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死なない猫を継ぐ

復讐になったのはいつ一生に幾百のパフェ食べきることが

きみがやめてしまった煙草からのぼる白い煙のなか見てた町

震災のことを言わなければうそで嘘でもよかった5月だけれど

汽水域を寄り添う二匹の金魚がどうなったのか憶えていない

やつらの星の言葉で言えば奪われており だから何 野茨が咲く

どうせこれも抜け出すためのパーティーだフリルに銀のナイフ隠して

そうあれがこの世でいちばん明るい星 お寿司のパックの半額シール

いつまでもあたしのものにならん声をそれでも30年を暮らした

花を火の比喩として手に集まって交わす世界を燃やす約束

骨を拾う記憶がとけてまざりあい誰の骨だかわからなくても

友だちの手の花火から火をもらい蛇花火うれしそうにのびよる

ごめんねちゃんとふつうにあきらめられなくてごめんねちゃんと燃やしたるけん

あたしはあたしを滅ぼすために暮らしあなたもでしょう パフェをおあがり

逃げ延びたテルマとルイーズが迎える黒い子猫の名前をおもう

赤いネイルの指であなたたちを歌に変えてそれでも友だちでいて

水底の暮らしはつづき冬の息が白いみたいに吐いていた泡

手放しで憎む コップの底でミロが甘いかたまりになっている

何も入っていないちいさい軽い箱 不在がかなしいってバグみたい

(このあとに戦争が来る)とおもいながら指はページをめくり続ける

さいごに残した銃弾のよう友だちにもらったジバンシィのリップは

仰向けに本をひらけば落ちてくる無数のしおり代わりの半券

あなたから欠けたのがもしあたしでもバラバラの一生でいようよね

ひとりだけ厚手のコートを着てバスに乗り込むスパイのような気持ちで

それが今日じゃないってだけでいつか仕事を突然サボって海に行くから

映画という祈りの端で手をとって駆け出す女たち、こぐまたち

のいばらの白に何度もシャッターを切った何度も生きてみたいよ

うたかたのアナグラム日々の戦いのなかで歌だけ語ろうなんて

でもきみはその称賛に振り向かずひとり花野に去ったっていい

そしてまた水道水の旬が来る冷えた素足で廊下をゆけば

あたしたちは死なない猫を継ぐ種族 本棚の本まじらせながら

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2021.5.19
(短歌研究新人賞応募作)

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つくってるときそのひとのことを考えていた登場人物たち
・釘崎野薔薇さん(芥見下々『呪術廻戦』)
・ソラさん、ナナさん(ファン・ジョンウン『続けてみます』)
・海賊房太郎さん(野田サトル『ゴールデンカムイ』)