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ばんさいちゃんねる うらばなし │ 仮面の秘密
ばんさいちゃんねるのキャラクターが持っている仮面。実はこの仮面にはとある秘密が隠されています。それは貧乏万斎にとって大事な記憶を司るものであり、また同時に彼にまつわる秘密があるのです。それには先ず彼の生い立ちから語らねばなりません。
ものがたりのはじまり
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私たちが暮らしているこの世界とは違う、どこか別の場所がある。似ているようでどこか違う、そんな世界が幾つもあります。今回のおはなしは数ある世界の中でも私たちに少し似ている場所です。
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その世界に住んでいた住人は私たち人間の姿に似ていましたが、私たちの世界でいう「うさぎ」のような外見をしていました。霊長類のような頭脳とうさぎのような耳を持っていたのです。
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彼らはとても臆病な性格をしていましたが、文明レベルは現在の地球とは比べ物にならないほど発達していました。残された文明の課題としてエネルギーの供給だけが彼を悩ませていました。遠大な文明を維持するにはそれと同じくらいのエネルギーが必要なのです。
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そこで彼らは自身の特性を利用して感情によってエネルギーを生み出す技術を編み出しました。後に「生体電池」と呼ばれる大きな心臓を持った生命を造り、街の中心にドームを建造しました。感情の爆発によって生まれるエネルギー生成は自然の生態系を乱さないクリーンな発明として称賛を受けました。
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愛や喜び、笑いや感謝をもとに感情を爆発させ、その際のエネルギーを様々な動力に接続しました。結果として彼らの文明は永遠とも言えるエネルギー源を入手し、更なる発展が期待されました。大きな心臓と大きな体、巨人とも言えるその命こそ、のちに貧乏万斎と名乗る存在の始まりだったのです。
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巨大な体に成長することを想定された為、街の中心に大きなドームが建造されました。その中に生体電池のはじまりである命のもとが造り出されたのです。人工的に造られた受精卵は大人の何倍もの大きさでした。暗いドームが胎盤となり、あらゆる知識がその球体に注がれました。
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長い年月をかけて殻が融けると待望の命が姿を現しました。それはどの動物とも変わらない赤ん坊の姿でした。彼らはその赤ん坊にまた長い時間をかけて少しずつ成長を促します。外に出さず、安全な暗い部屋の中で手間と愛情をかけて、それこそ我が子のように慈しみながら育て上げるのです。しかしそれは自由を与えないということでもありました。
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知識という栄養の他に生体電池の核となる感情の育成にも力が入りました。とある科学者の女性が代表して母親のように接することで自我の形成を助けるのです。巨大な赤ん坊は自我に目覚めるまで小さな母親を慕っていました。意味がわからなくても母親が読み聞かせる絵本が大好きでした。そしてそのやり取りは母親にとってもこれからの予行演習となりました。
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年月が経ち生体電池はすっかり大人(成体)になっていました。愛情を注がれ、清く、素直で聞き分けの良い性格のまま巨大な体を保っています。暗いドームの中に閉じ込められても自分の使命を理解し、受け入れていました。感情をもとにエネルギーを生成する実験も順調に進められています。
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この頃になると成体電池の周りをうろちょろする子供がいました。母親代わりになっていた科学者の娘です。年月は本当の子供を授かるまで経っていました。元気いっぱいな娘は大きな体を持った生体電池に興味深々です。生体電池の周りを走り回ったり、母親の言いつけを無視して夜中に遊びに来たりしました。生体電池はそんな妹を諭しながらも喜びを隠せませんでした。
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科学者の娘と生体電池のふれあいはお互いに成長を促しました。その場から動けない生体電池は娘を通して外の景色や情緒を学びます。代わりに娘は宿題の手伝いや家族の愚痴を生体電池に受け止めて貰います。ちょっと口の悪い娘でしたが、お陰で生体電池は家族の愛を感じられました。徐々にエネルギーの効率が上がっていることに科学者たちは驚きましたが、娘とのやり取りが発覚すると納得して公式に接触することを認めました。
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ある日、娘の顔に痣が出来ていたことを生体電池は見つけました。それはいつもより自分のもとにやって来る日が減り始めた頃でした。痣の理由を聞いても娘は努めて平静を装って、転んで怪我をしたとだけ言い残してすぐに帰っていきました。その痣が事故で出来たものではないと生体電池は気付きましたが、それを確かめる術はありませんでした。後に科学者たちが小さな声で娘の両親が離婚してしまい、それ以来 親子の仲が上手くいっていないのだと囁いていたのを聞いてしまったのです。
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科学者たちは頭を悩ませていました。今まで効率的にエネルギーを生成していた生体電池でしたが、ここに来て極端にエネルギーの生成率が落ちてしまっていたのです。その原因は娘にあるとわかっていましたが、無理に娘を連れ出す訳にもいかず困り果ててしまっていました。文明の灯りを殆ど生体電池に任せていたこともあり、街はたびたび停電に見回れました。
