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新宿の神様も眠る。

うちが高校生の頃、新宿を良く走り回っていたのを思い出す。
世間ではネオ・ヴィジュアル系ブームが到来しその中で更にジャンルが細分化されれ数多くのアマチュア、インディーズバンドが毎日の様にライブをしていた、週に3、4日はライブハウスに入り浸っていた。
学校にも行かずライブハウスで知り合った友達と歌舞伎にあったマックで待ち合わせ、友達の友達も集まり集団を形成していく、たわいも無い話をしながら笑いあい精神安定剤を飲んだり誰かがいつの間にかいなくなっていたり、そんな事も気にしない。全員化粧や着替えが完了したら新宿コマ劇場の横のゲーセンでプリクラを撮りに民族大移動、そのプリクラを名刺がわりに配り回っていた。
ライブハウスから出てくるのは23時頃、終電はあるけど朝までファミレスや道端や公園でお喋りして遊んでいた。
高校の制服を着た女子が夜分から明朝まで繁華街に居ればトラブルもあるもので、喧嘩を売られたり嫌がらせをされたり追いかけ回されたり特権でラッキーな事もあったり様々な事が起こった、うちが街中で歩く時に目つきが悪く警戒心剥き出しになりながら歩くのもここでの生活が大きい、毎日何かと戦っていた。白黒思考で自分の世界以外の人は敵だった。昔のお話だ。
東横キッズを見ていると自分の10代と然程変わらないなと思う、ライブハウスでの拠り所がSNSに変わっても新宿は様々な人々を受け入れていた。

時は経ち新宿に行くのはゴールデン街に飲みに行く時くらいだ。
うちは推し神社として「花園神社」を推しているので飲みに行く前に必ず参拝をしている。19歳の時に芸プロに所属していた時にマネジャーが「ここは芸能の神様がいるからお参りに来るといいよ」と連れて来てもらったのが始まりだ、その言葉をいまだに守っている。
本殿の前の広い階段にはアルコールの缶を持った人々が座ってたり円になって酒盛りをしたり、夏には階段をベッドにして寝ている人もちらほら見える。
厄祓いも花園神社で行なった、32歳になる年「女性の前厄だ!厄祓いしよう!」と思ったがうちは性別を変更しているので女性と男性どっちの厄年なんだろうと宮司さんに神社の窓口で聞いたのだ「うちは性別を変更しているんですけど自分で男か女か決めて無いんですけど、生まれた時の性別の厄年を見れば良いんですかね?」と聞くと「自分が好きな方でいいですよ」と答えてくださり、熟考した結果「人より2倍厄年が来るのでは?」という考えになり、しっかり厄祓いをしてもらった。
今思い出したがうちが中学の時「花園神社で缶蹴りオフ会」が2chで開催され、友達と参加すると書き込んだがうちは行くのがめんどくさくなりドタキャンした、友達は1人で行った。そんな事もあったなぁと神様と酔っぱらいと無責任者とよく分からない事をしている人たちが生活する新宿の懐は底が見えず奈落だなぁと思うのだ。

その奈落に10代はライブを見に、20代はライブをしてライブを見に、30代は毎週飲みにお邪魔している。新宿のイメージとしては巨大隕石が落ちたような巨大な黒い穴の全体にネオンがチリチリと誘蛾灯のように見える、耳をすまして聞こえるのは「バーニラ、バニラ、バーニラ、求人!バーニラ、バニラ、高収入!」という中毒性のある子守唄。夢見心地で落下していくのを気付かない男女に花道通りの綱渡りをメンチ切りながら歩くうち、朝5時の道端に不法投棄されたソファに座るキャッチのお兄さんが誰かに電話している。その電話はどこに繋がっているのだろうか。「What's up」と始まる片手だけで伝える「売ってくれ」のサイン。東京一安いケバブ屋さん「REIS KEBAB」はゴジラの火の吹くシェルター的存在、底がゴールだ。
こんな地獄の様な奈落に神様はいるのか?居ないよりは居た方が良い。

