおねえさんたちで占められていたからです。

 葵マコさん。まだTSしか行ったことなかったとき、次は別のところ行ってみようかなって探したら、マコさんと山咲みみさんのチームショーがあるって出てきた。最初にTSに行くきっかけもチームショーだったので、チームショーなら間違いないでしょっておもって行った。それが大正解。ラブ。マコさんとみみさんのチームショー(ホームレスのみーこ)もすごくよかったし、それぞれのひとりずつのショーも素敵だった。マコさんはまず表情で覚えました。酔っているみたいな熱っぽい、とろんとした、夢見るみたいな表情がすてきな踊り子さんだとおもった。13日に見た演目のひとつは美月春さんから引き継がれたNEVERLAND。この夢見るみたいな表情がぴったりで、うっとりしちゃった。エアリアルフープって見るたびに「妖精じゃん」ってびっくりするのだけど、これがまた演目にぴったりで。
 もうひとつの作品がyou can cry。すっかりやられてしまった。始まったとき、何が起こるんだろうってドキドキした。そして見てるうちに涙がめちゃくちゃ出た。無の表情で踊るマコさんもすごい。なんだか「待って行かないで」みたいな気持ちになりながら見ていた。展開があったとき、本当にうれしかった。「これが見たかったんだよ」ってなった。このときの「これ」っていうのは、ひとが死んでしまう物語の舞台を見たあと、役者たちが生きてカーテンコールをするのを見るような瞬間。フィクションの内容自体に救われるときもあるし、フィクションが現実と手をとって、フィクションであるという自体が気持ちを揺さぶるみたいな……うまく言えんけど……もしかしたら永遠に生きていられるかもみたいな瞬間。死のあるなんていうほうが嘘でしょって。笑顔で中指を立てる姿がやばくて、ポラでも中指を立ててくださいってお願いした。ポラ並んでも思ったようにしゃべれんことがほとんどだから、お願いできてよかった。

 栗鳥巣さん。私がストリップを見ようっておもったチームショーをされていたひとり。鳥さんのツイッターを見て気になって見たアニメがあり、そのパロディ演目をされるというのでわくわくだった。鳥さんを好きになったのはチームショーがすごく楽しくて、ストリップって美も涙も笑いも他にもいろいろあるなあって最初から知らしめてくれたのもあるけど、ポラの対応とかの、すごく親しみやすそうでいて、でもはっきりショーの登場人物とその客ですよみたいな線引きを見せてくれる鮮やかさも大きかった。身近で軽快で、それでいて底が見えなくてミステリアスみたいなひと。その踊り子としてのありかた自体が、その演じられてるキャラクターともマッチしていて、とてもよいのではよいのでは。ってなりました。でもまだアニメしか見てないので、漫画を読まなくちゃいけない。
 4回とも違う演目で、それぞれ感嘆のため息が出たり笑ったりだった。自吊りは見るたび惚れ惚れするし、おまん似顔絵は一筆一筆が鮮やかで、あとトークがおもろい……すごい……。じゃんけん勝てなくて悔しかったけど、もっと感染状況よくなったらぜったい熱海に行って描いてもらうぞという気持ちを新たにした。そしてパロディ演目として原作沿いの二次創作も、すごい設定の現パロ?なの?二次創作も見た。私はオタクとして……記憶をリセットしたひとはその前と同一人物なのかとか……はたまた同じ記憶を持ったひとが同一人物なのかとか考えるのが大好きなので……刺さって後を引くものを見れてハッピーです。鳥さんの別の演目のリライトバージョンでもあって、その違いもおもしろかったしグッときた。宇宙柄セーラーの女の子ちゃんはああだったけど、学ランの登場人物くんはそうなんだね!みたいな。へへ……。どっちも好き……。
 マウント太郎先生(鳥さんの娘さん)のグラデ便箋をポラタイムに売っていらして、それをおじいちゃんが買う様子も味があった。おじいちゃん・ミーツ・グラデ便箋。

