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カタールW杯北中米カリブ海最終予選、最終結果と雑感

3月末にW杯予選の終盤戦が各地で開催され、北中米カリブ海でも最後の3試合が行われました。

そして最終的な順位はこのようになりました。

じゃまいか

ということで

本戦ストレートインはカナダ、メキシコ、アメリカとなり、
大陸間プレーオフ進出はコスタリカとなりました。


メンバーの質や監督、それぞれの国のサッカー事情を踏まえても順当なチームになったのかなとは思いますが、カナダの首位突破は予想外でした。

あとはアメリカ、メキシコが思ったよりももたついていた印象もあります。


そんなわけで今回の予選に色々と思うところがありましたので、以下の雑感にまとめました。


1位 カナダ 8勝4分2敗 勝ち点28

カナーダ

攻守ともに圧巻の戦いぶりで、36年ぶりの大舞台へ

13節のホームでのジャマイカ戦を4-0で勝利し、実に36年ぶりとなる本戦出場決定にカナダ中が湧いた。過去の予選では組み合わせの運の無さやここぞの勝負弱さに悉く泣かされてきたが、そんなイメージを完全に払拭する充実の戦いぶりだった。
新型コロナウイルスによる心筋炎により予選終盤を欠場していたアルフォンソ・デイビスも生配信で号泣するほど、この本戦出場はカナダにとって特別なものだった。

23得点は8チーム中最多で、ジョナサン・デイヴィッドサイル・ラリンら強力攻撃陣が躍動し得点量産の原動力となった。
7失点も8チーム中最少の数字で、特に守護神ミラン・ボージャンのビッグセーブは何度もチームを救ってきた。
デイビスが欠場した終盤戦でも勢いは落ちず、チームとしてのレベルの高さと、史上初めて男女チームの両代表をW杯に導いた監督となったジョン・ハードマン監督の手腕の高さを改めて証明する形となった。

W杯ではグループFに入り、ベルギー、モロッコ、クロアチアと同組になった。前回準優勝のクロアチアと前回3位のベルギーに加えてアフリカでも屈指のタレント軍団であるモロッコと難しい組ではあるが、予選突破が悲願であり快挙だったカナダに失うものはない。

次なる悲願であるW杯初勝利、そして躍進へ。カタールでのカナダの躍動に期待したい。



2位 メキシコ 8勝4分2敗 勝ち点28

めきしこ

漂う「停滞感」は杞憂なのか、それとも・・・

8勝4分2敗は首位カナダと同じ数字で、改めてFIFAランキング9位の名に違わない力のあるチームということは証明した。
しかし、その内容にどこか物足りなさもあった。上位を争ったカナダとアメリカには共に1分1敗と勝つことができず、手堅く勝ったというよりは終わってみれば僅差で勝ったという試合が多かった。

攻撃陣にタレントが揃う割にはチームとして17得点は、世界的にも強豪であるメキシコにしてはちょっと物足りなく感じる数字で、エースであるラウール・ヒメネスも怪我があったとはいえ3得点は寂しい数字。
しかし逆に守備面では、DFセサル・モンテス、MFエクトル・ヘレーラ、MFエドソン・アルバレスらが予選のベストイレブンに選ばれるなどポジティブな要素も多かった。

W杯ではグループCに入り、アルゼンチン、ポーランド、サウジアラビアと同組になった。実力的にサウジアラビアに勝利することは絶対条件として、ポーランドアルゼンチンのどちらかに勝てるかがグループリーグ突破の肝となる。今予選で誇った堅守が通じないようだと、1994年アメリカ大会から続く連続決勝トーナメント進出(いずれもベスト16)が途切れかねない。

目標はベスト8以上。その達成のために、経験豊富なジェラルド・マルティーノ監督はどのようにしてW杯に挑むのか。選手は世界を相手に戦えるタレントが揃っているだけに、予選で本調子ではなかった攻撃陣の復調も絶対条件だ。


3位 アメリカ 7勝4分3敗 勝ち点25

あめりか

”黄金世代”がその真価が問われるのは、本大会

昨年の時点で既にW杯での躍進も期待されていたヤングタレント軍団・アメリカも、終わってみれば「ギリギリ」での通過だった。最終戦でコスタリカに敗れ勝ち点で並ばれるも、得失点差という『貯金』に救われた。

ホンジュラス戦や、ホームでのパナマ戦のように得点を重ねて勝利したかと思えば、敗れるときは点が全く取れないなど調子の波があった。それは若いチーム故の宿命なのかもしれないが、期待されていたほど圧倒した感じもなく、またジョバンニ・レイナセルジーニョ・デストなど度重なる故障者にも悩まされなかなかベストなチームを組めなかった。
選手個人で見てもウェストン・マッケニーがプロトコル違反を犯して代表を一時追放されるなどケチがついた部分もあったが、それでもクリスチャン・プリシッチが若きエースとしてチームを牽引し予選突破に大きく貢献した。

