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【神奈川のこと94】1992.3.23 "Love is here"(横浜市中区/神奈川県民ホール)

Dear My Friend、

思いも寄らぬ素敵なギフトが届いた。

よって、これを書く。

平成4年(1992年)3月23日の神奈川県民ホールには格別の思い出がある。

"See Far Miles Tour PartⅠ 1992"と題した佐野元春 with The Heartlandの3ヶ月にわたるライブツアー。

それは昭和55年(1980年)にレコーディングアーティストとしてデビューした佐野元春が、会社を経営する父の逝去により、その会社の清算のため一年間音楽活動を休止し、再び音楽活動を始めるに当たって行なったツアーである。ニューアルバムを出さずに行なった点で異例であった。

髪を短く切り、ピンク色のジャケットにアコースティックギターという出で立ちが新鮮だった。

当時大学3年生で、時間も金もあったので、3回も観に行った。

ツアー初日の平塚市民センター。久しぶりのライブに元春は戸惑いと喜びを隠せない様子で、ワイルドハーツとロックンロールナイトで演奏を間違えたりしていた。でも会場全体は温かく優しい雰囲気に包まれていて、元春はライブが終わると「また明日、また明日」とステージ上からオーディエンスに何度も手を振った。終了後、会場の外に出ると警察の車が何台か来ていて、拡声器でライブ関係者の車の移動を命じていたことには興ざめした。

ツアー中盤の中野サンプラザホールでは、明らかに元春は苛々していて、演奏に身が入っていないように見えた。コンサートスタッフとの連携が上手く行ってないことが客席から見えてしまい、帰り道、一緒に行った仲間と「どうしたんだろうね?」と心配したもんだ。

そして、ツアー終盤に差し掛かった平成4年(1992年)3月23日の神奈川県民ホール。それまでは4,5人の仲間と観に行っていたが、この日は、親友のひのちゃんを誘って2人だけで行った。入ったばかりのファンクラブを通じて申し込んだチケットは何と前から2列目。胸が高鳴る。よせばいいのに、前に座っていた1列目のカップルに「どうやってチケット取ったのですか?」と興味本位で聞いてみたら、ニヤニヤしながら、はぐらかすような返答をしやがる。その鼻持ちならない態度にデコピンをかましてやりたくなったが、それよりも2列目に興奮して浮足立ったことをした自分に後悔した。

会場は開始前から異様なほどに盛り上がりを見せており、みんなで元春を応援したいと言う熱気に溢れていた。なぜ、あれほどまでにあの時のオーディエンスは一体となれたのか。明らかに前の2回とは違う空気であった。

会場が暗転し、Booker T. & The MG'sの"Green Onions"が大音量で流れると会場の興奮はすでに最高潮を迎え、その後、それが衰えることはなかった。

そして、ライブは間違いなく最高の内容であった。元春も迷いから解放されていたように見えたし、バンドの演奏もグルーヴ感に溢れ、そしてコンサートスタッフとの連携も上手く行っていたように見え、安心した。

アンコールの演奏も全て終わった後、アコースティックギターを抱えた元春が一人でステージに出てきて、ジャスミンガールを歌うと、オーディエンスからの鳴りやまない大きな拍手と声援を受け、手で顔を覆った。そして、「お休み」という一言を残してステージを去った。

県民ホール近くのレストラン「スカンディア」でライブ後の幸せな余韻に浸りながら食事。当時乗っていた赤いユーノスロードスターでひのちゃんを藤沢市の自宅へ送る。

その日は、大学を卒業するひのちゃんとの別れの日でもあった。3年間一緒にやってきた綾瀬市のTry学習教室での講師を通じて築いた友情といただいたたくさんの恩を返す日。夜の駐車場で、助手席に座るひのちゃんと堅い別れの握手を交わした。

この度発売された「佐野元春 SWEET16 / 30th Anniversary Edition(完全生産限定盤)」 には、この1992.3.23 Live at 神奈川県民ホールの全音源が収録されている。かなり高額だが、向こう3ヶ月の節約を自らに誓って購入。

「あの日」の空気、想いが見事にディスクに刻み込まれている。

県民ホールの駐車場の領収書に刻印された日付と共に。

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