 六花ましろさん。ましろさんを初めて見たのも新宿TSでした。初めてストリップを見るという友だちを連れて見に行った。見終わって友だちが、ストリップ自体すごくよかったしましろさんがいちばん好きだったって教えてくれた。その友だちとはそのあとあまり会って遊ぶってできなくて、だから「一緒にましろさんを見れてよかったなあ」って、まずそうやって覚えたのだった。(その後ちょっとあいだを開けてその友だちとはまた何度かストリップ行きました。やったね。)また別の友だちがましろさんのファンで、「どこも見ていない遠くを見ている目」みたいに説明していたのもずっと心に残っている。この日見た2つの演目のどちらもその目が活きていたっておもいます。ひとつめはスーツにメガネのおねえさんの二重生活。外でのかっちりした姿と、内でのじぶんの愉しみに貪欲でいろいろ試していく姿。痛いのとか苦しいのは無理だねみたいな親しみやすさを持ちつつ、やっぱり遠くを見てる瞳。
 2つ目は「鯨」。人間じゃないものが人間に近づいて人間じゃないものに戻っていくのだけど、すごい、表情のうつりかわりが、マジで人間を離れていくみたいだった。もはやちょっと怖かった、使われてる音源の持つ冷たさもだけど、やっぱり表情や背中だけで語るみたいな身体の動きがね。最近ホラーちょいちょい見てるから、それに近いものを劇場でも見たぞって感動もありました。
 ポラタイムのときに、うしろの席に座る、ましろさんを初めて見るっぽいお客さんが、「あのイカ踊りの踊り子さんは初めて見たけど、やっぱりすごかったねえ」「イカ踊り?」「そう、札幌……」て話してるのも「その場にいれてよかった」感がありました。「出会い」を見たよね。

 京はるなさん。最初TSに3回行ったとき、いろいろ親切に説明してくれる常連さんたちに会って(こういう場所で女性に説明してこようとする男性って嫌なやつおおいとおもうけど、そうじゃないタイプだったんだよね。ありがてえ)、そのひとたちが「きっと京さんも好きだとおもう」って教えてくれて、初めて見るときとてもわくわくした。そのときも栗鳥巣さんと美月春さんが香盤にいましたね。池袋ミカドだった。この日見たひとつめがサキュバスの演目。京はるなさんもまたウワー視線の演技! 伝える力!てまず圧倒されたかたで、あとお茶目なキュートさとクソ大胆なえっちさを併せ持ち、なおかつストーリーの泣かせ要素よ……てところもだし、そして衣装の細かいところまで趣味の糸が通ってるみたいなかんじもまた好きなんですわ。これも私のおもうその京さんの魅力の詰まった演目で大満足。
 そしてずっと見たかったCOVID!「こんなに長くやるとはおもっていなかった」てポラのときにきいたとおり、長く見られること自体にかなしさのただよう時事演目。でも、いやこういう状況にかなり気持ちが折れていたので、「またやれる」ていう気持ちの支えになる演目、いま見れてとってもよかったです。双子にも見せたいけど、でももうこんな状況には終わってほしいので、また大丈夫になってから「あんなこともあったよね」的に出してほしいな……。

 京はるなさんと美月春さんのチームショー!じぶんは行くなら13日しかないってなってから、13日をラストにGIRLSがされるって知り、運命じゃんってなりました。評判だけきいていて、ずっと見たかったけどもう無理だと思ってた演目。百合です。強盗カップルです。ワイルドなビッチが二丁拳銃を打ちまくり、うしろでただかわいいみたいだったロリィタちゃんもショットガンをぶっ放す。しかもふたりは逃げ切るんだよ。酒を飲むけど破滅はしない、ただいちゃいちゃして終わる百合! 衣装もやっぱりかわいくて、左耳のでっかい赤いハートのピアスとか、そういうのも……。はあ……。ストリップって、「光のなかで踊っている!」とか「うわー生きてる!」とかただそれだけに涙が出ることもあるし、ストーリーの切なさに泣かされることもあるし、もう見ているものに幸せが含まれすぎててうれしくて泣くようなのもある。すごいよ。
 ふたりで衣装でポラ撮らせてくれるのもうれしかったな。お客さんたちがみんないろんなポーズを注文していて、ああ、あれもいい、えっそんなのも……いい……て、大富豪だったら全部お願いしたかった。おじいちゃんが「それはいい百合ですねえ」と言いたくなるようなやさしい表情のバックハグを注文されていたのもよかった。
 チームでのオープンにチップが飛び交う様子も、最後にちょっと泣いちゃう京さんを抱きしめる美月さんも、全部覚えていたい。