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いよいよ旧来のエネルギーを本格的に戻すほど生体電池の働きは落ちてしまっていました。娘もまるで姿を現さず、生体電池はほとほと弱っていました。娘の代わりに別の科学者やその家族が顔を見せるものの、生体電池の不安や寂しさを紛らわせることは出来ませんでした。そして生体電池の心は萎み、終いには休眠に入ってしまいました。目を閉じると暗闇になるのに渦のような景色が延々と広がっていました。
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生体電池の眠りは金切り声で起こされました。まだ半分ほど意識が戻っていない生体電池の目に映ったのは科学者とその娘が口論をしている光景でした。二人の怒りや悲しみは頂点に達していて、次第に取っ組み合いを始めてしまう程でした。生体電池が眠っている場所はとても高い場所にあり、ぼやけた視界に娘が過ぎると、
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生体電池の足もとには小さな赤い花が咲きました。寝ぼけた頭ではそれが何なのかまだわかりません。これまで聞いたことのないような金切り声が生体電池の頭を叩きます。そして花びらが開き切り、それが何であったか認識すると、止めどない感情の濁流が心の底から飛び出しました。
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これまでとは比べ物にならない心の爆発。負の感情が生体電池を完全に理解の外に追いやり、際限なくあふれ出したエネルギーはあらゆる物を消滅させていきました。これまで培った文明やその歴史、未踏の星々やまだ見ぬ宇宙の果てまで衝撃が広がっていきました。
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この日、数ある世界のひとつが完全に消えてしまいました。取り残されたのは生体電池と呼ばれた小さな光だけ。果てのない暗闇の中でぽつりと燃えています。もう誰の声も聞こえない。代わりに生体電池の悲しむ声だけがしとしとと流れていたのでした。
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長い、長い時間が流れました。暗闇の中で生体電池はずっと一人、悠久とも呼べる時の流れに身を任せていました。その間ずっと後悔と自責の念が自身を傷つけていました。
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その内に心が擦り切れてしまった生体電池は防衛反応のように自身の心を二つに分け始めました。喜びや慈しみといったプラスの心、それは生体電池が夢見ていた正の感情。悲しみや怒りといったマイナスの心、それは生体電池が思い描いていた負の感情。やがてその分断された二つの心は善と悪という色を持ち始めていました。
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そして一方で生体電池はこの暗闇から解き放たれたいと渇望していました。産まれたときから自由のない一生だったこともあり、その気持ちは時が経つにつれて深く深く胸を打ちました。やがてそれは正と負の感情の間に形をともし、どちらにも縛られない意思となっていきました。そして二つの感情にはない個性、後に女となる性別が生まれました。
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三つの意思が膨れ上がった頃、暗闇の世界に亀裂が生じて初めて光が差し込みました。その瞬間、悪の意思と自由の意思はひとりでに光の向こうに飛び出していってしまいました。しかし残った善の意思は暗闇の世界に留まっていました。それはもう自分の中には反発も希望も残っていなかったからでした。ただ後悔と悲しみだけが取り残されています。
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善の心、生体電池の核である最後の存在に語りかける人影がありました。それは数多の世界を監視する存在たちでした。一つの世界が消滅してから今日までずっとこの暗闇を注視していたのです。本来であれば一世界を消滅させた存在は危険視され、他の世界に影響を出さないよう封印される定めにありましたが、訪問者の一人が生体電池に問いかけました。
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「あなたはこれからどうしたい?望んでいたあなたの願いはもうどこかに行ってしまった」生体電池は言いました。「わからない。私がしてしまったことは変えられないし、心は今でも張り裂けそうだ」「あなたが過去の過ちを悔いるなら、償うべきではないのか?」生体電池はその通りだと思いました。「あなたが望むなら、償うための体を授けましょう」訪問者の手が生体電池の光に触れると、光は徐々に中心に集まって人間の姿を形作りました。
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Memento Mori: 世界の形見
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暗闇には僅かに残っていた命の残り香がありました。塵よりも小さなその光を訪問者が集めると、やがてそれは星のように煌めきながら一つの仮面となりました。それは生体電池を作り出した住人の骨を形取った姿をしていて、訪問者は過去の戒めとして生体電池にその仮面を肌身離さず持っているよう諭しました。生体電池はその仮面を受け取ると、やっとこの暗闇の世界から抜け出すことが出来ましたとさ。
それから後に貧乏万斎と名乗る生体電池は青い衣を纏って様々な世界に介入し、出来るだけの善行を務めるようになります。実はそのお話には前日譚があり、とある老婆によって貧乏万斎が死に物狂いで心と体を鍛えて貰ったストーリーがあるのです。そう、このときの生体電池はまだ名前を手に入れていなかったのです。それがどのように名乗るようになったのか?それはまた別のお話でお会いしましょう。
つづく
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