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幸せホルモンが多いと幸せ?

幸せホルモンとして主に以下の3種が挙げられます

ドーパミン:欲求が満たされたとき達成感、快感、幸福感等を与える快楽ホルモンです。「目標達成」「新しい刺激や経験」「運動」「美味しいものを食べたとき」等にドーパミンが放出されます。報酬系に関与します。
セロトニン:闘争ホルモンであるノルアドレナリンや快楽ホルモンであるドーパミンを調節し精神を安定に保ち落ち着きを与えるホルモンです。日光を浴びることで分泌されることも知られており、睡眠にも関与しています。
オキシトシン:愛情に関わるホルモンで、ハグ、キスなどのスキンシップやペットとの触れ合いにより分泌量が増えます。

幸せホルモンがが多いと幸せになれるの?

では、幸せホルモンが多いと幸せになるのでしょうか?
幸せの定義にもよると思いますが、やはり幸せって単純にホルモンが多ければいいという問題ではないというのが私の考えです。
例えば、ドーパミンが過剰になると過度の興奮状態になります。このような強い刺激が続くと少ない刺激ではもの足りなくなります。そうすると更に強い刺激を求めるようになります。このようにして依存症になる可能性もあります。脳に電極を埋めてレバーを押すとドーパミンが大量に出るように操作されたラットは食べるのも寝るのも忘れて狂ったようにそのレバーを押し続けたそうです。
また、オキシトシンの量が多すぎると、自分のコミュティ以外の人間や敵と認識した対象には攻撃性が高くなるという報告もあります。オキシトシンスプレーなるものが市販されていますが、ちょっと怖い気もします。
抗うつ薬としてセロトニン再取り込み剤やセロトニン作動薬などのセロトニンの作用を高める薬剤が使用されますが、脳内セロトニン濃度が過剰になると、錯乱、軽躁状態、セロトニン症候群という中枢神経・自律神経系に異常をきたす副作用を起こす場合があります。

サイコパスは幸せホルモンが多い!?


サイコパスの脳内では、セロトニンとドーパミンが過剰に放出されているという報告があります。それでは、サイコパスは幸せなのでしょうか?
答えはそんなに単純ではないようです。脳の神経細胞の間には情報を伝達するためのシナプスがあり、シナプスにある受容体がこれらのホルモンを受け取ります。しかし、ホルモン過多の状態が続くと耐性ができてしまうのです。実際に成長に伴いセロトニン受容体の数が減ってしまい、感受性が弱くなってしまいます。つまり、ホルモンが多くても感じることができなくなってしまうのです。

日本人は遺伝的に幸せホルモンが少ない!?

日本人は遺伝的に幸せホルモンが少ないのであまり幸せを感じにくという情報が巷に流れているようですが、答えはNOだと思います。これは、セロトニントランスポーター遺伝子のプロモーター( 5-HTTLPR)の多型を指しているのだと思います。多型とはある遺伝子におけるDNA塩基配列の一部が異なることを言いまして、この塩基の違いにより異なる性質を示す場合があるのです。
セロトニンを運ぶためにはセロトニントランスポーターという物質が必要になります。脳内で神経細胞同士で情報を伝達する際に、神経細胞のシナプスから次の神経細胞の受容体へセロトニンが放出されるのですが、放出されたセロトニンの一部が受容体に取り込まれないことがあります。この取り込まれなかったセロトニンはまた元のシナプスに取り込まれ再利用されます。元のシナプスに取り込む際の入口としてセロトニントランスポーターという物質が働くのです。
このセロトニントランスポーター遺伝子の発現に必要なプロモーターが 5-HTTLPRです。この5-HTTLPRの塩基長(つまりDNAの長さ)が長いL型(ロング)と短いS型(ショート)があります。L型のほうが発現量が高い、つまり、セロトニントランスポーターを沢山作ることができるのでL型のほうがセロトニンを効率よく利用できるのではという理論です。
日本人はSS型,SL型,LL型の3種類の組み合わせのうちSS型が最も多いという報告(Journal of Human Genetics, volume 44,pages 15–17(1999))があります。おそらく、このような知見が飛躍して「日本人は遺伝的に幸せホルモンが少ない」という情報が出てきたのではと思います。


結局、日本人は幸せを感じにくいのでしょうか?

私はそうは思いません。神経伝達にはトランスポーター以外に、受容体の密度など他の因子も多く影響しますし、もちろん環境要因も大きいです。環境によって遺伝子の発現様式が異なってくるエピジェネテックも考慮する必要があります。実際、3872人を対象としたメタ解析によると 5-HTTLPRの多型による神経症スコアに差異が認められなかったとする報告もみられました(Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2009 March 5; 150B(2): 271–281)。要するに 5-HTTLPRのタイプにより日本人の幸せを図るのはどうかと思うのです。

まとめ


というわけで、結論としては幸せホルモンの多寡と幸せを感じることができるということは必ずしも一致しないようです。遺伝的要素もあるとは思いますが、遺伝的特徴やホルモンのみで幸せを決めるのはちょっと乱暴な気がしています。
幸せってそんなに単純ではないですよね?

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