「戦」本編

舞台は、かつては遊廓もあり、人が溢れ栄華を極め、海外にも知られる観光地「伊勢志摩」に含まれながらも、今では人影もなく、すっかり寂れた様子の三重県鳥羽市。この現状に頭を悩ませていた鳥羽市市長は、世界的な都市建築家シャンティ父にその再生を託す 。
 いつも先祖代々が仕えた殿様 九鬼嘉隆の映像を見ている宿の主人。シャンティ父が、 彼と話し込んでいると、海外から連れてきた認知症愛犬がいなくなる。二人は勢いよく宿を飛び出し別々の方角に認知症犬を探しに出る。
いつしか目的を忘れ、彷徨うばかりとなった宿の主人の耳に、ある声が囁く。 それは九鬼嘉隆の声。
「ワシの犬が行方不明になったのだ」 なんと 宿の主人も認知症患者だった!
殿の犬を探すという新ミッションを得た宿の主人は、パワフルに自由に認知症犬を、再び探す、探す、探す......戦う ?。 あれっ ?探していたんだっけ?次々と湧き起こる障壁とトラブル。町中が、行方不明の犬と患者の話題で持ちきりになる。いつしか人が人を呼び、認知症的幻覚が、自分を探してくれている善意の人々を、追ってくる敵の侍や隠密に見せる。身を隠し戦いながら、お犬様を追う。 (なぜかひそかにいつの間にかその様子をみつめるシャンティ父。)
眠っているかのような街は目を覚まし、街中を巻き込んだ壮大な追走劇、妄想的「戰」となるのである。遂に宿の主人は認知症犬を見つける。
そこは、伊勢湾の風光明媚な風景が一望できる日和山展望台。かつての鳥羽城、我が殿 九鬼嘉隆の城があった場所。
「決戦だ!!!」
捜索してくれた人たちが、九鬼嘉隆宿敵の侍に見えている 宿の主人は、想像をはるかに超えたスピードと技量で全員を 倒す。
「殿!お犬様はここに!」
恭しくも高々と認知症犬を掲げ捧げた相手は、殿九鬼嘉隆……のはずだが、捜索参加者に見えるのは、 え?一緒に捜索していた鳥羽市長!?
戸惑うばかりの市長だったが、勢いに乗せられのたまった。
「よくやった!褒美を取らす!」
息を切らしあっけに取られている人々の視線の先には、ただの認知症犬を捧げ深々と頭を下げ自信に満ちたただの認知症患者の姿があった。
AI監視カメラのスマホアプリを閉じながら シャンティ父が市長につぶやいた。
「この忠誠心!この強さ!自宅にいた時とは別人だ!決まりだな。ようこそ我らがディメンシャーズへ。 」
「でしょう?ボス。」と市長。シャンティ父を彼の宿に泊めたのは市長だった。
市長から犬を受け取ったシャンティ父は、サイボーグ愛犬の電源をオフにした。 

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