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白い犬。

あんな経験は、後にも先にもない。

さみしさがオーラみたいに
白い煙みたいに
その身体に巻き付いていて、
つい、
それをを見てしまうことがある。

さみしい同士が出会ったら…?


その日は朝から、慌ただしかった。
車の渋滞に少しうんざりしていた。

衣装協力の関係で、本来ならば行く予定ではない現場で、その俳優と出会った。

撮影の合間に、スタイリングの微調整が必要になり、「お願い」をされただけであって…

自分の父親と同年代のその俳優は、とても気力に満ちていた。

『ありがとう』

現場に戻る扉を開き、廊下を歩く手前で、振り向き手を軽く挙げる。

後ろ姿が何故か…


終わるまで一時待機とは言っても、

その最中に、会社に連絡。
プレゼンの資料の確認。


撮影後に、連絡先のメモを渡された。

『キミ、僕の飼ってたチロに似てる』
の言葉とともに…

「え?」思わず口にして、笑った。




普通ならありえない。

個人的に会うなんて。

其れは向こうも同じ。


大切な人を失った寂しさと、取って余りある虚しさが
そうさせただけ。

ちょっと疲れていた。

某ホテルのレストランで、鉄板焼きを一緒に食べた。

お互いのこと。

自己紹介。

仕事のこと。

わたしが好きだったドラマで、父親役をしていたのは、この俳優だった。

数え切れないほどワインも飲んだ。



気がついたら、客室で横になっていた。

冷たいコップを手渡しされて、現状を理解する。

着衣のままだったので、起きてシャワーを浴びた。

「知らない人の家で、シャワー浴びるなんて…」

いろいろ言葉が浮かんだりもしたけれど、全て違う。

知らない人じゃないし、
そもそもここは家じゃない。



チロなのだから。



バスローブのまま、ベッドに横たわる。

お互いに見つめ合ったままで。

彼も黙って、わたしの髪を撫でるだけ。

たまに頬にも触れるタイミングが心地よい。



チロなのだから。



まだ濡れている髪を、優しく触られることへの
快感に溺れた、わたしは犬だ。

彼が微笑んでいる。

静かに見つめ合ったまま、眠りにつく。


うとうと、

薄れていく意識の中で、

芝生の上を走り回る

白い犬…



#白い犬 #一期一会 #実話か創作か #ファザコンか
#チロ #共通のさみしさ







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