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公開相談会 Part2 第六回(ゲスト:June Tan氏)レポート - 西尾佳織(鳥公園主宰)

 公開相談会Part2の最終回「海外の事例に学ぶ 作品発表をゴールに置かない活動のあり方と団体の運営」は、ゲストにマレーシアのアーツコレクティブFive Arts CenterからJune Tanさんをお招きした。JuneさんはFive Artsではプロデューサーを務めているが、元々は生物学出身で、映像分野の脚本家、アクティビストとしても活動している。
 私は2018年にからゆきさんのリサーチでマレーシアへ行った際に、クアラルンプールにあるFive Artsのアトリエで発表させていただいたときからの知り合いで、普段はファーストネーム呼びなので、以下Juneと書きます。一緒に聞き手に入ってくれたのは、演出家、したため主宰で第1期アソシエイトアーティストの和田ながらさん。日英通訳は、アートトランスレイターズコレクティブ代表の田村かのこさん。

■「作品発表をゴールに置かない活動のあり方」?

 こういうテーマ設定をしたのは、2020~2022年度にアソシエイトアーティスト制度をやってみて上手くいかなかった部分を、整理して今後に活かしたいと思ったからだ。
 2020年以前、鳥公園はとにかく作品をつくりまくっていて、「動き続けることが活動。フローのみが活動でストックはない!」という感じだった。でもそれでは良くない。もうちょっと鳥公園に集まる人の生活や人生とか、直近の作品だけではなく長いスパンでの団体運営とかも考えて、つくるための基盤づくりも同時にやっていかないと……と思って体制を変えた。公演活動だけが「団体の活動」のような状態(どんなに色々やっていても、外からはそれしか見えない)も変えたかった。短い区切りで結果を出すことを求められ続けているような感覚があったので、きちんと実験できて、失敗もできて、それが長いスパンで結実していくことのゆるされるような創作環境はどうしたらつくれるんだろう?と思っていた。
 でも実際のところ、この感覚を共有して形にするのはなかなか難しかった。個々のプロジェクトの、集まっては解散する(そこで一旦精算する)集まり方のもう一層下に、プロジェクトをまたいで継続的に問題意識を共有する運営部分を持ちたかったのだが、それを一緒にする相手はアーティストではないのかな……?と今は思っている。(そして代わりに、鳥公園の運営を担う「お盆部」=宣伝美術の鈴木くん、会計の五藤さん、アーツマネージャーの奥田さん、ができた。)

 それでも私は、個々のプロジェクトに関わる人たちと「なぜこれをやるのか? やらずにおれないのか?」の「なぜ?」の部分を共有したいと思ってしまう。その人固有の「なぜ?」の深い部分で、協働したいと願っている。「やれるなら、やろうかな」ではなく「これを、やる」で一緒にやりたい。
 これは、自分のエゴもしくは感傷のようなものなんだろうか?と思うことも少なからずあるのだが、何だか拭いがたくあるのだった。そして、だから今回はJuneに話を聞きたいと思ったのだ。

■Juneのお話

・Five Arts Centerは、アートコレクティブであると同時に、プラットフォームである。
・Five Artsのメンバーは専門分野も年代も非常に多様だが、「市民社会をどう形づくっていくか」を考えようとしている、という部分が共通のビジョンとしてある。
・Five Arts内の個々のプロジェクトにメンバーは、ボランタリーに=志願制、挙手制で参加する。
・貸し借り(前に私の企画でAさんにお世話になったから、今度はお返しにAさんの企画に参加するか、みたいなこと)はなし。純粋に自分がやりたいかどうかで決めよう、ということになっている。
・メンバー個々の成長や人生のフェーズももちろん大事だが、所属メンバーは同時に、プラットフォームに栄養を与えて育てていくことを大切にしている。例えば誰かが別のキャリアを選んでFive Artsを抜けるとき、その人は自分の抜ける穴を埋められるような専門性のある人を代わりに見つける。
・プラットフォーム自体の成長・発展を、みんなで考えていく。だからこそFive Artsは、知的な活動のための場所/作品創作のための場所であると同時に、メンバー個々のEmotionalなもの(なぜこれをやっているのか? どうしていきたいのか?)も受け止められる場所になっている。

・このプラットフォームは、メンバーたちの活動の軌跡(プロジェクトや作品がどうか、ということだけでなく、人生の中の変化や、例えば辛い時期を過ごしていることなども含め)を目撃し続ける=Witnessことで、それぞれの活動をサポートしている。
メンバーの提案は、基本的にすべて受け入れる
⇒個人は提案をする時点で、Five Artsのみんなを巻き込む覚悟をした上で持ってくることになる。それが、ある意味ではその人にとっても活動のTriggerになる。

・サステナビリティは、金銭的なことだけでなく、Emotional sustanabilityも含めて考えることが大切。燃え尽きず、その仕事を続けていける気持ち的な余裕を確保できること。
・特にプロデューサーは、基本的にクリエイションの開始前から動き出し、作品がひと段落してからも関係各所への支払いや報告書の作業などが長く続き、さらにそのロングスパンのサイクルが複数のプロジェクトで重なったりするので、息切れしやすい。
・作品は一人でつくるものではない。アートをサポートするといったときに「アーティストをどのようにサポートするか」ばかりが言われがち。でも作品がつくられるときには、アーティストだけでなくその周りの人たちへのサポートも必要。