W杯ではグループBに入り、イングランド、イラン、欧州プレーオフの勝者(ウェールズかスコットランドかウクライナ)と同組になった。飛び切り難しい組というわけではないが、かといって簡単な組でもなく難敵揃いだ。成長著しいイングランドとアジア屈指の攻撃陣を誇るイラン、どこが来てもダークホースと成り得る欧州プレーオフ勝者と、勝ち点を計算できる相手はどこにもいない。

チームを率いるグレッグ・バーハルター監督は、代表監督としての経験は浅いものの選手として2002年、2006年のW杯を経験しており、世界の舞台で戦う難しさを痛感しているハズ。来たる本大会までにチームの骨格をしっかり整えたいところだ。


4位 コスタリカ 7勝4分3敗 勝ち点25

こすたりーか

蘇った堅守速攻 怒涛の追い上げで大陸間プレーオフへ

正に「大逆転」だ。折り返しの7試合の段階で1勝3分3敗と苦しんでいたチームが、後半7試合を6勝1分と怒涛の追い上げを見せ、途中まで4位を守っていたパナマを逆転し大陸間プレーオフ出場権に滑り込んだ。3位のアメリカには得失点差で届かなかったが(3位になるためには最終戦でアメリカに6点差で勝つ必要があった)、昨年の状況を考えれば十分御の字だ。

今回の予選のコスタリカはとにかく点が取れないことに苦しんだ。攻め込まれつつも守護神ケイラー・ナバスを中心に何とか守って勝ち点1を拾う展開が続いていた。ジョエル・キャンベルヨハン・ベネガスら攻撃陣がなかなかゴールを奪えず、ベテランのブライアン・ルイスセルソ・ボルヘスらが気を吐いていた状況が続いていた。
ところがジュウィソン・ベネットら若手が台頭し始めた後半戦は、コスタリカの武器である堅守速攻が冴えわたり、虎の子の1点を守り切って勝利を重ねていった。

大陸間プレーオフの相手はニュージーランド。昨年の東京五輪でも日本を苦しめた難敵で、2010年大会を知るクリス・ウッドウィンストン・リード、欧州の強豪からも熱視線を浴びる若手リベラト・カカーチェなど経験と若さが入り混じる好チームだ。「カタールでの一発勝負」というのも、どういった影響をもたらすのか気になるところ。

コスタリカを率いるコロンビア人のルイス・フェルナンド・スアレス監督は過去にエクアドル(2006年W杯)、ホンジュラス(2014年W杯)をそれぞれ本大会に導いた実績のある指揮官だ。
達成すれば史上3人目となる、異なる3ヶ国を本大会に導いた監督となれるのか。


5位 パナマ 6勝3分5敗 勝ち点21

パナマ

「強豪達と出場枠を争った」という、大きな”成果”

連続出場の夢は叶わなかった。予選途中までは4位をキープしていたもののコスタリカの猛追に飲まれ、13節にアメリカに大敗しカタールW杯出場の可能性は途絶えた。とはいえ勝ち点21という結果は決して悪くなく、戦えるチームだということを証明した。

チームとして得る物も多かった。前回W杯出場に貢献したベテランの多くが代表を去り、新たなチーム作りを強いられたパナマは最終予選が始まるまで苦しみ続けた。そのぶん各ポジションで選手が台頭し、選手層は以前よりも増した印象だ。
前回の予選で堅守速攻を軸とした守備的な戦いをしていたのとは対照的に、トーマス・クリスチャンセン監督の下ではボール支配率を高める攻撃的なスタイルへと変貌し最終予選ではロランド・ブラックバーンセシリオ・ワーテルマンらが得点を稼ぎ、チームで17得点を挙げていった。そのぶん失点も増え、マイケル・ムリージョアンドレス・アンドラーデなど守備陣にタレントを揃えながらもワースト3位の19失点と課題もあった。
また、「あと1点さえあれば」という試合が多く、試合を決めきれない点も今後の改善点だ。

これからは2026年のW杯を目指すチーム作りをしていくことになるが、トーマス・クリスチャンセン監督を続投させるのか、はたまた他の監督を就任させるのか(過去にコスタリカをW杯ベスト8に導いたホルヘ・ルイス・ピント監督を後任にするという噂も)、決断を協会は迫られている。
近年の成長を止めるような選択さえしなければ、2度目の大舞台はそう遠い場所ではないかもしれない。果たしてパナマはどの道を歩むのか。


6位 ジャマイカ 2勝5分7敗 勝ち点11

じゃまいーか

協会と選手が一体にならなければ、W杯返り咲きは望めない

「まさか」よりも「またしても」だ。今予選カリブ海唯一の生き残りにして、同地区随一のタレント軍団のジャマイカだったが、終わってみれば「今まで通り」の結果に終わってしまった。順位こそ6位とは言え、5位のパナマと10ポイントも差をつけられてしまった。

