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【神奈川のこと79】ダイヤ改正がもたらす無情と恵み(鎌倉市/JR大船駅)

まいった、まいった。

8:52大船駅始発の横須賀線「上総一ノ宮」行が無くなった。

3月12日のダイヤ改正で無くなった。

皮肉にも、同じ時刻に同じ行先の電車はやってくる。

それは遠く久里浜駅からやってくる。

いつも同じ2人の見知らぬおじさんたちと、一緒に乗っていた。

端っこ美学の法則に従い、私たち3人は三隅に分かれて座っていた。

2人のおじさんたちと、共に描くトライアングル。

平日朝の安定した営み。

それが無残にも崩れ去った。

ダイヤ改正後の出勤の朝、8:46大船駅始発の湘南新宿ラインに乗ってみた。

おじさんたちの内の1人がいた。

平静を装っていたが、きっと、おじさんの心中も穏やかでないはずだ。

昨年のダイヤ改正では、帰りによく利用していた通勤快速が終わってしまった。

JRよ、どれだけ奪えば気が済むのか。

責めるつもりはない。

まるでさまよえる小羊さ。

コロナ下の影響で乗客は減ったまんまだろう。

毎日乗っているので、そのことはよく分かっている。

だから責め立てるつもりなんかないさ。

ラジオからはカウント・ベイシー楽団が、"I Can't Stop Loving You" を奏でている。

反面、恵みもあった。

8:46大船始発の湘南新宿ラインに乗って、渋谷で銀座線に乗り換えてみた。

しんがり車両に乗り込み、端っこの席に腰掛ける。

お洒落で物憂げなジャスミンガールたちが続々と乗ってくる。

車内は一瞬にしてパッと明るく華やぎ、花のような香りが広がる。

ブルーな気持ちが少しだけ癒される。

彼女たちの大半は、隣の表参道駅で降りる。

その後、残り香の余韻に浸るのも束の間、外苑前駅からよぼよぼの老婆が乗ってきた。

覚束ない足取りで、訴えかけるように真っ直ぐこちらに向かってきた。

反射的に席を譲る。

礼を言って座ろうとするが、身体の向きを変えることも一苦労の様子。

支えようと手を差し伸べると、老婆は手首を掴んだ。

その握力は意外にも強かった。

座って眉間にしわを寄せながらじっと目をつぶる老婆。

その中にキリストが、マザーテレサが、映る。

赤坂見附で降りる際、声をかけようかと考えたが、まだ目をつぶっていたので止めておいた。

ダイヤ改正があってもたくましくサバイブする。

何が起きてもしたたかに走り切る。

四旬節は回心の時なのだ。

もうさまよわない、でも、明日もきっとさまようだろう。

無情と恵みが交差するダイヤ改正。

おじさんたちはうまくやれているだろうか。





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