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逆世代間格差

日本における世代間格差は深刻な問題となりつつある。

例えば、若い世代は経済の低迷や終身雇用制度の崩壊により、安定してなおかつ十分な給与を得られる職につくことが難しくなり、一方で高齢者世代は比較的安定した年金制度の恩恵を受ける。

また、人口減少に伴い若者の社会保障負担が増大し、将来の年金制度に対する不安が高まっている。これにより、若者と高齢者の間で経済的な不均衡が広がり、社会的な緊張を今後引き起こすかもしれない。

そう言った議論はメディアやX上でも頻繁になされ、高齢者による現役世代の搾取を訴える声も少なくないだろう。

しかし、今後10年以内に我々は若年世代が圧倒的に(そして実質的に無限に)得をし、高齢世代が損をするという構図の「逆の世代間格差」を意識し始めるかもしれない。

それは主に不老技術やマインドアップローディング技術によって人間の寿命が克服され、その結果未来の豊かな経験を半永久的に享受できる可能性があるためだ。

そしてその技術の恩恵を受ける可能性は、若ければ若いほど高くなる。

現状オンライン予測プラットホームのMetaculusでは、「いずれかの国で寿命脱出速度に達する(10歳時の平均余命が連続して5年、少なくとも毎年1年上がる)日時」が現時点で2060年代。
※この平均余命の計算は現在世代の死亡率を元にしてるので、実質2060年代まで生きることができると寿命脱出速度に到達する可能性が高まると思われる。

また現在AGIや超知能といった科学研究を飛躍的に加速させることが期待されている汎用技術の開発も進められており、その開発も相当早い可能性がある。それを考慮すると更に今世紀半ばまでの寿命脱出の蓋然性は高まっていくだろう。

つまり、2060年代まで生き残ることができれば良いかもしれない。

そして2060年代という数字はあくまで「平均」余命のため寿命脱出速度に到達するための技術の開発年代はもっと早いだろう。

例えば2035年までに技術的に寿命脱出速度に到達する目処がたった場合、世間はどのような反応をするだろうか。

未来は相当明るく、労働が代替され、格差が解消され、ストレスの相当軽減された社会において豊かな娯楽と人によった興味関心を自由に謳歌できる時代が到来するという加速主義のナラティブが優勢になったら?

その利益を半永久的に享受できる可能性が相当高まる若年層とそうではない層で無限の格差が生まれ、それは是正が不可能だという議論が出てきてもおかしくない。

現実的にはおそらく徐々に癌の特定の因子が特定され、それに対応する薬剤が開発され、患者に健康寿命の増加という名目で適用されていくだろう。そのためそこまで過激に世代間の格差が強調される日は来ないかもしれない。

しかし現状のデフォルトで語られるような世代間格差の議論は今後時代を経るに従って下火になっていくと少し感じている。

そしてもしかしたら高齢者になればなるほどリスクをとって技術を進歩させようとする加速主義の傾向になり、若者世代になればなるほど安全性を重視した施策を支持するようになるかもしれない。

これは大きく見れば技術一般における長期主義的な思想と加速主義的な思想の対立とも捉えることができる。

未来世代と現役世代の冷戦は年齢という軸で現役世代の中でも逆世代間格差における対立構造として顕在化する。

そういう未来が来るかもしれない。





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