 美月春さん。最初にラスト演目のTruthを見て、エーンってなった。美月さんのショーに私は勝手に「怒り」を感じて好きなんだって話を何回もツイッターでしてるね。でも怒り以外の部分も好き。Truth、全部盛りだった。妖精か?ってなる繊細な動きやミステリアスな笑顔があったかとおもうと、全力で中指を立てて人間みたいにくしゃくしゃの笑顔を見せてくれたり。でもあまりにあっという間であんまり覚えてなくて、途中で「なんでそんなまた会おうみたいなこと!エーン!好き!!」てなったのと、超好きな曲が使われててワーーーーってなったのは覚えてます。
 雷宴はかっこいい美月さん!存在しないでかい太鼓が舞台上にあったよね。美しい緑色の衣装の一部が、照明によって深い深い黒色になるのを見るとき、道頓堀劇場に来たぞ!っておもう。他の劇場でもたぶん照明の色による変化は同じはずなのに、なんでだろうね。照明バキバキの道劇で見れてよかったなあ。
 ラストは私が見る最後の美月さんのショー。ウズメ! 3周年作! 私が初めて、美月さんの周年にいくぞって道劇に行ったときされていた演目! 知っているどの演目も好きだし、見たことのない演目を見れてもハッピーだから、なにが来てもうれしいだろうなっておもってたけど、こういう符号によろこんじゃう。だいぶブランクがあるとのことだったけど、でも最後の、存在しない鈴を響かせながら光のなかに消えていくみたいな、ばっちりキマってて、はあ……。
 言葉が足りんよね……。
 ポラタイムに写真集を買って、友だちに頼まれてたぶんも一緒に買った(代理購入OK)のだけど、そのとき「お姉ちゃんのぶん?」て訊かれてにこにこしちゃった。踊り子さんを好きになるとき、認知はいらんのです、でもあなたのショーにこんなに人生を揺さぶられて通っている女がいることは知られてえ。。みたいな葛藤がありますが、美月さんになんか双子セットで覚えてもらってて、片方だけで行くと「お姉ちゃんは元気?」てきかれるようなこと、おもってた以上にうれしかったんだとおもう。うれしかったです。「今週の香盤、あのときみたいでしょう」って言われて、「なつかしいです」って答えた。本当にそう。

 これはあんまり関係ない話だけど、4月にnoteに日記書いたり5月に二次創作したりしてたのって、5月末にある短歌の新人賞に出す短歌をつくるため(内容はなんでもいいからとりあえず「書く」をやるとエンジンがかかるとおもった)で、それをつくったあとわりと燃え尽きた気持ちになってたの。仕事も忙しかったし、通勤自体怖くて苦痛だったし、オリンピックなんか開催されちゃうし、状況は悪くなるばかりだし。そして短歌でやりたいことがどうやったらできるのかわからないし、むかしじぶんがやろうとしてたことを振り返って、それへの不信感を覚えたりもしていた。書きたいっておもわないほうがずっと楽で、ただお遊びとしてときどき折句をつくるだけにしたほうが楽しいんじゃないかなっておもったりさ。
 まあ9月ってまた新人賞の締め切りがあるから、わりとこういう焦りみたいな気持ちが毎年あるって気がする。美月さんの周年作に毎年勇気をもらってたみたいなところがあって(「漫画家」とかマジでダイレクトにね)、今回けっこう深刻だったんだけど、やっぱり苦しくてもやろうって気持ちになったよ。