今回のジャマイカ代表の目玉の一人であるミカイル・アントニオは期待通りの活躍をしてくれた。イングランド代表から鞍替えした彼は3得点を挙げ攻撃に厚みをもたらした。
一方で、もう一人の目玉だったレオン・ベイリーは怪我や所属クラブでの不調もあり、期待されていた爆発的なドリブルは鳴りを潜めた。
チームとしての総得点は12得点とまずまずだが、22失点はホンジュラスに次ぐワースト2位で相手の速攻に苦しむ場面も多かった。

同地区でも抜けているタレントを生かせないのは、協会による監督選定にも問題がある。
現役時代は元代表MFで、2017年のゴールドカップでジャマイカを決勝に導いたセオドア・ホイットモア監督で挑んだ今予選だったが1勝4分3敗となかなか勝てず2021年限りで解任されると、後任にはこちらも元ジャマイカ代表のポール・ホール監督を選んだが1勝1分4敗とむしろ状況が悪化してしまった。結局、ジャマイカ以上に迷走していたホンジュラスにしか勝てなかったのがジャマイカの現状を物語っている。

W杯予選という長丁場を戦い抜くタフさを選手以上に協会がまず身に付けなければ、20年以上遠ざかる世界の舞台には手が届くハズもない。
フィールド上の役者達は揃うだけに、「ジャマイカのサッカー」そのものが進歩しなければならない。


7位 エルサルバドル 2勝4分8敗 勝ち点10

えるさるばどる

差を見せつけられるも、実は大健闘 古豪復活の兆しか

目指していた「40年ぶりの大舞台」は遠かった。とはいえ、近年の低調だった成績他国とのタレントの差を考えれば、惨敗という負けも無くかなり健闘していた内容だった。順位こそ下から2番目だが、次回の予選に向けて悪くない結果だったようにも思える。

足下でボールを繋ぐ組織的なサッカーを展開し、取り分けホームでは1勝3分3敗ではあるもののパナマに勝利し、ホンジュラス、ジャマイカ、アメリカを相手に引き分け勝ち点6を稼いだ。
逆にアウェーで持ち味が発揮しきれなかったのが課題で1勝1分5敗と、迷走していた2チーム(ジャマイカに引き分けとホンジュラスに勝利)相手にしか勝ち点を稼げなかった。
総得点が8とワースト2位の得点力不足が今後の課題だが、オランダ生まれでオランダリーグに所属する新星エンリコ・エルナンデスの台頭を始め、コスタリカ生まれのクリスチャン・マルティネスやアメリカ生まれのエリック・カルヴィージョエルサルバドル国籍を持つ他国出身選手が予選中に代表入りするなど、代表のレベルアップは着実に進んでいる。

エルサルバドル生まれの元アメリカ代表MFだったウーゴ・ペレス監督をはじめ、代表スタッフにはアメリカ国籍のコーチが多く並んでいる点もユニークだ。監督やスタッフの去就が今後どうなるかは不明だが、次回のW杯はアメリカ・カナダ・メキシコで開催される。選手にもアメリカ育ちが多く、自身のルーツでのW杯出場が掛かれば燃えないハズがない。
44年ぶりの大舞台へ、次こそ・・・。エルサルバドルは次回予選のダークホースになるかもしれない。


8位 ホンジュラス 0勝4分10敗 勝ち点4

ほんじゅらーす

泣き所からチーム崩壊 監督交替も火に油を注ぐ結果に

過去3度のW杯出場を誇り、前回予選も大陸間プレーオフでオーストラリアと争った中米の実力国が、あまりにも残酷な結果を突き付けられた。14試合で1度も勝つことができず得点と失点で共にワーストの数字という大惨敗となってしまった。

守備陣のタレント不足が深刻で、かつてW杯に出場していた時はイサギーレやベルナルデスなど欧州への移籍を果たしたタレントを揃えていたが、現在の守備陣はほとんどが国内組で国際経験が少ないメンバーが多い。経験豊富なマイノル・フィゲロア精神的にも支柱とは言えど、38歳と大ベテランとなった彼からディフェンスリーダーの座を奪う存在が台頭しなかったのはあまりにも寂しい。

アルベルト・エリス、アンソニー・ロサーノ、ロメル・キオトら同地区屈指の強力攻撃陣を擁してはいたが、迷走を続けるチームでは彼らさえも生かすことはできなかった。
3分3敗となったところでウルグアイ人のファビアン・コイト監督が解任され、前回W杯でパナマを本大会に導いたコロンビア人のエルナン・ダリオ・ゴメス監督を招集したが、むしろチーム状態は悪化し1分8敗とチームは完全に泥沼に沈んでいった。

予選後にゴメス監督も退任となり新たなチーム作りに着手しなければならないが、前線以外のポジションの層は薄く課題は山積だ。
東京五輪に出場した若手もなかなか台頭が乏しく伸び悩んでいる印象だが、この逆境を跳ね除けられるタレントは果たして現れるのか。
ホンジュラスが、ここ近年には無かった苦境に立たされている。



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