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【いきものがたり#2】そよ風のカンパネラ

ぼくは 風
姿や形は 見えないけれど
いつも君の まわりにいるよ

あるときは タンポポにたのまれて
そのタネを 遠くまで運んであげる

ウメの花が 咲いたときは
ぼくにのって その香りが飛んでゆく

桜の花が 散るときは
花びらたちのサヨナラを 手助けする

トンビやタカたちは
ぼくに乗って 
ゆったりと空を舞う

ぼくをうまく つかまえられれば
はばたかずに 
ずっと空に 浮いていられる

ハチクマ


ぼくにも きげんの悪いときは ある

雨つぶが ぼくをそそのかし
まっ黒な雲を作って
まちや田畑をかけまわり
あばれたりもする

野分


でも ぼくが 本当に好きなのは、
ぼくが そっと触れることで聞こえる
美しい音


たとえば 木の葉がこすれあう
さわさわとした 音

コバンソウの実が ふれあって奏でる
かろやかな 音

そして いちばん好きなのは
秋のはじめの そよ風になって
カンパネラの 花の鐘を 鳴らすこと

ツリガネニンジン

つりがね型の 花たちが鳴らす
水晶が ふれあうような
キラキラとした かすかな 音

それは いのちが きらめく 音


君も 風に なれたなら
きっと 聞こえる ことでしょう

さまざまな いのちたちが 奏でる
美しい 音楽を


           おしまい


お話 みずすまし げんごろう 
写真 ますだたつひこ(増田達彦)
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