 行くかどうか自体ずっと悩んで、行くと決めたときも「2回目までで帰ろう、それでじゅうぶんだ……」とかおもってたのに、チームショーの発表で3回目まで見ることを決め、劇場に行ったら結局プンラス(劇場のオープンからラストまでいること)していた。行ってよかったって素直に思う。正解かどうかはやっぱりわからんのだけどね。どの演目も、私にとって、生きることへの祈りや応援に思えて、そして社会に対する反抗に見えて、どっちもすごく欲しているものだった。
 音楽が箱じゅうに満ちているようなことも、ずっと待ってた。通勤中に、iPhoneが酸素のタンクでイヤホンを通して酸素を吸ってるみたいな気持ちで、しがみつくみたいに音楽をきいてる日々です。劇場に行って、とくに道劇は音でかいからさ、空間に酸素がいっぱい!ていう喜びがあった。
 劇場の雰囲気、ストリップ客たちの様子を久しぶりに見たことでも元気が出た。「みんなここにいたんだね」とか「みんな元気だったんだね」っていうあたたかい気持ちです。こんな時期なので話しかけることはしなかったけど、覚えのある顔をいくつも見ました。行かないことに罪悪感をかんじないのも、行くことに抵抗をかんじてしまうのもずっと続くのかもだけど、私が行かないをしているあいだもこうやってこの光の下にお客さんたちの笑顔があるならそれはすごく私の世界にとってよいことだなとおもう。また、客席にいて、「今ここに来ない」を選んでいる(選ばざるをえなかった)お客さんたちのことも考えてた。たぶんみんな来たら劇場なんてパンクしちゃうだろうから、今は空間が必要……。こんな世でなかったらパンクさせたいので悔しいけど、でも「行く」を選んだ客も「行かない」を選んだ客も両方がいて回るミラーボールがあるんでしょって、実感したかんじです。かさねがさね、行政がもっとしっかりしとったらなあの気持ちは消えませんが。
 そして劇場を出て感想をぽつぽつツイートしていると、「あのとき私もその場にいました」ってツイッターで声をかけてもらう体験をして、劇場で話すのがむつかしい世でも、「お客さんたちの会話」できるんだなあって感動した。「じゃあまたどこかの劇場であったらよろしくお願いします」って言うの、大好きなんよ。
 あとどうしてもまた行きたい気持ちがあって、でも行くは選べなくて、ツイッターで「今週の道頓堀劇場はいいぞ」ツイートを繰り返してたら、「このツイートを見て初めてストリップに行きました。行ってよかった」というメッセージをいただき、こんなにうれしいことはねえよ。あとフットワークの軽い友人に「行けというわけではないですがおすすめです」って連絡したら、最終日に行ってくれて、しかもストリップ自体が初めてというのに途中外出を挟みつつオープンからラストまでいたみたいで、その途中の外出に長い感想LINEをくれてたり、それもうれしかったな。

 13日夜、劇場を出て、朝にはまだ光がついていない看板を撮ったから夜のぴかぴかの看板を撮るぞって振り向いたらすでに灯は消されていた。灯の消えた看板を撮って、でも大満足の気持ちでした。引退される踊り子さんの「これから」について考えることって、その内容が「幸せでいて」みたいな他愛のないものだとしても、生身の知らない女性の人生に触れようとすることで、それをしてしまいそうなとき自分がおそろしくなる。だから本当はどうすればいいかわからないんだけど、本当に好きでした。
 今から書くこれは自分のツイッターのコピペだけど、すごくそう思うのでマジでそのまま載せちゃうね。「ストリップが輝かしいのは消えゆく儚い光だからじゃなくて、時代にあわせて変化を続けてそうやって勝ち取られてきた光の最先端が今ここだからなのよ」、そして「1年ぶりにストリップ行って感じたこと、「うちらはこの光の証人なんやな」です」。

 証人なんよ。
 証人にしてくれて、ありがとう。