人生死ぬまでの充電期間②〜入社して早期退職するまで〜

東京へ引っ越す

 無事大学も卒業し、4月から新入社員となった。大阪の本社で1ヶ月の研修があった。大阪の本社は活気はあまり感じられなかったが、内向的な僕にとっては嫌ではなかった。研修が終わり、配属先が発表された。僕は営業に配属された。そして、勤務地は東京。「東京には可愛い女の子がたくさんいるぞ」。僕の直属の上司となる人がそういった。僕は不安を抱えながら、東京へ引っ越した。

セクシャリティーによる悩み

 東京で勤務しはじめて、僕の不安は徐々に現実のものとなっていった。東京の支社は大阪の本社に比べてかなり活気があった。スピード感や雰囲気はかなり違っていて、もはやこっちが本社のようであった。会社としては、これから営業に力を入れていく方針で、”泥臭い営業”をしていくとも言っていた。
 
 そして、僕は社内の人に顔を覚えてもらうために、色々な部署の飲み会に出席することになる。正直、出席したくなかったが、僕と同じ東京配属になったもう一人の同期が出席するというので、僕は断ることが出来なかった。飲み会では、色々な席にお酒をついで回った。同期は体育会系出身だったので慣れていたが、僕はそういうのがとても苦手だった。そして、僕が一番苦手だったのは「彼女いるの?」「どの部署の子が可愛い?」「いつ頃結婚したい?」と言った会話だった。二十代男性に対してこの質問はごく普通だと感じる人も多いはずだ。しかし、僕は違った。なぜなら僕はLGBTだからだ。つまり僕は同性愛者ということである。
 
 今までも、こういう質問は学校などでも沢山されて来たし、その度に嘘をついたり、誤魔化したりしてきた。それは凄くストレスだったが、なんとかやってこれた。しかし、ここへ来て、社会人になって、社会とは男と女の関係で成り立っているのだと強く感じ、もうやりこなすことは出来ないと感じるようになっていた。特に辛かったのは、上司が数人いる飲み会の席で、彼らが、30代後半で結婚していない社員の方を話題にあげ「あいつはホモや」と笑い者にしていたことである。そして、周りの人も一緒に笑っていた。とても辛かった。自分も将来笑い者にされるのだろうと思うと、一刻も早く逃げたかった。それから僕は会社の人が敵に見えるようになってしまった。
 
 結婚して子供をもつという人生のロールモデルから外れてしまっていた僕は、なんのために働くのかわからなくなっていた。生きる意味さえわからなかった。もちろん、今は結婚しなかったり、子供を持つことが全てではないという考え方に変わって来ているし、LGBTに理解のある社会に変わってきている。しかし、僕の上司たちがそうでなかったのが苦しかった。自分を否定されているように感じた。

自己肯定感が低い内向的な性格

 元々僕は自分に自信がなく、人付き合いが得意な方ではなかった。そのため、営業という職業に苦手意識があった。そしてプレッシャーにも弱かった。

 先輩や上司が営業先に行き、その後飲み会に出席し、休日にはゴルフで接待をする。そして、セミナーではたくさんの人前で話をする。僕も”あれ”をやっていくのかと思うと、凄く怖くなってしまった。出来ないと思ってしまった。やりたくないと思ってしまった。そして、自分で自分をどんどん追い詰めていっていた。真面目過ぎたのかもしれない。夜寝れなくなり、体重も10キロ近く減ってしまった。休日に何をしても楽しくなかった。通勤電車を待つホームで「死んだらダメだ」と毎日心の中で唱えていた。そうしないと、突発的に飛び降りそうだったから。

半年で退職

 そして、僕は試用期間が終わる半年で退職することにした。たくさんの人に相談した。恩師、友達、親。しかし、最後に決めなければいけないのは自分自身である。早期退職して職歴に傷が付くと、再就職に不利なことも知っていた。でも、僕はあの会社で、あと40年近く働くのは嫌だと思ってしまった。そして、僕は辞めるという選択をした。

 引っ越しの準備のために母が地元から駆けつけてくれた。凄く嬉しかったの同時に、情けない気持ちだった。そして、僕の短い会社員生活は終わった。

今になって思うこと

 LGBTの友達やそのことを相談できる人が居たら、もう少し状況は変わっていたのかもしれない。ただ、LGBTの方でも会社に勤め、活躍している人も沢山いる。そういうことを考えると、結局は自分の弱さや考え方に早期退職の原因があると思う。

 自分の苦手なこと、嫌なことから逃げた。あのとき、我慢して続けていたらどうなっていたのだろうか。苦手なことや嫌なことにも挑戦して、克服できていたら、仕事に対しても、人生に対しても、前向きになれていたのであろうか。逃げ続けていても、いつかまた同じ壁に立ち向かわなくてはいけない時が来る。しかし、あの時の自分にできることは、逃げることだったのだろう。

(続く)

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