■Juneとのディスカッション

・アーティスト個人としての意思・判断と、鳥公園としての意思・判断をどのように分けたらいいのか?(アソシエイトアーティストとの関わりの中で、いちアーティスト同士の対等な議論なのか、鳥公園主宰からの絶対的な決定を伝えられているのか、分からなくて困ることがある、と言われてたしかにそうだよなあと思った。)

⇒自分のやりたいことと、カンパニーのやりたいことを分ける必要はないと思う。そこは一致しているべき。でも、どこかで線を引くことは必要。オフの自分を持てないと、どんな人でも疲れてしまう。
⇒全てのことをみんなでやろうとすると、大変だと思う。専門性もあるし、やりたいことはみんな違う。「やりたいことをやる」ためにも、集まった人たちが違うことをしていい。(一方で、資金や必要なものの調達にみんなが当事者性を持つことは大事だと、プロデューサーの立場からも思うけど!)
⇒自分のやりたいことは、遠慮なくシェアすべき。ただ、一緒にやる人たちもそれぞれに、モチベーション、得たいもの、提供できるものについて異なるものを持っている。それを理解する必要がある。

・Five Artsのみなさんの日常的なコミュニケーションってどんな感じですか? オンラインなのか、インパーソンなのか。

⇒40年前には、一人の家のリビングに集まるところから始まった。支援が受けられるようになってからはオフィスを借りて、そこが軸に。フルタイムの運営スタッフを雇えるようになって、創作のマネージャーも雇えるようになって。日々のコミュニケーションツールはWhatsApp。何かプロジェクトをやるときや意思決定をするときには、全員で投票して、意思決定する。最近経理のコミッティが立ち上がって、アートの経理について学んでいるところ。

・Five Artsでは、延々話していく中で一人ずつ脱落していって、最後まで残った人が勝ちになる(笑)くらいたくさん話すということでしたが、ミーティングの基本仕様や、共有されているルールって何かありますか?

⇒ミーティングを仕切る人を立てて、事前にアジェンダも用意する。13人のメンバーみんな自分の意見をハッキリ言うタイプなので、アジェンダ通りには行かないけれど。脱線しても、戻す役割の人がいることが大事。

・プロジェクトの全てがFive Artsのメンバーのみで構成されているわけではないと思うのだけど、メンバー/非メンバーの境界ってどんな風に認識されているの?

⇒個々のプロジェクト内では、メンバー/非メンバーの違いはほぼなく、対等にやっている。ただ、メンバーは個々のプロジェクトを超えて担っている役割や関係性がある。よくFive Arts内で言われるジョークで、「メンバーにならなければプロジェクトだけ関わってればOKだったのに。メンバーになるのが一番大変で損なんじゃない?」というのがあるくらい(笑)。

・日本だと、演出家やプロデューサー起点で企画が立ち上がるのが一般的だけど、Five Artsではそうじゃない人起点で企画が立ち上がったりする?

⇒基本的には、企画を出すのはアーティスト(プロデューサーも含め)。だから、どんな人が企画の起点になっているかはそんなに違わないと思う。企画を出した人は、そこに伴走してくれるプロデューサーを自分で探す、というのが企画が動き出すための最低条件。そこから後は、メンバーは参加したかったらすればいいし、したくなかったらしなくていい。
例えばガッツリ作品に参加していなくても、初日打ち上げでパーティーができるようにスポンサーを見つけてきてくれるとか、色んな関わり方がある。

■まとめ

 事前の打ち合わせでJuneからEmotional sustanabilityというキーワードが出てきて、そこに興味を持っていた。私自身は2017年に一度ぼきりと折れて、そこからもう一回立ち上がろうと思って2020年から3年間アソシエイトアーティスト制度を試したけれど、このEmotional sustanabilityについてまだ回復はしていないし、解も見えていない。(そして私個人だけのことではなくて、現状ではそれがこの業界にありえるとも信じられていない。)
 「メンバー個々人としては、純粋に自分がやりたいかどうかでコミットメントを決める」ことと、「プラットフォームとしては、メンバーのやりたいことは基本的に全て受け入れる」ことが、どうやって両立しているんだろう? 言葉だけで聞くと不思議に感じられるけれど、実現しているんだなあ、と思った。
 ある場に属する人が、自分の人生だけでなく、同時にそのプラットフォームに栄養を与えて育てていくことを大事にする。その方がいいに決まっている気がするけど、現実にはそんなに簡単じゃないなあと思う。それは、「要請されて、やらされて」やることは出来なくて、「本人がそうすることを本当に必要として」しか起こらない。

 鳥公園は、プラットフォームになりたいわけではなくてカンパニーだ。私個人も、場づくりの人・場を管理する人になりたいわけではなくて、アーティストとして作品をつくりたいんだわ、とアソシエイトアーティスト制度を経て考えていたけれど、Juneの話にはやっぱりすごく共感してしまった。さあ私は、鳥公園は、どうしていこうか。

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