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ブッダガヤの物乞い 3 中年の危機編

2024/01/30

昨日はちょっと趣を変えてベトナムの寺院を訪ねてみようと思い昼過ぎに宿を出た。田園風景の中をさ迷っていると自転車に乗った子供(小学2、3年生くらい)がやってきてヒンディー語で何か叫んでくる。

「おい小僧、この俺にヒンディー語は通じねえぞ」

と自信をもって言い放つと、

「はぁー」

と、大人びたため息をついて今度は数字を連呼し始めた。

「ダース!ダース!(10)」

まさかこいつ金をせびっているのか?いやしかし、こんな愛くるしい眼をした子供がそんなことをするはずがない。と思いつつもインド人がよくやる「お金」のジェスチャー(親指人差し指中指の腹を合わせてこにょこにょするやつ)をしながら、

「ダースルピア?(10ルピー)」

と問いかけてみると、愛くるしい眼をより一層輝かせて頷きはじめた。

ショックを受けながらも、

「火傷しねぇうちにとっとと失せな!」

と言い放つと「なぁんだい、ちぇっ、けちだなぁ」という顔して走り去っていった。

その後ろ姿を見つめながら、この国ではあんな年端も行かない子供までもが物乞いしてくるのか、なんという修羅の国であることよ、と暗澹たる気分に陥りながらも、再び歩を進めることわずか数分後、別の自転車小僧がやってきて、

「ダースルピア!ダースルピア!」

その後も何度蹴散らそうと、次から次へと急襲してくる自転車小僧たち。やがて何人目かの小僧に絡まれている時、道を間違えたことに気付く。しかしこの糞尿まみれのクソ道(主に家畜たまに人間)を今から引き返さねばならないのか、とうんざりした私は小僧の自転車に目をやると、あることを思いつき、

「おい小僧!望み通り10ルピーをくれてやる。だからワタシにハンドルを握らせろ。貴様は荷台に乗れ!」

と伝えると、待ってました!と言わんばかりに荷台に飛び乗る少年。そしてその時謎の理由で後ろをつけてきていた4、5人の少年たちも

「変なおっさんがなんかやりはじめたぞっ!」

と、いきなりテンション爆上げ。

ワタシが自転車を漕ぎ始めると、「へへっこの俺に勝てるかなっ!」と言わんばかりに疾走し始めるもう一人の自転車少年。

しかし四十を超えた男にそんなものに付き合う気力があるはずもなく、とくに相手にもせずに漕ぎ進める私。するとこちらの気分が伝染したのか、微妙なローテンションの中次第に黙りこくっていく少年たち…。

「しまった、こんな年端も行かない子供達に中年の危機の片鱗を味わわせてしまっている…。なんという罪深き所業であることか…」

目的地まではまだ距離があったのでもう少し漕いでいたかったのだが、これ以上この子たちに不憫な思いをさせてはいけない…

「ええい、南無三!」

と、2、300メートル走ったあたりで、断腸の思いで自転車を降り、約束通り十ルピーを渡して去ろうとすると、

「もう50ルピーよこせ」

とのたまってきたので分からないふりをして立ち去った。

去り際、元気を取り戻して走り去っていく子供たちを見守りながら、あの年で人生の深淵を垣間見てしまった早熟なる者たちの未来に幸おおからんことを、そう願わずにはいられなかった…。そうして私は向かったのだった、そう、かの人を祀る、寺院へと…。

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