新宿の神様がいるならどんな形をしているのか、今回の撮影はうちが神様になった気分で挑んだ、初台から撮影を初めて京王新線で新宿へ。
新宿の神様は地べたを這う、2022年にZ季氏の「#歌舞伎町巨大ネズミ捜索隊」に参加した、巨大ネズミを見つければ賞金がもらえるのだ。この夏は暇だった。
歌舞伎町中のネズミの寝床を見つけては張り込み、ビルの隙間に潜って室外機に舞う糞尿を吸い込みながらネオンに漏れる光で地面を見る。見つけた、お前の親玉はどこにいる。5時間地面とゴミとゲロとネズミを見た、一生分のネズミを見たと言ってもいいだろう、地べたを這いつくばっても巨大ネズミは結局見つけられなかった。
この奈落の地べたにはネズミという住人が居る、中華屋さんのゴミ捨て場でネズミの家族が一家団欒をしている。酔っぱらいに壊れたビニール傘を投げられて散り散りになるも数分すれば元通りラードまみれの核家族。
神様はこのネズミが愛おしいと思った、新宿で何よりも強く生きているように映った、新宿の本当の住人はネズミじゃないのか?
道の真ん中で酔っ払ったふりをして顔を伏せる地雷系メイクの女子の足元にもネズミは歩く分け隔てなく歩いていく。

ラブホテルの地下駐車場で天ぷらナンバーの埃を被ったベンツがあった、フロントガラスのスモークが黒すぎて運転席が見えない。通り過ぎる見えない小指、優しい風態のサラリーマンだった。関節3本義理人情、28回までは許せるのかな。土下座するホストは綺麗に髪型をセットしていた、用意した台詞を喋っている様だった、ゴミ捨て場に置かれたエンジェルの箱、そのエンジェルはもう来ないって綺麗な髪型を厚底の靴で踏んでいた、バレている。そりゃ騙せやしないよね。
神様もそこまでは同情出来ないなぁと思った。
新宿バッテングセンター横のコンビニの駐車場でかいさんと休憩をする。
煙草を吸いながらチョコレートを食べて糖分とヤニを補給する、俗まみれで沢山の目が身体中に増えていく、これは誰の目だろう、神様は汚れても気にしない。
祟り神様も神様だから、神様全てが綺麗で良いものではないのだと気づく。みんな一緒くたになって奈落に落ちるのかな気分は上空に居るんだけど全部錯覚なのかな。
おじさんに後ろをつけられている女の子を横目で追う、微妙な距離と不自然な動線、食べかけのカップ焼きそばを電柱に投げつける人。箸が転んでもおかしい年頃、箸でも道に転がしておけ、勿体無いから。
騒がしい視界に金属バットとボールがぶつかり合う硬い音が響いていた。
寂しい人しかいない気がした、だから神様も寂しくなってきた。
キャパオーバーな空き缶やペットボトルが溢れるゴミ箱の前に陣取った、人間で言ったら無惨な状態である、通行する人に「ゴミください〜」と声を掛けてたら続々とゴミが集まってきた。
ゴミ塗れで撮影をしているとカップルが飲み掛けの酎ハイを渡してきた。「まだ残ってるから飲んでいいよ」と言ってくれた。うちは「ゴミしかいらないです!」と言ってその優しさの意図を考えられずに中身を捨てた、相手も自分も事情は常に自分勝手だ。遠くからニヤニヤしながら見ているおじさん、うちは神様だから売ってはいないよ、目つきも悪くなるのよ自分を守れるのは自分しかいないからいつも。

こんなに寂しくて毎日が事件なら、地面に敷いた鉄板の隙間から顔を出す神様も疲れて眠るでしょう。眠らない街歌舞伎町だって朝5時にはベロベロで寝ているのをうちは見たから。
キャバ嬢の光る髪飾りを太った烏が狙って滑空する、千鳥足の女の子が頭を確認する頃には、高層ビルに増築した巣の中で朝日に反射したFENDIのロゴと眠りにつく。

うちの住んでいるマンションの屋上から新宿のビル群が見える、隣街から見る夜の新宿の姿は航空障害灯が赤くゆっくりと点滅している。石垣島の友達のイケちゃんがうちに来た時に屋上で「REIS KEBAB」で買ったケバブを一緒に食べながら新宿のビル群を見ていた。
イケちゃんは「ヨウタさん!あそこが新宿なんですね、さっきまで居たなんて思うとワクワクしますね!」と感動で表情の筋肉を上げながら言った。うちは新宿のビル群を見てワクワクした事がなかった。「そぉ?よかったよ〜」と言いながら過去20年余りの記憶を掘り起こしていた、ビル群にワクワクした事があるかな。
どちらかというと悲しくなるのだ用無しになったゲロの匂いと眼底の圧迫感を感じながら走る記憶を真っ先に思い出す、ここから見えるビル群は墓標だ。
神様、「東京」がテーマの歌に共感を持てないどうにも救えないうちを祓え給い、清め給え。

新宿の神様は変面で夜を自由自在に変える寂しがり屋だ。
街の灯りは消しておくから神様もネズミもあの頃の自分も全部まとめてお眠りなさい。

おやすみなさい、また明日。
久喜ようた。

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